R ハンバーグと彼
「ただいま〜」
扉を開けようとして、私はつんのめった。珍しく鍵が開いていなかったからだ。
祐介、まだなんだ。
いつもは使わない鍵を引っ張り出してガチャガチャと開ける。
迎えてくれる人のいない家はがらん、としていていつもより広く見えた。
なんだか思ってはいけないことを思ってしまったようで、私は慌てて声を出す。
「よっし! ご飯作っちゃお!」
台所に立って冷蔵庫を覗き込む。
「ミンチがある。…ハンバーグにしようっ!」
一人で騒々しく声を上げながら料理をしていると、玄関で物音がした。
「祐介?」
手にビニール手袋をはめたまま、ひょいと顔を出すと、祐介がびっくりしたように突っ立っていた。
「梨香子さん? なんで?」
まあそりゃそうだろう。こんな時間に帰ってくること、年に一度あるかないかぐらいだ。
私は笑って肩を竦めた。
「ちょっと色々あって。早く帰ってきたの」
はっとしたように祐介が慌てて靴を脱ぎながら部屋の中へと上がった。
「ハンバーグ? 手伝おうか?」
慌てた様子がおかしくて、私は笑った。
「ううん、大丈夫。ゆっくりしてて」
「うん…」
毎日していることを取り上げられて、どうしたらいいかわからないのだろう、頷きつつも祐介はなんとなくウロウロしている。
その様子を横目で見て笑いを噛み殺しつつ、私はハンバーグをこねていった。
仕事人間と言うと料理は出来ないと思われがちだが、そんなことはない。確かにすぐに出てくる料理のレパートリーは少ないし、慣れている訳でもないがレシピさえあればある程度出来る。それに、ハンバーグは何度も作ったことがある。
祐介はスーツを脱いで一旦ソファに座ったものの、そわそわするのか立ち上がって変にそこらを片付けたりと動き回っている。
そろそろ可哀想だなと思い声をかけた。
「祐介、ちょっとこれ手伝って」
あからさまにほっとした顔になる彼に、また笑いがこみあげてくる。
ああ、こんな彼に、私は癒されているのだ。
改めてそう思った。