Y 出会い
「あ、はい。そうですよ」
うなずいて肉巻きに箸を伸ばす。うん、いい感じ。かぼちゃもしっかり火が通ってる。
「何で嫁さんじゃなくておまえが作ってんの?」
きょとんと見つめられ、おれはまたもや苦笑した。あんまり弁当を作ってるとは言わない理由はここにある。男女平等を叫ぶ今の時代と言えども、やはり家事は女、というイメージはしっかり根付いている。
「おれが料理嫌いじゃないですし…奥さんバリバリに働いてるし稼いでるんで…」
おれは自分が家事をするのは当たり前だと思ってる。おれは新人で仕事量も少ないし、そんなに仕事に情熱もない。家事も嫌いではない。
対して奥さんは自分で会社を立ち上げ、社長として毎日せっせと働いている。
どう考えてもおれがするのが効率的だし、平等だろう。
「へぇ〜。片山って出来るやつだったんだな」
…謎に感心されてしまった。
「じゃ、その本よろしく!」
先輩は片手をロールパンの袋を持って立ち上がった。
オフィスを出ていく先輩を見ながら、おれは奥さん…梨香子さんのことを考えていた。
梨香子さんはおれの2つ上。大学のゼミで出会った時から企業したいと言っていて、卒業と同時に貿易関係の会社を立ち上げた。
黙っていれば冷たささえ感じさせらるキリッとした顔立ちに、初めて会った時は圧されたものだが、話してみると朗らかで素敵な先輩だった。笑った時にくしゃっとなる目尻が可愛い。
ゼミでは人気の先輩で、おれには高嶺の花だった。けど、どうしてか先輩はおれの方を振り向いてくれたのだった。
先輩が卒業して一年後、つまりおれが大学4年の時に結婚した。所謂学生結婚というやつである。
今は結婚1周年を迎えてちょっとしたぐらい。夫婦仲は良い方だと思っている。
今日は梨香子さん、早く帰ってくるかなぁ。
社長であるが故に、取引先とのご飯や何やらかんやらが入ることも、少なくない。大体そういうものは夜が多くて、遅い時は遅い。しかし、社長だからこそ時間の自由がきくというのもあって、特に何もない日は意外と早く帰ってくる。
〈今日は何時になりそう?〉
LINEを送って見たが、既読はつかない。仕事人間である彼女は仕事用の携帯ならばすぐに見るが個人用のLINEは仕事中には全く見ないのが常だった。