◇チュートリアル2・弓と魔法
ショートソードに盾の扱い方も、俺は取得した。
「今度は、弓の稽古ですね」
短剣と円形盾が消えると、今度は左手に弓を持ち、体に胸当てが着くと、背中に矢筒のような物を背負った。
またもや、弓の扱い方のイメージが頭に浮かぶ。
それを元に俺は、矢を1本抜き出すと、弓に番えた。
目の前、30m程の距離に、的が出現した。
それを目掛けて矢を放つ。
1発目は、的に掠りもしない。
だが、何度も繰り返し矢を撃っていると、的に当たり始めた。
矢は、無限に矢筒から出て来る。
繰り返し射る内に、ほぼ、的に命中するようになっていた。
矢が何本も当たった的は消え、今度は、少し離れた場所に新しい物が現れた。
これも、何時間、練習していたのか解らないが、最終的に100m先の的にも余裕で命中できるようになっていた。
「さて、弓も大分、上手くなりましたから、今度は射撃の技を伝えましょう。」
今度、浮かんだ技は、これだ。
「連射っ!」
素早く、2発の矢を連続で撃ち出すと、2本共、的に命中した。
「これは、文字通りに、矢を続けざまに撃てる技です。これも、弓などを極めれば、連射できる矢の数が増えます。弓の技も、使い続ける事で閃く事があるでしょう」
俺は、しばらく弓を射続けた。
連射も、3連続で矢を放てるようになっている。
終いには、自動でランダムな動きをする的にも、それなりの確率で命中させる事まで出来るように上達していた。
「弓も、これで一先ず良いでしょうね。他に習いたい武器はありますか?」
体験的な意味で、両手剣、刀、槍の使い方も一通り習った。
「ああ、それと女の子になるんですから、これも伝授しておきましょう」
そう言うと、格闘技とナイフ(小剣)の使い方まで教えてくれた。
「これらの技能は、護身術にも応用出来ます。これから行く世界も、女性の身は残念ながらそんなに安全ではありません。あなたも隙を見せてはいけませんし、その対処法も心得て欲しいのです」
うん、至れり尽くせり、ありがたい。
ほとんど、休み無しに様々な武器の扱い方を教えて貰っていたが、体感、3ヵ月くらいは掛かった気がする。
随分長く、武器を習っていたようだ。
その修得も、ほぼ出来たと思う。
「さて、今度は、魔法を教えますね。希望するような魔法はありますか?」
それは、攻撃呪文と回復呪文だろう。
あと、他に、身体能力を上げるとか、防御力を上げるとか強化呪文もあるといいな。
「全てを教えるのは、大変ですから、幾つかの系統を教えますね。まず、魔法の属性の話からですね」
そして、魔法の属性や、呪文の唱え方を習う事となった。
これから行く世界での魔法は、火、風、地、水、光、闇の6つの属性があり、それぞれに攻撃呪文やその他の呪文があるらしい。
「あなたが、望む呪文を今、ここで全て教えられませんが、一応、全ての属性を使えるようにしておきます。後は、あなたの鍛錬次第で、全ての魔法を使いこなせる事でしょう」
そうか、それもありがたい。
いや~、親切だな。それだけ、オレが潰れて死んだのはヤバイ事なのかな?
「・・・。で、では、ここでは、火、風、光の3つの属性を教えましょう」
言葉に詰まったな。まあ、今は魔法の修得に集中だ。
「3つの属性には、それぞれ攻撃呪文もあれば、補助呪文、防御呪文、回復呪文なども含まれています。この三属性が使えれば、立派な魔術師ですね。それに、あなたは武器の扱いも修得してますから、魔法戦士的な立ち回りができるでしょう」
おお、それは、いい。
なかなかに使い易いキャラに、仕上がりそうな予感がする。
そして、それぞれの属性の攻撃呪文をいろいろと試して行く。
魔法は、その概念すら、未知の物なので、それを使えるようになるまでに、随分と時間が掛かったような気がする。
最初に呪文と呼べるのか解らない物が発現するのに、数時間は掛かったであろうか?
だが、それができると、魔法と言う知りもしなかった感覚が、急に自分の中に芽生えたように感じられた。
体感で一週間後には、3つの属性の初歩の攻撃呪文を発動できるようになっていた。
ただ、それからが、また長かった。
目的の違う呪文を始める度に、俺はつまずいた。
「武器の方は、まあ得意なようでしたが、魔法の方は苦戦しましたね。それも、元は魔法の無い地球の方ですから仕方はないでしょう。でも、こうして一度覚えたからには、新しい世界では、自由に扱えますよ」
呪文を一通り使えるようになるには、半年は踏ん張っていた気がする。
「では、今のステータスを確認してみましょうか?」
おお、そうだな。
どうなったかな?
「クローディア・フランツァ」、17歳、女、
Lv.1
種族:天勇人
職業:無し
HP:145
MP:130
腕力:75
体力:75
知力:80
器用度:85
敏捷性:80
精神力:75
魅力:80
運勢:70
スキル:成長特化、
片手剣:Lv.3
両手剣:Lv.1
刀剣:Lv.1
槍矛:Lv.1
小剣:Lv.2
弓矢:Lv.3
格闘:Lv.2
火魔法:Lv.2
風魔法:Lv.2
地魔法:Lv.0
水魔法:Lv.0
光魔法:Lv.2
闇魔法:Lv.0
言語:天勇語、共通語、
おお、武器や魔法もレベルが付いているし、パラメーターも更に上がったぞ。
チートまでは行かないけど、充分に強いだろう、これは。
ただ、大元のレべルは、1のままなのね。
はい、これから頑張ります。
「では、これで、あなたにお教えする事は、これで終わりです。後は、新しい世界で、あなた自身が見聞きし体験し、自らを鍛えてください。でも、武器や魔法の使い方を教えはしましたが、どう生きるかはあなたの自由です」
「そうは言うが、こんな武器や魔法が使える世界なら、それで己ができる限界までやりたいさ」
「そうですね。あなたは、そんな人でしたね。では、最後に、贈り物を差し上げましょう」
俺の全身が、また光に包まれた。
服や装備が僅かながらに変化した。
「上着やズボン、ブーツは、最初はそのままで、弱い相手ならば、何とかなる程度の防御力はあります。それに、武器のショートソードとショートボウには、僅かながら威力を上げる魔法が掛けてあります。それと、背嚢には200個まで、腰のポーチには50個までのアイテムが収納できます。しかも、収納した物の重さは感じません。ポーチには、回復薬を10個程、入れてあります」
更には、フード付きのマントを着ている。
おお、いろいろと使えそうな物が揃えてあるな。
「そのマントにも仕掛けがありまして、これを着用していれば、あなたのパラメーターを他人から覗き見される事もありません。他人のデーターを見る事が出来る者は稀ですが、念の為に施しておきました」
確かに、見ず知らずの相手に、いろいろと見られたくはないな。
そんな相手が、俺に悪意を持っていたら、尚更にマズイ。
「それと、お金も60ゴールド、ポーチの中の革袋に入れてあります。これだけあれば、少々、装備を買い足したりもできますし、1ヵ月は充分に暮らして行けるかと思います。では、新しい世界での、新しい生活をお楽しみください」
これで、チュートリアルは終わったようだ。
長い訓練期間ではあったが、時間は経過していないそうだ。
それと、チュートリアル中は、HPやMPの消耗は無かったが、これからは消費するので注意しろと言われた。
それ以外にも、女性特有の様々な事も教えて貰ったが、それを事細かく書いても仕方ないだろう。
一例を上げれば、まさかタンポンの使い方まで習うとは。(トホホ)
いや、それも必要な事で、ここで聞いていなければ戸惑うだけなのだが。
その過程で、今の自分が、異性を知らない体だなんて情報まで知ってしまうとは。
そりゃあ、確かに、女性の体になってから、そのような経験はしてはいないし。
また、それについて、異様に女神が興味を持っているような態度がどうも。
「ええ、ええ、あなたの体は、奇麗な姿で再生したのですよ。とても、素晴らしく」
何故だか寒気を感じたので、この話は、この辺で。
「それから、これからは、女性として生きて行くのですから、言葉遣いとか、体の動かし方に注意してくださいね。直に慣れるとは思いますが」
その他、服や下着も何枚か、女神は背嚢に詰め込んでくれた。
「その他にもいろいろ入れてあるので、使ってください。女の子にはどれも必要な物ばかりなので」
本当に、面倒見のいい女神だな。
「いろいろと、ありがとうな。ところで、女神は何て名前なんだ? これだけ世話になって名前も知らないんじゃ、何だからさ」
「私達、神は、特定の名前が無いのです。その時代、その人が好きなように呼んで頂けれれば、それで。あなたも、お好きなようにお呼びください」
「じゃあ、俺は、あんたの事をヨシコと呼ぶよ」
「まるで、あなたのいた地球での名前みたいですね」
「ああ、元いた世界、日本の事を忘れないようにな」
「はい、では、今後はヨシコとお呼びください。今後は、滅多に会話は出来ませんが」
「それでも、いいさ。ヨシコ、またな」
不安はあるが、これでゲーム・スタート、いや、人生・再スタートだ。
「では、新しい世界と人生を存分にお楽しみください」
今度は、視界全体が明るくなって行き、全てが光の中に消えて行った。