002 神様との会話 1
教室中が真っ白に輝き始めたところまではハッキリ覚えている。
恵理の感覚では、ほんの数分前の事なのだ。 でも、自分がどうしてこの部屋にいるのか、全く分からない。
ここは不思議な部屋だ。床や壁や天井は白基調で薄く花のような模様がついている。椅子や机や調度品もアイボリーやベージュなど白系統のもので、どれも複雑な彫刻が施されている。どの家具も豪華で値段も相当しそうなのだが、派手な下品さというものが全くない。むしろ装飾だらけなのに質素な趣すらある。また、それらの装飾は、恵理が教科書や写真で見た事のあるどの様式とも違って見えた。
本当にここはどこなんだろう? ひょっとして私死んじゃって、天国とか?
そこまで考えた瞬間に、目の前の人物が、初めて口を開いた。
「ふぉっふぉっふぉ、そなたは死んではおらぬぞ、だからここは天国なんかではないのじゃ。 もっとも、神々の領域という意味では、あながち間違っておらぬかもしれぬがの」
え? 何この人神々とか言っちゃってんの? ひょっとしてヤバい人?っていうか、今わたしの考えを読んだ? あと、ふぉっふぉっふぉって何? イマドキそんな喋り方する人なんていないでしょ? なんなの?!
目の前にずっと座っている人物は、真っ白な髪と髭の、たぶん老人だと思うんだけど、シワはほとんど無いし、細いなりに逞しい感じだし、なんか年齢不詳。喋った事によって意識を向けた途端に凄まじい存在感なんだけど、意識してなかった時には居ることすら気づかないかもしれないほど希薄な存在感で、見れば見るほど不思議な人だ。こんな人見た事ない。
「これこれ、ヤバい人とか失礼なお嬢さんじゃな。 わしは、所謂「神という者じゃ。そなた達の持つ概念の中では、おそらく、その言葉が最も近い。
「えーっと、えーっと、はぁ、神様ですか。それはそれは初めまして、私は市川絵里と申します。」
言いたいことが多すぎると、人は逆に何も言えなくなるものなんだと思う。私がマヌケな自己紹介をしてしまったのは、天然だからじゃないんだからね、誰だってこの立場になれば、マヌケに自己紹介をするはずだわ!
「ほうほう、恵理さんか、ようこそ異世界へ。いや、異世界からようこそと言ったほうがいいのかな。」
「ちょ! 異世界ですか? えーっと・・・あのー・・・アフリカやシベリアへって程度じゃないニュアンスを感じちゃったんだけど、、、ファンタジーの、、、魔法やエルフとか、あるいは宇宙戦争やっちゃったりしてるような、あの異世界って意味で言ってます?!!」
「まあまあ、慌てるでない。 そなたの言うアフリカとかの意味は分からぬが、ワシの言っておるのは、そなた達の世界とは全く繋がっていない、完全に別の世界というわけじゃ。」
「アフリカとか分からないって、あなたは神様じゃないの? なんかますます混乱してきたわ。」
「ふむ、わしは、この世界の神様じゃからな、そなた達の世界の神様は別におる。そっちの世界の事はわしはさっぱり分からんのじゃ。」
「全く別の世界なのに言葉は通じるの?」
「ほう、なかなか優秀な者たちじゃな、その質問をしたのはそなた達35人のうち22人じゃ。当たり前のような雰囲気に流されずに、少しの違和感に気付ける者は、普通そう多くはないのじゃ。」
「あ、その答え方は、はぐらかす時の典型的な言い方ですね!」
「なかなか手厳しい娘じゃ。 じゃが安心せい、胡麻化したりはせんぞ。今ワシらが話しているのはこの世界の言葉じゃ。 この世界には、種族や国や民族によって200ほどの言語があるのじゃが、その中でも一番使用する者が多いアルカヘスト王国の公用語ニム語じゃ。これとタジク語とスーラ語を話せれば、9割以上の人族と話せるじゃろう。3か国語以上話せる人族がほとんどじゃからの。」
「・・・・・聞き慣れない単語の連続で、早くも挫けそうなんですけど、、、」
「まあまあ、これらは追々覚えていけばいいじゃろう、焦りは禁物じゃ」
「ところで神様、死んだのではなければ、なぜ私が、、、私たちが、別世界に居るんですか? 今日の夕飯は大好物の手巻き寿司だから、早く家に帰りたいんですけど。」
「そうじゃったな、まず、そこから説明せにゃならんかった。 そなた達は、アルカヘスト王国に召喚されたのじゃ、これからはこちらの世界に転生して、こちらの世界の為に頑張ってもらう事になる。」
「はあああああっっっっ?????!!! 何それ、、、それって、拉致問題じゃないですか? 誘拐じゃないですか? 立派な犯罪ですよ!!!」
「まあ、そう思うのも無理がない。 ちなみに、その事を指摘してきたのは、35人中たったの5人だけじゃな。」
「話を逸らさないで下さい! いくら神様だって、やって良い事と悪いことがあります!」
「・・・・そなた達はな、2か月後の修学旅行のバス事故で、全員死ぬ事になっておったのじゃよ。」