009 魔法と弟と友達
14歳くらい
この世界には魔法というものがある。
誰でも訓練すれば使えるらしいんだけど、上達の早い人と遅い人、上手になる人といつまでたっても下手な人がいる。 それって、かけっこも剣術も読み書きもみんないっしょだよね。
学校なんて物はこの村には無いけど、夕方には教会で読み書きの会がある。朝から昼は、どの子も家の手伝いで忙しいからね。
その読み書きの会も、子供によって来る日は様々。 毎日の子もいれば、ほとんど来ない子もいる。最低限、看板や物の名前が覚えられないと買い物にも旅にも行けないし、簡単な計算が出来ないと店の人に騙されたりするから、やっぱり勉強も大事。
私は夢の中の中学校で(格好いい制服があるんだよ、王都って素敵!)たくさん勉強しているから、計算は得意。たぶん村の誰よりも出来る。 でも文字と言葉は違うから、それは教会で勉強している。うちの村の神父さんは神様を信じろとかあまり煩くなくていいんだ。
教会で魔法は教えてくれない。 攻撃魔法が出来ると もれなく王の軍隊に入らなくてはならないから。 働き手が足りなくなるもの。 でも時々、4人目や5人目の子が王都に養子に貰われていく事がある。騎士さんの弟子になって王都で一旗上げるんだって言うけど、騎士になって村に凱旋した子は聞いたことないなあ。
でも私は内緒で魔法を練習してるの。
軍隊に連れられていってしまうから、大人の人には絶対に内緒。お父さんとお母さんにも言ってない。 今のところ 仲良しのモーリーと弟のシドニーにしか言ってないけど、モーリーちゃんが弟のカインには言っちゃったんだって。 だから、私とシドニーとモーリーとカインの4人で内緒の練習をしてるの。
「でもさあ、エリーちゃんは何で魔法陣とか呪文とか無しで魔法が出来るの?」
「だから、流れを読むのよ。 呪文とか魔法陣は、決まった形で魔素の流れを操るためのもの。 魔素の流れを感じられれば、思ったように操ることが出来るのよ・・・出来るはずよ・・・とっても難しいけど。」
「それが出来たら苦労しないのよね。」
「僕たち出来るよ!」
私の弟シドニーとモーリーの弟カインが声を揃えて言った。
「あんた達だって私と似たようなものじゃない!」
確かにモーリーの言うように、シドニーもカインもまだまだだ。 でも小さい頃から始めただけあって、上達が早いのも本当。
「そういう私もまだまだなのよ。 最初はお父さんが強い魔素の流れを作ってくれたから、それを見る事が出来た。これはもう4人とも見れるよね? それから段々弱い流れを注意して見るように練習してたら、今は自然の流れ、いつでもどこでも魔素が流れているのが分かるようになったの。 魔素は人や生き物も鉄も石も地面も通り抜けるけど、通る物によって、流れが変わるわ、それを細かく感じ取ると、目をつぶっていても周りの事が見える、集中したら、蚊の足に生えている毛みたいに細かいものまで分かる、遠く、森の向こう側で起きている事もなんとなく分かるようになるの、私はまだこのくらいが限界だけど。」
「いや、それって十分にすごいよ。」
「そうだよ! ねーちゃんヘンタイだよ!」
「シドニーちゃん、ヘンタイは言い過ぎだと思うぞ、でも、確かにそんなのエリーにしか出来ないわ。」
「でもね、その感じた魔素を思うように動かすのが大変で、まだ出来る事が限られてるんだ。」
私が出来るのは、1つ目は、生き物の傷を治す事、これはお父さんに褒められるくらいになった。 生き物の場合、血液や体液の循環によっても魔素が動くし、筋肉を動かす時にも魔素は動く、ビックリした時なんか、割と強い魔素の動きが頭のあたりで起こる、植物だって、ゆっくりだけど、独自の魔素の流れがある。 生き物の場合、こういう決まった流れを利用するから、覚えてしまえば割と簡単。
2つ目は、動物の考えている事、訴えたい事がなんとなく分かるようになったし、何となく伝えられるようになった。 これは、動物の出す声や仕草、表情の観察もあるんだけど、動物の頭の中の魔素の流れで感情や意思が伝わってくるの。 こちらの事を動物に伝えたい時は、逆に、相手の頭の中に、イメージを送り込むの。そしたら何となく分かってもらえてるみたいなの。あくまで何となくだけど。 たぶん人間相手にも出来るのかもしれないけど、なんか人には試しちゃいけない気がして、まだやった事ない。
3つ目は、お湯を沸かす事。 これは夢の中の学校で習った事を応用したんだけど、水って1秒に2.45ギガ回揺らすと温まるんだって。なんか意味分からない数だけど、1袋ぶんの小麦粉の粉の数を1秒に数えるくらいかもっと多い数、分からないので、とにかく魔素を細かく細かく揺らしながら水に送り込んだら、二か月目くらいで丁度いい揺らし加減が分かるようになって、お湯が沸かせるようになったの。 それから精度も上がって、葉っぱの上の水滴にだけお湯にするとかできるようになったわ。
4つ目は、酸素を集められる事。 夢の中の学校で、空気は酸素と窒素と少しの二酸化炭素で出来ているって習ったから、空気を感じるようにしてみたら、なんとなく二種類混じっているのが分かったから、そのうち一つを集めてみたら、ビンの中のクギが燃えたの! 釘が燃えたって言っても、炭で真っ赤に熱した釘をビンに入れたら、表面がバチバチって火花出して、すぐに消えちゃったんだけど、表面が火花出したんだから成功だよね? まさか夢の中の学校の理科の実験が1人で出来るようになるとはビックリよ。 ビンが割れてお母さんに怒られちゃったけど。
5つ目は、植物の成長を早くする事。 最初は幹や茎の中の流れを早くしたり、葉っぱの流れを早くしたりしてみたんだけど、枯れちゃったの。 それで植物は急かしたらダメなのかなあって思って、植物そのものじゃなくて根っこの周りの土に空気を入れて、栄養や水を吸いやすくしてみたら、すごく成長が早くなったの。 今は深さ10mくらいまで出来るようになったから、結構大きい木でも大丈夫。
まだたくさんの事が出来る気がするんだけど、私に動かせるのは、まだ空気や水とかの動かしやすいものだけ。布団をめくるのも出来そうで出来ないのよね。
「で、ねーちゃん、今日の練習は、何からやるの?」
「いつものように、魔素の流れを感じるところからね。 私がポットの水を温めるから、そして段々と魔法を弱くしていくから、どこまで分かるか競争ね。」
「今日こそは勝つわよ!」
「モーリーねーちゃん勝った事ないじゃん!」
「うるさいわねえ、やってみなくちゃ分からないでしょ?!」
こうやって、今日も私たちの秘密の魔法練習は続く。
朝から家のお手伝い、夕方から教会でお勉強して、その後1時間くらい魔法の勉強して家に帰る、そんな毎日の繰り返し、繰り返し。
村の人は何百年も、同じような毎日の繰り返し、繰り返し。
子供達は退屈な村を離れどこか遠くへ行ってみたいと思うけど、でも結局、繰り返しの毎日。
たぶん、これが平和ってものなんだ。
いつまでも続きますように。
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序盤まとめ
エリー・マクレー主人公
14歳 人間 女性
出来る事
獣治療師としての仕事全般
家畜の世話 ベテランの域超え(動物と意思疎通がある程度出来る)
罠の設置 ベテラン猟師並み
狩猟 主に弓矢 まだ下手
動物の解体 ベテラン並み 力はない
薬師 見習いレベル
薬草の採取 ベテラン並み
畑の管理 腕のいい農家レベル
剣術 見習いレベル
バレエ 発表会で選抜されたくらいのレベル
勉強 将来、医学部を受けようと思えるくらいの成績
家事全般 いつもお手伝いしているので完璧
礼儀作法 普段は超ゆるいけど現代日本の常識は身に着けている
魔法 液体と気体は少し操作出来る。 動物と少し意思疎通出来る。 まだ火は起こせない
アーサー・マクレーお父さん 畜産家 獣治療師 治療魔法
ドリー・マクレーお母さん 薬師 主婦 液体操作の魔法
シドニー・マクレー主人公の弟 魔素の流れを感じ取れる
モーリー・ローリンズお隣の女の子 エリーの仲良し 魔素の流れが少し分かる
カイン・ローリンズお隣の男の子 モーリーの弟 魔素の流れを感じ取れる
ピーターさん八百屋
ブリジッドさん八百屋の奥さん おしゃべり
神父さん 超ゆるい性格らしい
この村 王都から見向きもされない田舎の村
王都王様が住んでいる都 見た事ないけど賑やからしいよ
軍隊王様の軍隊 攻撃魔法使いは強制徴用 強い集団らしいぞ
この世界世界は丸いとか動いてるとか言うと宗教裁判にかけられちゃうかもよ。 あと目立つと悪魔裁判にかけられちゃうかもよ。 でも世界一周した人がいるんだって、これからどうなるのかな?
怖いのは、後から小さな矛盾や書き間違いが出て、しょっちゅう初期の章の修正をやらなければいけない事。 大きな修正はしないはず。
はず。