◇チュートリアル1・パラメーターと武器
女神の説明が始まるようだ。
「では、まずは、ステータスの説明をします。ご自身のステータスを確認するには、目を瞑り、頭の中で『ステータス』と念じてみてください」
俺は、女神の指示に従い、目を瞑って念じた。
頭の中なのか、目の前なのかは解らないが、文字や数値が浮かび上がる。
「」、17歳、女、
Lv.1
種族:天勇人
職業:無し
HP:130
MP:110
腕力:65
体力:65
知力:70
器用度:80
敏捷性:70
精神力:65
魅力:75
運勢:65
スキル:成長特化、
言語:天勇語、共通語、
「これは、まるで、ゲームだな」
「そうです。解り易いように、ゲームのように表記されます。あなた方の世界のゲームがそのようなシステムを作り出したので、便利なので逆輸入したようなものです。それと、名前が無いので、今、自由に付けてください。性別も世界も全て変わりますから、今までの物とは別にした方がよろしいでしょう」
(そうか、それもそうだな。どうするか。あっ、ならば、前にゲームで使ってたあれがいいかもな)
「なら、新しい名前は『クローディア・フランツァ』だ」
「そうですか。前にゲームで何度か使っていた名前ですね。良い名ですよ」
「では、ステータスの説明を始めます。年齢や、性別などはいいですね? 疑問に思っておられるかと思うので、天勇人の事をまず説明します」
(17歳からやり直すのも疑問だが、まあ、若返るなら、それでもいい)
「今度行く世界では、かつて、神の時代がありました。その時には、私のような神々が世界に大勢いました。その後、我々に変わって世界を支配したのが賢竜人という竜の血を引く民です。それから更に時代が下り、賢竜人の時代の後に世界を支配したのが、あなたの種族の天勇人という訳です。彼らは、見た目は人間とは変わりませんが、寿命も能力も遥かに上回っています。今は人間らの時代ですが、賢竜人も天勇人も滅びた訳ではありません。彼ら、前の時代の者らも、少数ですが生存しています」
(そうか、天勇人って種族は、ある種のチートみたいな物なんだな。ありがたい)
「HP、MPについては、ゲームをやっておられるから解かると思いますが、それぞれが0になると、HPは死亡しますし、MPは気絶します。なので、様々な活動をする時には注意してください」
そうか、また死ぬのも困るからな。折角の美女になれるのだから、注意しないと。
「もし、今度の世界で、また死んだら、俺はどうなるんだ?」
「基本的に、死は終わりと思ってください。救済の方法も極僅かにありますが、それを得るのはとても困難でしょう。ですから、余り期待はしないでください」
(そうか、やっぱり、死んでしまったら、それを変えるのは難しいようだ)
「それから、腕力などのパラメーターの上限は、普通は100です。50が平均で、それよりも数値が高い物は、それなりの得意分野で、それに満たない物は不得意分野です。上限が100と言いましたが、あなたの場合はもっと上になっていますので、成長しながら確かめてみてください。スキルの成長特化とは、そういう意味なのです」
(おお、これもチートだろうな。育てる手間はあるが、天井無しって事なのか?)
「レベルを上げる事で、HP、MP、各種パラメーターも上がりますし、経験によって新たなスキルなども修得できるかと思います。あと、言語はそれぞれ、天勇人の独自の言語と、人間らの多くが現在使っている種族を越えた共通の言語です。その読み書き、聞き取りがあなたには、既に出来るようになっていますので、安心してください。ここまで、何か質問はありますか?」
「そうだな、パラメーターを上げるのも、それに関連した行動をすればいいって事だよね?」
「そうです。肉体を使う事があれば、体力や腕力が上がりますし、頭脳労働をすれば、知力や精神力などが上がります。あなたの場合、どの能力も得意分野ですから、比較的上げ易いかと思います。けれど、80から上は、上げようとしても苦労はするでしょう。その辺りは、いろいろと試しながら理解してください」
(そう簡単に、100越えにはなれないようだな。だが、それを突破できれば)
「他に、質問が無ければ、武器と魔法の使い方を教えます。よろしいですか?」
特に、質問がある訳でもないので、次に移って貰う。
「何か、武器で、使いたい物とかあります? 幾つか、希望する武器を選んでいただいて、その他にも興味のある物もお教えしますよ。多分、武器を練習していると、パラメーターも僅かながら上がると思います」
(そうか、何を習おうかな? それにしても、女神様が武器の扱いまで教えてくれるとはね)
「ちなみに、どんな武器があるんだい?」
「ファンタジーのゲームに出て来る物ならば、一通りあります。ですが、銃や大砲などはありませんし、当然、ミサイルや戦車、戦闘機などもありません。騎馬や戦船などはありますが」
(そうなのか、ならば、まずは剣だろうな。それに、弓とか使えると、狩りとかにもいいかもしれないぞ。剣も、まずは片手剣がいいかな?)
「じゃあ、片手剣と弓を、まずは教えてくれないか?」
「いいでしょう。最初に習うのに、丁度いい武器種ですね。では、体もそのままではやり難いでしょうから、動き易い物を用意しますね」
そう言えば、まだ俺は裸だったな。
つい、他に人もいないのをいい事に、全裸で隠しもせずに、今までいたな。
股間が、ぶらぶらしないから、気にもしなかった。
でも、そういう感覚で、新しい世界には行かないように気を付けよう。
これからは、俺は若い女なんだから。
俺の体が眩い光に包まれたと思ったら、動き易そうな、上着とズボン姿、ブーツを履いていた。
体の感覚では、ブラとパンツのような物も、服の下に着けているみたいだ。
(後で、ブラの着け方もチュートリアルして貰おう)
「解りました。それも、後でちゃんと教えますので、安心してください」
(てへっ、聞かれてた)
「それでは、まず、片手剣の練習を始めましょう」
すると、腰のベルトに重みを感じた。
上着を止めているベルトに、鞘付きの剣がぶら下がっていた。
試しに、その剣を右手で抜いてみた。
(少し、重いか?)
考えてみれば、こんな大型の刃物を持った事は無い。
刃の長さは80cm程だが、これはショートソードという物かな?
両刃の片手で扱える短剣だが、初めて手にした俺には重く感じられる。
(もしかして、女になったから筋力が落ちたとか?)
「いえ、そうでもありません。筋力自体、男性であった時に比べても、特に劣っている訳でもありません。今は、重く感じているとは思いますが、慣れてくれば自由に扱えるでしょう。では、早速、それを好きなように動かしてください。ただ、刃物ですから、動かし方には気を付けてくださいよ。怪我したら、回復させますけど」
俺は、何となく、そのショートソードを振り回してみた。
縦切り、横切り、こんなものか?
力を入れ過ぎて、自分の体に刃を向けないように注意しながら。
でも、どこかぎこちなく、屁っ放り腰な気がする。
「もっと、剣の握りは軽くしてみてください。勿論、手から剣がすっ飛ばない程度で、そして、もっと全身で扱うように。手や肩だけで振らないように」
そして、剣の動きのイメージが頭の中に浮かんで来た。
(これを真似てみろという事か?)
女神からは、構え方やいろいろな角度の剣の振り方などのイメージを受けていた。
それを参考に剣を振るう。
どの位、剣を振っているのかは解らないが、疲れもしなければ汗もかかない。
これは、何かしらの魔法みたいな物が掛かっているのか?
体感で、休みもなく、5時間位は短剣を振り回していた気がする。
「大分、マシになってきましたね。では、次の段階に進みましょう」
今度は、目の前に、等身大の木の人形のような物が現れた。
人形と言っても、胴体に頭と手足が付いているだけで、塗装などもなく、木材をそのまま組み立てただけの物だ。
巨大な出来の悪い操り人形にも見える。
だが、そいつが右手に、こちらと同じような長さの木剣を持っている。
そして、木の人形なのに、滑らかに動くと、剣を構えた。
まるで、人間のように。
(こいつは、侮れないな)
俺も、そいつに合わせて、剣を構えた。
思いの外、鋭い切り込みを入れて来た木人形の一撃目は、体を反らして避けた。
体勢を整えつつ、こちらもショートソードを突き出す。
それは、かわされたが、連続で突きを繰り出して人形を責め立てる。
すると、一度、距離を取った人形が、再び切り掛かって来る。
その木剣をこちらの剣で弾いて避ける。
腕前は、互角程度か?
その後も、何度も互いに攻撃を繰り出す。
こちらも遠慮はしない。
何度も、上から横から下から切り付け、隙があると思えば突きも入れる。
それを避け、反撃に出て来る木人形。
既に、3時間以上の戦いが続くが、互いに疲れ知らずだ。
だが、俺の横に薙いだ剣が奴の胴体に切り付けた。
切断は当然にできないが、奴の胴体に大きな傷を付けた。
それからも、戦いは続き、何度も奴の体に切り込みを入れて行く。
たまに、奴の木剣に叩かれる事もあったが。
奴の動きもどんどん早くなり、その剣の動きも鋭くなっている。
だが、俺は、それに合わせて体を動かせるようになっていた。
「そこまで。一度、休みましょう」
とは言われたが、疲れなど一切無い。
チュートリアル中には、体力の消耗は無いらしい。
俺は一度、短剣を鞘に納めた。
すると、今度は俺の左腕に、ラウンドシールドが装備された。
木人形も、同じく円形盾を装備している。
あれ程に刻み込んだ俺の剣戟の跡も、奴の体から消えて元に戻った。
「次は、盾を装備した時の戦い方です」
短剣を鞘から抜くと、盾で身を守りながら、木人形と立ち向かう。
人形の剣を盾で受け流す。
(うん、盾もなかなかにいいもんだ)
今度は、互いの盾にぶつかり合う剣の音が響いた。
「盾の使い方もマスターしたようですね。では、ここで、1つだけ技を教えておきましょう」
頭の中に、また、新たなイメージが浮かんだ。
それを体の動きで、再現する。
「強打っ!」
単なる剣の一撃を繰り出しただけだが、普通の一発の攻撃以上の威力が出せたようだ。
「この強打は、通常の攻撃の1.5倍の威力を出せます。剣の練度が上がれば、もっと威力も上がるかと。また、これは、あらゆる接近戦用の武器にも応用が可能な技です。他にも、あなたが武器を振るい続けていれば、これからは自然と悟り、物にできるかと」
なるほど、これもこんなに便利な物があるのか。
何と言っても、かっこいいのが良いぞ。