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あの日の追憶─生命の魔女


 少年は、感情というものがわからなかった。生まれつき感情というものを持ち合わせていなく、自分の意志で表情を変えることはなかった。


たとえ赤ん坊の時に泣いていたとしても、それはただ自分の行動に対しての知らせだ。意志でもなければ感情でもない。


 そんな少年には妹がいた。少年とは真逆で感情に溢れ、常に笑うことをしていた。彼女が幸せを伝えると、周りも幸福に包まれそこには幸せな空間と言われるものが存在した。妹は兄が大好きだった。唯一無二の兄妹だからこそ、兄のそばに居続け、絶え間なく笑顔でいようとした。そんな妹を少年もまた大切にしていた。感情がなくとも少年にとっての幸せには違いはなかった。



 少年は18、妹は15になる年。その妹の誕生日に事は起きる。


気が付いた妹は兄の腕の中にいた。彼女は何があったか刹那に思い出す。


日が変わった瞬間見知らぬ者たちが家に押しかけてきた。ところまでは明確な記憶。


そのあとの記憶がなく、現状を見渡すと床に何かが二つほど横に倒れているのが見える。そして自分を抱きしめてると思われる兄の息は荒く、額からは何かが垂れている。


「お、に、い……ちゃ……」


 話しかけて気付く、兄の背後。自分の目の前に何かを持って振り上げている人影がある事を。また、気付いては遅かった事も理解した。何かを振り上げている時点でその人間の次の行動は決まっていた。


 雨が降っているかの如く全身が濡れた。彼女を包んでいた重さは下にずり落ちる。一瞬時が止まり、動き出した頃には人間の声とは思えない音が響き渡っていた。



 それから、なにが起きたのかは彼女には理解できない。しようともしない。する必要がない。ただただ茫然と現実だけがそこにはあった。


家具は破壊され、ガラスは落ち割れ、倒れた物体からの赤い液体と臭いが立ち込めるそこに少女が1人座り込む。


何が何でも常に笑顔を崩さなかったという少女の面影はもう無く、けれど泣いているというわけでもない。ただ彼女は現実を見ていた。


 ふと隣に倒れている兄の手がほんの少し動き、彼女の手に触れた。そこで彼女は気を戻せた。


健気な妹は、少しでも息のある兄を救いたいと願った。例え自分が死のうとも、大好きだった兄は死なせたくなかった。


 そんな願いが後の罪。生命の魔女の祈りは届く。



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