2/51
序章
————その老人は男に語り掛ける。
『……この先の道は文字通り、あなたの人生の分かれ道になっております』
老人は右側の道を指し示す。
『右の道を進むと、あなたは残りの人生を平穏無事に送ることが出来ます。ただし、それは永遠の凪を行くが如き航海です。一切の嵐も無い代わりに、一切の感動や喜びも無い、無味無臭とも言える人生となりましょう』
続いて、老人は左側の道を指し示し、
『左の道を進めば、あなたは大切なものを失います。あなた自身の身体を損なうこともあるやも知れません。しかし、その代わりにあなたはかけがえの無いものを手に入れ、その乾いた心は満たされることでしょう』
ここまで話すと、老人は道の傍らへと身を避けた。
『……さあ、引き返すことは叶いません。苦しみも喜びも無い穏やかな人生か、大切な何かを失う代わりに大切な何かを手に入れる激動の人生か。お好きな方へ進みなされ』
老人の問い掛けに男は暫しの沈黙の後、口を開く。
『……俺は————』