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DEAR 先輩  作者: 村崎ユーキ
8/10

先輩の、思い(1)

 どれくらい時間が経ったのだろう。

 秀介はイスに座ってから、ひたすら何かを考えていた。



 脳裏にちらつくのは美紗緒先輩の顔。

 それから琴乃や澄香、そして勢や義実の顔だ。



―――責任とってやめる……か?


 元々、そんなことを考えていたが、こうなってしまった以上、それは逃げる事と同じだ。

「どうしよう……」


 このまま帰るのか?

 帰って明日学校に来れるか?


 どっちつかずのまま、秀介は何もできずにいた。



「腹減ったよ…………」

 時計の針は8時を回っていた。


「あれ、電話」

 静まり返った生徒会室に、不意に電子音が響いた。

 秀介のスマートフォンだ。




―――誰だよ……こんな時に……


 秀介は重たい体を持ち上げるように動いて携帯を手に取った。


「はい、長戸です」

「秀介!!!!!!!」

 言い終わらぬうちに、彼のスマートフォンから耳をつんざくような声が響いた。


 鼓膜が千切れそうな大声の主は……。


「美紗緒先輩?」

「なによ、そのだらしない声は! 何時だと思ってるの! 今どこにいるのよ?」

「先輩、あの今生徒会室で……」


 先輩が電話してきてしまった。もう逃げられない……。


「こんな時間まで何してるのよ! 掃除はもう終わってるんでしょ?!」

「はい、いや…………まぁ……」

「何だ、その返事は! 今から行くから、そこで待ってなさいよ!!」

 どこか焦ったような美沙緒の声に、秀介も呆気にとられて目が点になる。

「え!? ちょっと、先輩! いいですって! 先ぱ……っっあれ……?」


 言い終える前に電話が切れた。

 なんで急に電話なんて……。



―――責任……か



「秀介!!」

 十数分して美沙緒が怒鳴りながら生徒会室に入ってきた。


「何やって……って、何この部屋は?!掃除はどうしたのよ……」

 掃除をする前の状態よりもひどくなった部屋を見回し、美紗緒は驚いたように尋ねてきた。


「掃除は……その……やったんですが……」

「どうしの、言ってみなさい」



 秀介が深刻な表情をしていたせいだろうか、美紗緒の声のトーンはいつもと違った。

 しかし、その穏やかな表情声は自分の話によって変わってしまうんだろう。秀介はそんなことを思った。

 きっとかつて無い勢いで怒るのだろう。


 秀介は疲れきっていたし、ずっと考えていたこともあって腹をくくっていた。

 もう言うしかない。彼は思い切って口を開き滔々と語りだす。


 掃除して窓を開けて、それから風が吹いて、冊子が一部無くなった。



「そう……。それでお前、探していてこんな遅くなってしまった、と」

 美紗緒は静かにゆっくり言った。


「怒らないんですか……?」

 秀介はおどおどしながら美紗緒に尋ねる。

 そんな秀介に、美沙緒はいつもの口調で言った。


「この馬鹿! 何が『怒らないんですか』だ! とりあえず自分の母親に電話して謝んなさい。心配かけて! それから……!」

 美紗緒は「それから……」ともう一度口に出す。しかし、その次の言葉が出ない。

 彼女はうつむいて体の左右で垂らした両腕の先で、拳を作り震わせている。



「先輩? どどど……どうしました?」

「その無くなった一部ってのは……これのことだろうから」


「……!!」

 美紗緒は自分のカバンの中から秀介が探していた「最後の一部」を取り出したのだ。


「どうしてそれを先輩が持ってるんですか!!!!」

 秀介は尋ねた。焦りや混乱から声が若干裏返る。

「何度も見直したけど、ミスってないか心配で……家に持ち帰って最終確認してた」

 それから美紗緒は申し訳なさそうに少しばかり肩をすくめて、そう言った。

「あたしのせいで、お前を困らせたみたいね。悪かった。勝手に持ち帰って……」


「いえ、なんていうか……窓開けたせいで冊子が散乱したのは僕がいけなかったわけで……あの~……まぁ、結果オーライってことで」

 秀介は目の前の先輩に、怒る気力は無かった。

 それに、あまりの結末に若干気が抜けていたのかもしれない。


「そう……ホント、悪かったわ。無駄な時間使わせて。あんたを追い詰めて」

 美紗緒は小さな声でもう一度呟いた。そして、秀介の顔色を伺うようにこう言ったのだ。

「秀介、あんた生徒会やめたいって思ってるんでしょ?」

「え……」

 美紗緒先輩はその大きな目で、どこか寂しげな目で、僕を見ていた。



「え……と…………」

「いいよ、別に。正直に言っていいから。琴乃からさ、さっきメール来てて。それで……」


 美紗緒の言葉に、秀介は視線泳がせた。

 琴乃から連絡が行ってしまったのなら決定的だ。もうはぐらかしようがない。


「はい……あの、正直言って、辞めたい……です。そう思ってます」

 そう秀介が言うと、先輩は「ふっ」と息を吐いて言った。

「やっぱりそうだよな。あたしにあんだけ嫌がらせされちゃぁね」



――やっぱり嫌がらせ! わざとかい!!



「あんた見てるとさ、なんつーか……こう。いじめたくなっちゃうのよ」

 秀介は自分がいじられキャラであることに、自覚があった。だが、はっきり言われると少しばかり苛立ちを覚える。

 しかし、美紗緒の次の言葉に秀介はハッとした。


「昔のあたしみたいでさ」


「え?」

 美紗緒は続けて、照れくさそうに笑って言った。

「あたしもさ、1年のとき……総務係やったんだよね」

「先輩も総務係を……?」

「うん……実はさ……」



「あたしが1年のとき」



 美紗緒は懐かしそうに視線を遠くへ向けながら言った。

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