第28話「魔法の街」
拠点をマンディウムの街に移した、クローディアとテルンテ。
今、街の寄合所で、受付のアンジェにいろいろと聞いていた。
「お望みの宿でしたら、『プリンセス・マンディウム』は如何でしょう? まだ出来てから数年しか経っておりませんが、なかなかに評判の良い宿です。女性の方でしたら、このプリマンで問題無いかと」
その略称が気にならないでもないが、悪くなさそうだ。
宿の次は、魔法屋や魔法教室の事を聞いてみた。
「魔法屋は、それぞれ得意な分野もありますから。呪文が多いのは『アンテルの店』、魔道具の多いのは『ディーセルの店』ね。魔法を習うなら、この寄合所でもやってるから。それと、魔法の武具は、武器屋や防具屋で売っているわ」
魔法の教室の事を知りたいので、その係にも聞いてみた。
教室は、毎日やっているが予約制らしい。
ならば、しばらく週に一度、魔法を習いに来る事とした。
クエストを受けるのを週5日にして、1日を魔法教室、1日を休みにした。
教室の予約を入れたら、今日はクエストを受けるつもりはないので、宿に向かう。
アンジェに教えて貰った「プリンセス・マンディウム」にクローディアらは着いた。
確かに、まだ真新しい宿で、建物も奇麗だ。
2人はロビーに向かう。
二等部屋で、1人80シルバー。
夕食、朝食が付いて、この値段だ。
男女別の共同浴場も利用出来る。
本当は、2人部屋の方が割安だが、別々の部屋にした。
クローディアもテルンテも、互いに相手が嫌だという訳ではないが、1日中顔を合わせたままも良くはないであろうと、部屋を分けたのである。
因みに、二等の2人部屋ならば、140シルバーになるそうだ。
部屋に入ってみたが、中もまだ新しく、清潔なのが良い。
隣同士の部屋なので、安心でもある。
荷物を置くと、2人は街の散策に出掛ける。
服装は普段着に着替え、武器はナイフを1本だけ所持している。
「どこに行きたい?」
「やっぱり、魔法屋ですね。それも呪文が買える所がいいです」
全体的に街を見て歩きたいが、まずは魔法屋で呪文を買う事にした。
先程、アンジェに教えられた「アンテルの店」に向かう。
黒い屋根に黒い看板、それが魔法屋「アンテルの店」であり、2人は中に入って行く。
出迎えたのは30代半ばの女性で、鮮やかな緋色の長衣を着ていた。
彼女の名前がアンテルだそうだ。
勿論、彼女も魔術師だ。
「こんにちは。こちらは呪文専門の魔法屋でございます。どんな呪文をお求めでしょうか?」
呪文は、このようにして、店で買う事も出来る。
呪文を記したスクロールを購入し、それを読み込めば修得である。
その他に呪文を取得するには、師匠に弟子入りしたり、学校で習ったり、どこかでスクロールを入手するのが基本である。
また、呪文をよく使っていると、新たな物を閃く事もあるそうだが、その確率は非常に低いと言われている。
テルンテは、風と地の属性の資質があるのだが、まだ呪文を知らない。
なので、初級の2つの属性の呪文を買う事にしている。
選んだのは、風属性では、ウインドスラッシュとライトニングスラッシュを。
地属性では、グランドウォールとストーンボールだ。
主に、攻撃呪文を選んだようだ。
クローディアも、今まで使っていなかった、属性の初級呪文を買う。
地属性のグランドウォール。
水属性のアクアカッター。
闇属性のダークアロー。
この3つである。
初級の呪文は、どれも1つに付き3ゴールドであった。
これで、2人の使用出来る呪文が増えた。
後は、寄合所で魔術を学び、実際に呪文を使っていれば、能力が伸びて行く事であろう。
魔法も、武器と同じく使う事により熟練度等が上がる。
「クローディアは、全属性が使えるんだね」
「まあ、そうだね」
魔法の属性は、6種類あるが、その全てが使えるのは稀な存在なのである。
「凄いな~。わたしは、2つしか使えないし、故郷の町とかに魔法屋が無かったから、今、初めて呪文を覚えたのに」
今日は、魔法はこの辺にして、街中を見て回る事とした。
武器屋や防具屋、それに食べ物屋や服屋などに、他の魔法屋も場所を確認した。
この街は、クライアットの町どころかシューレスの街よりも、遥かに店などが充実している。
街の散策でも時間が必要であろう。
今日は、街を軽く見て歩いて、たまたま見掛けた店でお茶を頂くと、2人は宿に戻った。
翌朝、クローディアは宿で朝食を食べると、テルンテと寄合所に向かう。
今日は、クエストを受けるのではなく、魔法の教室で学ぶ。
クエスト関係は、建物の1階だが、教室は3階にあった。
因みに、寄合所の2階は、様々な事務手続きをする係や、資料室がある。
3階には、魔法の教室以外に会議室などがあるそうだ。
教室も何部屋かある。
受付で聞いておいた部屋の扉をノックした。
「どうぞ。お入りください」
扉を開けると、机が幾つか並び、1人の女性が中にいた。
灰色の長衣を着た、魔術師風の人間族である。
年齢は、30代前半であろうか?
長い茶髪を後ろで束ねた、なかなかに美しい人物である。
「初めまして。私は、こちらで魔法を指導しているティムルと申します。よろしくお願いします」
クローディアとテルンテも、挨拶と簡単な自己紹介をした後に、ティムル先生の向かいの席に座った。
教室では、4~6人程の受講生が同時に講義を受けられるようになっている。
先生の話だと、1つのパーティー単位で受講する事が多いそうだ。
まずは、クローディアらが、どの属性の魔法が使えるのか、どの程度の熟練度があるのか聞かれた。
「そうですか、クローディアさんは全属性取得能力をお持ちで、テルンテさんは反属性取得能力をお持ちですか。珍しい能力をお持ちの方同士で、パーティーを組んでいるのは、凄いですね。既にご存知かと思いますが、魔法の属性に付いて簡単に説明します」
先生は、魔法の属性に付いて語り始めた。
この世界にある魔法は、6つの属性に分類される。
それは、火、風、地、水、光、闇の6つである。
そして、各属性には、反発する属性が1つづつある。
火と水、風と地、光と闇が、それぞれ相反する。
基本的には、反発する属性の魔法を修得は出来ない。
だが、特殊な能力を持つ場合や、その為の魔道具を装着すれば、その影響を受けない。
クローディアの場合は、魔道具の補助無しに、6つの属性が使える。
そして、テルンテの場合には、本来は反発する為に、修得が出来ない風と地の2つの属性が使えるのだ。
「全属性は、10万人に1人とも言われていますし、反属性は百人に1人の才能ですよ。それに、反属性の場合、使える属性は2つだけですが、その才能は伸び易いとも言われてますので、今からでも優秀な使い手を目指せるでしょう」
因みに、先生は、四属性取得能力で火、風、地、水の4つの属性が使える上に、魔道具で光属性の魔法も使えるようにしてあると言う。
この四属性取得能力は、5百人に1人の割合だそうだ。
「5つも属性を育てるのは大変なんですが」
この世界で、魔法を使える者は多い。
冒険者や兵士などにならない、一般民でも使える者も大勢いる。
魔法が全く使えない者は、2割程で、残りは何かしらの魔法が使える。
魔法が使えない者でも、他の者が作ったり調整した魔道具が使えるので、魔法が様々な場所に応用されているこの世界で不自由する事も無いのだが。
魔道具は、魔法を使えない者らを補助する物という側面もあるのだ。
「それでは、魔法を使う為の基本をやって行きましょう。お2人が出来ている所は省略して行きますね」
まずは、魔法を使う為の集中の仕方を学ぶ。
女神ヨシコのチュートリアルで、以前、クローディアが苦戦した奴である。
だが、テルンテは、流石にこの世界の住人であるからか、そのコツを短時間で掴んだようだ。
それからは、魔法の文字や意味を習って行く。
これを覚えておけば、スクロールが読める。
2人共、それなりに魔法文字に付いて、既に知っていたので、 ティムル先生の講義はさくさくと進行して行く。
直ぐに、2人は初級に使う魔法文字を全て習得した。
「優秀な生徒さん達で、教え甲斐がありますね。では、少し応用で、中級の呪文で使う物を教えておきます」
これは、先生の趣味も混ざっているのかもしれないが、いずれ学ぶ事である。
2人は、それも幾つか覚えた。
「うんうん、優秀です。お2人共」
先生も満足なようだ。
「では、実際に魔法を使ってみましょうか?」
ティムル先生に連れられて、寄合所の裏庭へと移動した。
何も無い空き地ではあるが、離れた場所に何本か丸太が立てられている。
その丸太を指差して、先生が説明をしてくれた。
「あの丸太を目掛けて、呪文を発動させてみましょう。どの呪文を使うかは、好きなようにしてください。丸太には、魔法の耐性を持たせてありますから、多少の事なら大丈夫ですが、出来れば壊さないように」
まずは、テルンテが詠唱を始めた。
昨日、魔法屋で購入した、風と地の呪文を1つ1つ試して行く。
どの呪文も、問題無く発動出来た。
今まで呪文を知らなかった彼女だが、ちゃんと使えている。
その成果に、先生も満足気である。
続いて、クローディアが詠唱を始めた。
使う呪文は、同じく昨日、魔法屋で購入した今までに使った事のない属性の物である。
少々勝手の違いを感じるが、これも問題無く発動出来た。
これで、クローディアは、6つの属性の魔法が使える事が確認できた。
その様子に、先生も頷いている。
「後は、鍛錬です。次回から、魔法の効率の良い使い方とか、魔力の維持法などについて教えましょう。また、何か疑問があれば常に受付てますから、声を掛けてくださいね」
2人は、先生に礼を言って別れた。
テルンテは、魔法が使えるのが確認出来たのが嬉しいようで、鼻歌まで出ていた。
「わたし、魔法を使えるようになるのが、夢だったんですよね。使えるのは解ってましたが、今まで縁が無かったですから」
「これから、クエストでも、積極的に使って行こうね」
「はい、そうですね」
この街に来て良かった。
2人は、そう感じていた。