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新世界  作者: ジルジル
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第1話 神宮寺家

~20XX年1月20日 AM5時00分

 日本国 高知県~


 黒髪の細身の少年が6、7畳ほどの部屋で眠っていた。


 トゥルントゥルルントゥルルルン

 トゥルントゥルルントゥルルルン


「っ、んー」


 頭の上に手を伸ばしてスマホを探すがまだ寝惚けているせいか、なかなか見つからない。


 トゥル……


 やっと見つかって俺は迷わず5分スヌーズのボタンをタップした。


「眠ぃ……」


 俺は「神宮寺司(じんぐうじ つかさ)」。天翔(てんしょう)高校2年生の17歳だ。両親に弟が2人、妹が1人の6人家族の長男だ。

陸上部に所属していて来年はもしかしたらキャプテンになれるかもと密かに期待している普通の一高校生だ。


 毎朝5時にアラームかけてるんだけどもうちょっと後にしようかな。とりあえず、5分だけ寝てから起きようと思って、俺はまた深い眠りに落ちた。




 トゥルントゥルルントゥルルルン

 トゥルントゥルルントゥルルルン

 トゥル……


「くぁ~~」


 俺は今度こそ観念して起きることにしたが、そこでもう5時15分になっていることに気づいた。

 どうやら、記憶にはないもののまた2回スヌーズしたらしい。


 あ、やば、明日やろうと思って課題残してたんだった。

 俺はスマホを手に取って、すぐに自室を出て階段を降り風呂場の横を通って、洗面所の前に立ち、急いで顔を洗った。最近暖かくなってきたから、冷水でも嫌じゃなくなってきたな。

 歯ブラシを取って歯磨きをする。いつも10分ぐらいかかるから、毎朝この時間にスマホの通知をチェックしているんだ。

 今日はゲームの通知ぐらいしか無いな~。


 歯磨きをし終えるとリビングに入った。リビングではいつも通り母さんがお弁当を作っていた。


 母さんは「神宮寺愛子(じんぐうじ あいこ)」という名前でもう40半ばのはずなんだが、30半ばでも違和感ないように見える、黒髪を肩の下辺りまで伸ばした細身の人だ。最近は偏頭痛と冷え性に悩まされているらしい。


「おはよ」


「おはよう、司」


 そう一言だけ交わすと俺はカーペットの上に広げてあった、英語の課題に取り掛かった。普通は座ってするんだろうけど、昔から家での勉強は寝転がってするんだよな~。

 母さんが学校のジャージを持ってきた。


「これ、洗っといたよ」


「んー、ありがとー」


 俺はジャージを受け取り、バッグに入れた。


「今日塾あるんだっけ?あるんだったら、夜ご飯ちょっと遅めに食べるから」


「今日はないから早めに帰ってくると思う」


「そう。あ、そうだ、これ先生に渡しといてね。期限今日までだから」


「うーん」


 俺は提出物をファイルに挟み、またバッグに入れた。すると上の弟、「神宮寺爽(じんぐうじ そう)」がやってきた。


 爽は烈冷(れつれい)学園という中高一貫の名門私立校に通っていて、うちの次男だ。高校はそのまま進学するらしく、最近は筋トレにはまっているらしい。


「おはよう、爽」


「……おはよ」


 爽は多分寝惚けてるんだろう。母さんの挨拶の返事に少し間が空いている。

 爽はそのまま洗面所で洗顔を始めた。


 俺はそろそろ着替えようかなと思い、課題を終えてから、俺は自室に戻ってクローゼットから制服を取り出して着替えた。天翔高校のエンブレムである羽が刻まれたよくある黒い学生服だ。まだワイシャツだけじゃ寒いしな。俺は寒がりなんだ。


 リビングに戻ったら朝食が用意されていた。爽はもう椅子について食べているところだった。今日の朝食はトーストにバナナ入りヨーグルト、オレンジだった。


「いただきまーす」


 スマホで動画を見ながら朝食を食べていると、ドンドンッと大きい足音を鳴らしながら俺がこの世で1番嫌いな人物であり、父。「神宮寺豪業(じんぐうじ ごうま)」がリビングに入ってきた。


 豪業は坊主頭の大柄な男で確か40歳ピッタリだったはずだ。高校生の時に空手で全国2位になったことが誇りらしく、今でもそれをたびたび自慢している。怒りの沸点がとても低く、ちょっとしたことで怒るうえに、すぐ手をだすもんだから俺たち子どもからは疎まれている、が本人は全く気にしていない。それでいて外面は良いもんだから、他人からは良いお父さんに見えるそうだ。


「おい、俺の服知らないか」


「昨日そこに脱ぎ捨ててたじゃない」


「あったあった。知ってたなら持ってこいよ、今日は忙しいって言っといただろ」


「服の用意しとけって言っといてくれれば持っていったわよ」


「使えないやつだな」


「あっ、そう」


 相変わらず自己中なやつだ。母さんはもうそんなことは慣れたもので、適当に返している。母さんは豪業を疎んではいないようだけど、面倒には感じてるらしい。


 俺はなるべく関わらないように手早く朝食を食べてお弁当をバッグに詰めた。


 すると今度はトットットッと軽い足音が二重に聞こえてきた。おっ、やっとあの2人が起きてきたな。


「おはよ!」


「……」


 今「おはよ!」と言った方がもう1人の弟「神宮寺拳大(じんぐうじ けんた)」で、無言で部屋に入ってきたのが妹の「神宮寺沙也(じんぐうじ さや)」だ。


 拳大は桜桃小学校に通う小学3年生でとても元気な子だ。朝にとても強くて、ほぼ毎朝同じ時間に起きてくる。サッカークラブに通っていて今日も練習があるらしい。俺がこのくらいの時はもっとのんびり過ごしてたけどなー。


 沙也は桜桃小学校の隣にある、桜桃幼稚園に通う年長さんだ。拳大とは反対に朝にものすごく弱くて、起きてすぐは滅多に喋らないが1時間後には家で1番のおしゃべりさんになるんだ。最近は新しい言葉を覚えて段々ませてきた気がする。


「おはよう、沙也ちゃん、今日もちゃんと起きて偉いな~」


「……」


 豪業が拳大は無視して沙也に話しかけた。沙也にだけはものすごく甘くて見てて気持ち悪いんだよな。普段の俺たちに対する態度からは考えられないし。


「早く、仕事行ったら?毎朝そんなしつこくしたら嫌われるわよ」


「うるさい」


 嫌がる沙也を見かねて母さんが声をかけたが豪業は相手にしなかった。まあいつものことだしもういいか。

 俺は靴を履いて自転車に乗った。


「行ってきまーす」


「行ってらっしゃい」


 俺は家に背を向け、駅に向かった。

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