第7話「人型モンスターとの決闘」
クエストの達成の為に、街の近くの森に来たクローディア。
目的のグレイウルフを狩猟し終えたのだが、その解体中に謎の生き物に遭遇した。
猿か原人を思わせる、緑色の人型の生き物。
彼女は、直感的に、それがゴブリンであると思ったのだが、初めて見る相手であり確証はない。
試しに、そいつらの前に自分の姿を見せる事にしたのだが。
クローディアの事を嘗め回すように見て来る緑色の人型の生き物。
そいつらが、一歩、彼女に近付いた。
思わず、一歩、クローディアは下がった。
だが、その行動が弱気に見えたらしい。
そいつらが、手にした棍棒を振り上げて襲い掛かって来た。
(くそっ、やっぱり敵だったか)
クローディアは、短剣を抜いて防ぐ。
奴等は、棍棒でクローディアを直接に攻撃しようとするのではなく、短剣を叩き落とそうとしているようだ。
やたらと、彼女の右手を狙って来る。
そして、もう1匹が彼女の体に組み付こうとして来る。
何となく、こいつらの意図が見えて来た。
(こいつら、俺を押し倒そうとしてるな)
その後に起きる事も、大よその想像が付いた。
だが、そんな事は、まっぴらごめんである。
(こいつらに、抱かれるなんて、想像するだけで気分が悪い)
クローディアの短剣が、1匹を切り裂いた。
そいつは、弱者と思っていた相手からの反撃に驚いたようだ。
だが、それで動きを止めるとはね。
すかさず、必殺の一撃をお見舞いしてやった。
倒れる緑色の奴。
そして、追い縋るように迫る、もう1匹も切る。
不意に気配を感じたので、クローディアは下がった。
死角から一撃を受ける所であった。
2匹かと思った緑の奴が、もう1匹いたのだ。
仲間を倒されたので、あいつらも油断はしていない。
再び1対2の対決に戻った。
戦ってみて、そんなに強い相手ではない事は解った。
だが、数で来られるとマズイ。
まだ、奴等の仲間も周囲にいるのかもしれない。
それを探るには、目の前の2匹がいて集中は出来ない。
今は、逸早く、この2匹を倒すだけである。
奴等の武器は、棍棒だ。
だが、それはただの太い木の枝と侮れない武器である。
その攻撃は、確実にこちらの防御を破れる威力がある。
短剣も下手な使い方をすれば、叩き折られる可能性もあるのだ。
こいつらは、幾つものゲームでお馴染みの、あの低レベルのモンスターなのであろう。
だが、実際に戦うと、案外やり難い相手なのだ。
(こいつらは、決して強くはない)
けれど、奴らには、数という武器もあるのだ。
戦いを長引かせるのは、不利だ。
いつ、向こうの増援がまた来るのか。
意外に、こいつらの連係も上手い。
タイミングを合わせて、左右から棍棒で襲って来る。
それを避ける為に、数歩下がった。
すると、奴等は食い下がって接近して来る。
更に、こちらの剣を狙ったり、足元も狙って来る。
(案外、攻撃のパターンが多彩だな)
それが、他の獣らと違う所かもしれない。
だが、僅かにタイミングのずれた所を、こちらからも反撃する。
当たりは浅いが、確実に傷を負わせて行く。
こいつらは、防具らしき物は装備していないので、体のどこを攻撃しても、ダメージが残る。
向こうは2匹と数は多いが、クローディアの方が少しづつ優勢になって行く。
棍棒の連続攻撃は恐ろしいが、その動きは決して早くない。
二倍の攻撃も、集中すれば避けた上に、攻撃も出来る。
とは言え、早く、片方を片付けて楽になりたい。
必然的に、短剣を当て易い正面に見て右側の奴への攻撃回数を増やす。
短剣での切り付けも、鋭く入れてやる。
何度も切り付けると、そいつの体がぐんにゃりと曲がるようにして、地面に倒れた。
(よし、残るは、1匹だけだ。)
残り1匹になると、気が楽になった。
逆に、あちらは不利を悟ったようである。
少し、下がる気配を見せた。
だが、逃げ失せる事は難しいと、こいつも悟ったようだ。
クローディアは、逃がすつもりはない。
どちらも、助かるには、相手を倒さなければならない。
彼女にしてみても、見逃す素振りを見せれば、こいつが逆襲して来るであろう。
場合によっては、こいつらの仲間が近くにいるのかもしれない。
こいつも、クローディアを倒さなければ助からない。
後ろを見せた途端に切られる。
互いに、そう考えていた。
相手の数が減り、クローディアが積極的に攻め始めた。
緑色の奴は、防戦が増える。
それでも、たまに棍棒を繰り出して来た。
その棍棒を避け、時に鋭く突きを入れ、また切り裂くクローディア。
奴の頬を軽く引き裂いた。
傷口から溢れ出る、緑色の血液。
その色が赤くはない事が、クローディアを怯ませないのかもしれない。
ここで、赤い血を見れば、まだ慣れない彼女の剣が鈍ったであろう。
クローディアの圧倒かと思ったが、緑色の奴も必死だ。
先程までの数の優位など、失われてしまった。
今、この強敵を倒さねば、自分の命が無いのだ。
その必死さが、そいつに通常以上の力を与えていた。
だが、そこには実力差がある。
クローディアの目には見えない能力が、その人型モンスターを遥かに上回っているのだ。
武器の棍棒を叩き落とされた緑色の奴。
(やられる)
そう感じたはずだ。
相手の武器を地面に叩き落としたクローディアが、一瞬、呼吸を整える為に停止した。
(次の一撃で決めてやる)
そう彼女は思っていた。
その時、何を思ったか、緑のモンスターが、両手を突き出しふらふらと前に出て来た。
まるで、自ら切られるような動きなのだが。
その意外な動きが、更にクローディアの停止時間を延長させた。
(何だ? 何のつもり?)
その手が、何故かクローディアの腰の辺りに軽く触れた。
(んっ!!!)
何かを感じたクローディアが、数歩下がった。
ある種の身の危険を感じた気がしたのだ。
それは、何か相手が切り札の攻撃手段を持っている訳ではない。
その手から伝わって来たのは、雄が雌を求める本能のような物を直観的に感じたのだ。
(こいつ、こんな状況でも?)
ある種の生への執着なのであろうか?
死を前にして、こいつの頭の中に子孫を残そうという思いが、微かに感じられたのだ。
何故、そう彼女が思ったのかは解らない。
一瞬、躊躇った。
だが、ここで止めを刺さなければ餌食にされるのは、自分の方なのだ。
意を決し、前に踏み出した。
そして、短剣を横に薙ぐと、奴の頭を5m程飛ばした。
思わぬ相手と戦い、少々混乱した。
周囲を素早く警戒し、近くに何もいない事を確認した。
先に仕留めた解体中のグレイウルフの毛皮を剥ぎ取ると、緑色のモンスターの魔石も取り出した。
緑色の今まで見た事の無い魔石であった。
(こいつら、ゴブリンだったのかな?)
まあ、この魔石を寄合所で見て貰えば解かるであろう。
今日は、もうクエストも終えている。
後は、街に戻るだけだ。
少しでも稼ぎになるかと思い、こいつらが持っていた棍棒3本も持ち帰る。
体を調べてみたが、他には珍しそうな物は持って無い。
いや、1匹だけ、何かの小骨を革紐で繋げた首飾りを着けている。
これも一応は、回収して行こう。
森の中を歩き、街へと向かう。
勿論、周囲を警戒しながらだ。
また、何かに出会うかもしれない。
大分、歩いていると、また薬草集めをする年少の冒険者らに出会った。
その多くは、武装も貧弱なままだ。
ふと、思い付いたクローディアは、先程奪って来た棍棒を彼等に進呈した。
「えっ? いいのお姉さん?」
本来ならば、同業者に施しなどすべきではないのであろう。
でも、こんな棍棒でも、彼等の役に立ってくれれば。
まだ、こんな装備も手にしていない者もいるのだ。
「これ、どうしたの?」
「ああ、それはさ」
彼女は、緑色のモンスターと戦って奪ったと伝えた。
「それ、ゴブリンだよ。凄いね、お姉さん。冒険者になったの、僕らよりも後だよね?」
そうか、やっぱりゴブリンだったのか?
突き返されるかとも思ったが、棍棒を受け取って貰えた。
彼等の薬草集めを手伝い、一緒に街に戻る事とした。
城門を少年少女冒険者らと共に潜った。
彼等も、クローディアに懐いてくれたらしい。
「奇麗なお姉さんが、この街の冒険者になってくれて嬉しいよ」
そんな事を言ってくれた。
(はは、悪くないね、こう言われるのも)
クローディアは、少し照れていた。
その様子を城門を守る兵士らが見詰めていた。
「いいな。俺も今から冒険者になろうかな?」
「給料が決まってる訳じゃないから、大変だぞ、お前」