序曲
soleは太陽の意。
lunaは月の意。
名前は音楽に関係があるものを……と意識していますが、苗字に意味はありません。
この作品は完全なるフィクションです。少しでもお楽しみいただければ満足です。
赤煉瓦の建物が続く美しい街、ソーレ。海に面したこの街には大きな港があり、海外から多くの観光客が訪れる。海でとれた新鮮な魚貝は大変美味で、地元の漁師たちが経営する店はいつも大賑わいだ。
しかし、賑やかなのは市場や多くの店が並ぶ港の周辺のみ。
騒がしい大通りから狭い路地に入り、そのまま進んで行くと、いつの間にか建物の外見は同じでも港周辺とは異なる閑静な住宅街にたどり着く。
先程の大通りよりは広くない道には灰色の板石が敷き詰められていて、左右の建物の間を挟むように続いている。
そこはゆるい坂になっており、一番下から道の端まで見上げれば、その道は青い空へと続いているかのように思える。
そこは人はよく通るものの、観光客があまり訪れないために落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
そんな住宅街に、大きなアタッシュケースを持った、黒いスーツ姿の見慣れない男が現れた。男は空の美しさなど微塵も感じずに足早に坂を上り、そして或る場所で足を止めた。
『Luna』と書かれた古びた看板がかかっている、個人経営の小さな店だ。
いつ開いているのかすらわからないほど気まぐれな店……ということで地元の人間には知られていた。
道に面している方の壁は硝子張りになっているが、薄汚れているために外からは店内があまりよく見えない。
明かりもついておらず、男はどうしたものかと悩んだ末に、試しに店のドアを開けることにした。
男が軽く押すと、それは物音をひとつも立てずに簡単に開く。そのまま中に入り、自分が歩く度に床板がぎしぎしと軋む音を耳障りに思いながら、男はカウンターに置いてあった呼び鈴を鳴らした。
澄んだ音の余韻を聞きながら、男は周りを見渡す。どうやらアンティークを売っているようだ。そう広くはないものの、あちらこちらに年代物の時計や椅子、花瓶などが置かれている。
暫くすると、奥から急ぐ様子もなく店の主人が出てきた。
「こんな古びた骨董屋に、一体何の用がありまして?」
その透き通るような声に、男は身震いした。そして、自分の目を疑った。
艶のある明るいブロンドの長髪、色白で釉薬を塗った陶器のように滑らかな肌。二重で睫毛は長く、空のように青い大きな瞳には思わず吸い込まれそうになる。身長はそこまで高くなく、随分と華奢な身体をしていた。
「いかがなさいました?」
その声に、女主人の美しさに見とれていた男は我に返る。
「あ、ああ……何でもない。私はロンド・ガルエルと言う者だ。ノクターン・ベクトル氏の紹介で来た。まさか貴方が……いや、何でもない」
「驚きました? 皆さん、同じ反応をなさるんです。……そう、わたしが『唯一の生還者』の名を持つカノン・フローレンです」
そう言うと、カノンはどこか悲しみが見えかくれする笑顔を浮かべた。
段落……一マス空けてみました。御指摘ありがとうございました。