表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

Y 部署異動

 そろそろ終わるかな。

 時計を見ると、二本の針は5時半を指していた。おれは軽く肩を回すと内容を保存してパソコンを落とす。

「お、片山、終わりか?」

 ちょうど回ってきていた課長が目敏く気づいて声をかけてきた。課長はまだ若い40代前半の男から見てもイケメンな人だ。

「あ、はい」

 といっても気まずくはない。この会社は結構ホワイト…というかかなり緩くて、新人のおれは定時であがることが多い。最初の方など、気張って残業しようとするおれに

「新人が残ってたらあたしたち帰れないでしょうが! 早く帰りな!」

と先輩方が言ってきたぐらいだ。

「ちょうど良かった! ちょっと話があるんだけどいいか?」

「え、おれにですか?」

 ちょっと驚きだ。おれの勤務態度は可もなく不可もなくのはず。そんな課長と差し向かいで話すようなことあるかな…。

 とはいえ、おれに拒否権があるわけがない。

「だめか?」

「いや全然いけますけど…」

 じゃあせっかくだから、とオフィスの外に出る課長に慌ててついて行った。


 

 近くにあるコ○ダ珈琲でおれと課長は向かい合わせに座った。

 お互いコーヒーにアイスがのった…なんていうか豪華なやつを注文する。

 おれが少々緊張していることに気づいたのだろう、課長がははっ、と笑った。

「別に怒るとかそういうやつじゃないんだ。緊張するな」

「あ、そうですか…」

 ちょっと安心したが、それにしてもじゃあなんだっていうんだろう。

「でも、尚更わからないんですけど」

 正直に尋ねると課長はちょっと真面目な顔になっていった。

「おれが言いたいのはな、部署異動の話だ」

「部署…?」

 まあ大きなことだというのはわかるが、おれになんの関係が…。

「うちがおまえを取った時から思ってたんだが、おまえ、営業に行かないか?」

「営業…すか?」

 思いがけない話に戸惑う。営業はとても忙しいと聞くが、その分やりがいもあるらしい。会社の花形だというイメージがある。…正直、おれ向けではないと思う。

 戸惑ったままのおれを課長はひたっと見つめた。

「意外そうな顔をしてるがな、おれはおまえが営業に向いてると思ってる。まだ一年も経ってないが、それでも毎日おまえを見てきて、間違ってないと思ってるよ」

「はぁ…」

 正直そんなに言われても実感はわかない。おれの中で営業は仕事がしっかり出来てトーク術も高くて賢い人がやる仕事だ。自分がそんな人たちに混ざって出来るとは思えなかった。

 …いや、出来なくはないだろうが、こんなに押されるほど向いてはいないはず…。

「まあまだ時間はあるからここで決めなくてもいい。それでも、4月に異動するなら12月には決めといて欲しいんだ」

「わかりました。…でも、おれは…」

 行けと言われないのに自分から行くことはしないだろう。そう言おうとしたが、課長に遮られた。

「積極的じゃなくてもいい。嫌じゃないなら一度やってみてほしいんだ。しんどかったら戻ってきていいから」

 そこまで言われたらおれもうなずくしかない。

「…わかりました。自分では向いてると思えないですけど、そこまで課長が仰るなら…」

 自分でもちょっとずるかったかな、と思う言い方で、おれは営業部行きを承諾したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ