第4話「二等級冒険者への昇格」
「おめでとうございます、クローディアさん。これで、あなたの二等級の冒険者になりました。冒険者タグを一度預けて頂けますか?」
あれから、2日、クローディアは2級のクエストを1日に3個づつ受けて、昇格する為の条件を満たしたのだ。
クローディアは、言われるままに受付嬢のアンナに自分のタグを手渡した。
アンナが、丁度タグの収まるサイズの穴の開いた石板の中にそれを入れた。
その石板で、データーが書き込まれているようだ。
最初に、タグが発行される時にも、その石板が使わていた。
しばらくして、タグをアンナが取り出し、それをクローディアに返した。
その表面を見ると、小さな文字だが、等級が2級に書き換えられていた。
その他に、名前と性別などの記載があり、今は空欄も幾つかある。
「二等級に昇格しましたから、もう少しタグの説明をしますね」
アンナが説明を始めた。
「今、タグの色が黒色ですが、これが6等級から銅色、16等級から銀、31等級から金色と変わって行きます。黒が新人、銅が初心者、銀が中級者、金が上級者と言う人も言いますが、概ねそうですね。金色の上もありますが、その辺りまで等級が上がれば、自然と情報も入って来るかと。その上まで達するのは、とても困難ですから。でも、冒険者になったからには、クローディアさんにも目指して頂きたいですね。私も応援しています」
なるほど、タグの色にもそんな意味があったのか。
これで、3級までのクエストを受ける事ができるようになった。
明日からは、3級のクエストを受けよう。
ちなみに、彼女自身のレベルも5まで上がっていた。
寄合所の帰りには、防具屋にクローディアは立ち寄った。
明日からは、3級のクエストに挑戦するので、武器はまだまだ買い替える必要は無いが、防具は揃えておいた方が良いと判断したのだ。
(武器は強化もされているけど、防具の方は何も無いから不安なんだよな。)
武器屋も防具屋も、寄合所の近くにあるから迷う事は無い。
それに、シューレス市の市街のほとんどは、何度か探索もしているので、ほぼ地図も頭の中に入っているのだ。
防具屋の扉を開け、店の中に入る。
この世界に来てから、まだ武器屋にも入った事は無かったが、防具屋も初めてである。
店内には、所狭しと様々な防具が並んでいる。
金属鎧に革鎧、それが何種類もある。
また、盾や部分的な防具もいろいろ置かれている。
「いらっしゃい。おや、随分とべっぴんさんだね。初めて見るが、駆け出しの冒険者ってところかな?」
中年の少し小柄なオヤジさんが、声を掛けて来た。
前掛けにバンダナと、いかにも職人風の出で立ちだ。
今は、店番をやっているようだが、自分でも防具を作ったりもするのであろうか?
「その通りです。何か初心者向け防具、今は鎧だけでもと思うんですが」
「そうかい。今、着ているのが、姉さんの装備かな? なら、まずはレザーアーマーがいいと思うけど、予算によって何種類かあるからこっちを見てくれよ」
店主に誘われて、革鎧が並べられている棚にクローディアは向かった。
確かに、レザーアーマーと言っても、種類がある。
値段が高ければ、それだけ防御力もあるが、予算に上限もある。
店主が、説明を始めた。
安い物からソフトレザーアーマー、普通のレザーアーマー、価格は少しするが丈夫なハードレザーアーマーなどがある。
「レザーアーマーの系統なら、上に部分鎧を付ける事もできるから、それなりに長くは使えるよ。タグの色が銅に変わっても使い続ける冒険者もいる」
ハードレザーは、少々値段が高いので、普通のレザーアーマーを選ぶ事にした。
試着してみるクローディア。
(あれ? 何か、これサイズが一部だけキツイな)
服の上からも着用は可能なのだが、どうも胸の辺りが窮屈で着られない。
店主に手伝って貰うが、やっぱり彼女には着れそうにもない。
「おや? 少しは調節出来るんだけど、姉さんは規格外みたいだな。どれ、明日の朝までに調整しておくから、寄合所に行く前に寄るようにしてれよ」
一応、採寸もして貰う。
「こりゃ、手直ししないとダメだわな。怒らないで欲しいが、その、体の一部が並の大きさじゃないからね」
まさか、巨乳が理由で、防具をカスタマイズしなければならないとは。
普通ならば、別料金だそうだが、初めての買い物だからと調整に掛る費用はおまけして貰った。
レザーアーマー代の10ゴールドをクローディアは、店主に渡した。
店主には、最上級の笑顔で、お礼を言った。
さて、宿に戻るか。
翌朝、宿で朝食を摂ると、真っ先に防具屋へとクローディアは向かった。
「おお、おはよう。防具の調節、できてるよ。それじゃあ試しに着てくれよ」
レザーアーマーは、昨日見た時よりも、胸の部分が大きく変えられていた。
その他にも、背中や腰周りなど、微調整もしてあるらしい。
クローディアは、服の上からレザーアーマーを着用した。
(うん、胸だけじゃなくて、ウエストとかもフィットする。何と言っても、胸の部分が苦しくないのがいい)
革鎧を着て、その場で体を動かしてみる。
鎧の重みは多少あるが、動きが制限される事も無い。
まるで、クローディアに合わせて作られたように思える程だ。
この革鎧は、胴体から腰、それに肩までを覆う防具である。
「胸の部分は、金属の板で上手く保護してあるから、ちょっとやそっとでは型崩れもしないし、防御力も少し高めになっているよ。でも、大事に使ってくれよ」
何だか、サイズを合わせただけでなく、独自のカスタマイズもされているようだ。
これも、オヤジさんの趣味かな?
クローディアは店主に礼を言い、寄合所へと向かった。
今日から、3級のクエストの受注も可能である。
まずは、どんな物があるのかチェックだ。
3級のクエストからは、大型の獣の狩猟などが受注出来るようだ。
獣の狩猟には、弓を使ってみるかな?
ただ、初日からは余り欲張らないでおこう。
それでも、3級のクエスト2つと、2級のクエスト2つを受ける事にした。
3級のクエストは、ワイドホーン鹿の狩猟にウォーターリザード討伐だ。
その他、2級は、今までも受けていた小型のモンスター討伐を選んでいる。
ワイドホーン鹿は、持ち帰る必要があるので、最後にクリアするようにしよう。
クローディアは、街の外へと向かう。
全てのクエストは、周辺の森に行けば達成が可能であろう。
まずは、街の近くの森に向かって進む。
獲物のレベルも上がっているので、今まで以上に深く森の中に入って行く。
幸いな事に、そんな森の中でも感覚が鈍る事が無いので、進む方向を間違える事も無いから街に戻るのにも問題がない。
これは、ステータスに表示されない能力もあるのであろうか?
随分と、深く森の中に来たはずなのだが。
周囲の気配を探るクローディア。
何かを感知する。
木々の間を進んで行くと、(うわぁ~、いたな)
小鹿の肉を食べている大きめのトカゲが2匹いた。
大きさは、頭から尾の先まで2m近く。
人の背丈よりも大きい。
体色は濃緑色で、その牙がなかなかに鋭い。
(こいつが、ウォーターリザードだよな)
ウォーターリザードは、そんなに強力なモンスターではない。
だが、その体力、動きの速さは、初心者冒険者を翻弄する。
死ぬような事はまずないが、たまに大怪我を追う冒険者はいるそうだ。
(相手の方が数が多い。まずは、呪文で数を減らすか)
クローディアが、右掌を1匹の大トカゲに向けた。
「ライトニングスラッシュ!」
雷撃が、ウォーターリザードに命中だ。
だが、油断をせずに、もう1発。
続けざまに呪文を放った。
念の為に、3発目も撃つ。
全て命中し、ウォーターリザードが痙攣して倒れた。
もう1匹が飛び掛かるようにして向かって来たが、クローディアはそれを避ける。
避けながら、ショートソードを抜き放つ。
それで、噛み付こうとするウォーターリザードを切る。
これも、一撃では倒せない。
数回、そんな事をした。
大トカゲの尻尾振りも裂けると、素早く一撃を加える。
何度か切り付けている内に、2匹目の大トカゲも地面に倒れた。
死んだ大トカゲから、魔石を抜き取る。
もう、この作業にも慣れて来たものだ。
ウォーターリザードの討伐数は、最低で3匹なので、まだこいつらを探し求めないと。
また、森の中に踏む入って行く。
森を歩き回り、クローディアはウォーターリザードを5匹討伐した。
これで、このクエストは、終了して良いであろう。
次は、ワイドホーン鹿の狩猟である。
これは、1頭だけで良いのだが、1人で狩るのは少々大変そうだ。
クローディアは、弓を手に持ちながら、探索を始めた。
相手は角の大きな鹿である。
なので、森の中でも余り木々が密集した場所にはいない相手であろう。
実際に、ワイドホーン鹿に出会った時には、クローディアは少々驚いた。
その名の通りに左右に大きく張り出した立派な角。
それは、雄の証のようで、雌は幾分か小さいらしい。
背の高さは、2mを越えるが、それでも雄としては少々小振りなようだ。
こんなに大きな動物を、檻の外で見るのは初めてであった。
(サラブレッドよりも体は一回りは大きい上に、あの角があるから)
これ程に、大きな獣を狩れるのかは不安はあったが、まだ気付かれていない内に矢を放つ。
連射矢で、3本の矢を立て続けに放ち、全矢を命中させる。
すると、逃げるかと思った鹿が、こちらに向かって来た。
「うわっ! 何だよ」
女性に似つかわしくない声が、思わず出てしまった。
慌てて、その突進を避けたが、これからは、弓は使い難い。
クローディアは、弓から短剣に持ち替えた。
そして、その突撃を避ける瞬間に切り付ける。
5回程切り付けたところ、ワイドホーン鹿が逃げようとした気配がした。
(これは、マズイ)
慌てて、ショートボウに持ち替えると、矢を連射した。
連続でその体に屋が突き刺さった。
流石の雄鹿も、それだけの攻撃を受けては堪らない。
どうっと、大地にその体を横たえた。
近付いてみると、まだ息があったので、短剣で止めを刺す。
さて、どうしたものか。
大物を仕留めたが、これをどうやって街まで持って帰るのか?
脚をロープで縛って、これを引き摺ろうとしたが、少し引っ張るだけで限界だ。
これで、街まで戻ろうとしたら、朝まで掛っても運べないのでは?
試しに、バックパックの口を限界まで広げてみると、なんと入って行く。
(こんな、大きな鹿まで入れられるのか?)
中に入れてしまえば、重さなどは感じない。
背負ってみて、体を少し動かしてみたが、軽いもんだ。
クローディアは、街に向かって歩き始めた。
街に近付いて来ると、森の中でも他の人に出会う事が幾度かある。
それは、皆、15歳位の少年らで、少数だが少女も混ざっている。
ほとんどが、数人で固まり、薬草などを積んでいた。
服装は、簡素だが、作業などをするには適しているようだ。
皆、木の棒や棍棒で、武装は一応している。
最初は、クローディアには、街の少年らが森で薬草を集めてる程度にしか思わなかった。
だが、後で彼等も冒険者である事を知った。
家が、余り裕福ではなく、実家で働き場の無い者の中には、冒険者になる者もいるのだ。
そんな彼等は、早い者で14歳位から働き始めるそうだ。
彼らは、初めは余り資金も無いので、装備も整ってはいない。
故に、モンスター討伐などの危険な依頼は受けずに、薬草集めなどを主体に活動しているようだ。
当然、そんな依頼では、報酬も少なく、また昇級も望めない。
そんな初心者に留まっている者らが、街には数十人はいるそうだ。
彼等の中で、効率良く稼げた者だけが、装備を揃え、上の等級へと登って行くという。
冒険者の実情も、なかなかに厳しいものなのだ。