掃除、からの地獄
床を軽くほうきで掃き、床をモップで水ぶき。テーブルとイスの足についているほこりも取った。棚もテーブルの上も綺麗に拭いた。今まで以上に念入りに。
どれほど時間が立ったろうか。生徒会室中を見ればかつてないほどピカピカだった。一つ問題点を挙げるとすると、掃除をしまくったせいで部屋中がホコリっぽいことだけである。
締め切った状態でやってしまったのだ。
「窓を開けて空気の入れ替えをするか……」
秀介は立ち上がって、窓を全開にし、喚起のためにドアも開けた。
そして、窓にかかるカーテンがフワリと風に吹かれたかと思った瞬間。
机の上に高々と重ねられた書類。
その一番上の1枚が、宙に舞う。
「は?」
風通しの良くなった部屋に風が勢いよく、そしてタイミングよく舞い込んだのだ。
その風は、秀介の頬をゆらりと撫ぜる。
「へ?」
そして、秀介の目の前で、まるで木の葉が風に舞い上がるようにソレは部屋中に散乱した。
生徒総会の冊子が、全校生徒分の冊子が、だ。
「580、581、582……」
時計を見ればもう午後7時半。
秀介は生徒会室中に、それから廊下にまで飛んでしまった冊子を拾い集めて一枚一枚数えていた。全校生徒は629人。かれこれ2時間くらいはずっとこの調子で数えている。
「619……620……621……」
もう目が疲れた。眠い。腹減った。帰りたい……。
ひたすら自分の行動を呪いながら秀介は考えていた。
「627……628…………」
そこで指が止まる。そして額から汗が一筋チロリと流れるのを感じた。
「なんで。一部、足りない……!」
言葉に出し、それを自覚した瞬間に体中から汗がダーっと流れた。
そして震え。秀介の頭に浮かんだのは、あの人の顔。
『もし一部でもなくなったら……承知しないからね……』
―――絶対殺される!!!
「うぁぁぁぁぁあああああ!!」
有らん限りの声量で絶叫し、勢いよく再び冊子を数え始める。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!!」
先ほどよりも数倍は速いペースで確認するも、結果は同じだった。
ならば、どこかに吹き飛んだとしか考えられない。
「どこだ! どこだ!! どこだぁぁぁぁ!!!」
秀介は生徒会室をひっくりかえさん勢いで探し出す。
そして、ついには生徒会室を飛び出し、学校中を探し回った。
そんな遠くに飛ぶはずなんて考えられないとは思ったが、それでも探し回らずには入られなかった。
廊下を駆け回り……グラウンドを掘り起こさん勢いで這いずり回り絶対無いとは思いつつ教室からトイレまで……とにかく全ての場所を見てまわった。
が……
「ない」
ボソリと呟くように言う。
「ないないないないないない……ぬぁい!!」
『もし一部でもなくなったら……承知しないからね……』
――承知してください!!
再び生徒会室に戻っていた秀介は、力なくパイプイスに座り込んでいた。
生徒会室を見回してみれば冊子を探したせいで、せっかく綺麗に片付けた部屋の姿はどこへやら。
―――僕は、終わった…………
秀介は疲れきって目を閉じていた。頭の中にグルグルと嫌な想像ばかりが廻り、足元が崩れ落ちたかのような錯覚に陥っていた。