表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DEAR 先輩  作者: 村崎ユーキ
10/10

本日も、生徒会日和


 後日。放課後の生徒会室。


「秀介! さっさと各クラスのボックスに生徒総会の冊子入れてこんかい!!」

「はぁぁい!!」


 秀介は美紗緒の命令を受け、生徒会室に相変わらず山のように積み重ねてある冊子をクラスごとにまとめ始める。


「あらあら、情けない声ねぇ」

 イスに座って優雅に紅茶を飲んでいる義実が言う。

 秀介が睨むと、義実は「やだぁ。秀ちゃん、恐~い」と、言葉と裏腹に余裕たっぷりな声を上げる。

 美沙緒に反論しなければ自分には外はないと考えているのだろう。


「長戸、私も手伝うから……」

 見かねた澄香が秀介の横について、冊子をまとめ始める。



―――澄香先輩、まるで天使のようですよ


 秀介は目に涙をたたえながら澄香を熱いまなざしで見つめた。

「な……何よ、気持ち悪い」

 視線を感じた澄香は、少々怒りの色のある声で呟いた。

 それでも、動かす手を止めはしないのが澄香である。



「澄香!!」


 しかし、その鋭い一声だけで澄香の作業をする手がはたと止まる。


「はっはいぃぃ!!」


 澄香は美紗緒の声を聞いたとたんに黙って立ち上がり、「ごめん」と弱々しい声で秀介に言いながら離れたのだ。



「美紗緒はいつも元気いっぱいだね」

「イライラしてんのよ!」

「……ふぐぅ!!」


 ゴスっという鈍い音がしたかと思えば、勢の鼻から血が吹き出ていた。鼻にはシャーペンが刺さっている。

「むごい……」

 性格には難はあるが、秀介は自分以上に厳しい対応を受ける勢に内心同情していた。



「勢くん、鼻血をプリントにはかけちゃだめよ。秀くんの邪魔になるから」

 紅茶をすする義実の前で、湯飲みに入った緑茶を飲んでいる琴乃がそう言う。

 珍しく生徒会室にいる琴乃は、床に崩れ落ちる勢を見つめながらの、冷たい一言だ。


「…………」


 当の勢は気を失ってしまったのか、一言も返さない。

 ぐしゃり、と湿気の混じった音を立てながら彼は床に倒れこんでしまった。

 笑顔のままで、怪我人に罵声を発せられる琴乃は末恐ろしい。




 秀介はそんな皆の様子を眺めながら作業を進めていた。

 クラスごとに枚数をそろえる単純なものだったから10分少々で完了だ。


「じゃ、ちょっとこの冊子をボックスに入れてきますね」

 両手にいっぱいの冊子を抱えて、僕は生徒会室を出ようとした。

「いってらっしゃい。道草しちゃ駄目よ、秀ちゃん」

 紅茶を手にしたまま義実が手を振る。

 秀介は再び苛立った視線を義実に投げようとするも、彼は慌てて視線を反らしたのだった。



そして、秀介がドアノブをつかんで出て行こうとしたときだった。


「待ちなさい秀介! あたしもいくから」

「はい?」




 いきなりかかった美紗緒の言葉に役員一同驚きの声を上げる。


「なによ? ただジュースでも買おうと思って自販機に行くだけよ。ついで!!」

 しかし、慌てた美紗緒の顔は真っ赤だったった。

 いつも自信に満ち溢れた彼女の珍しい表情だった。少しばかり少女らしい可愛い表情に、秀介は表情を緩めた。


「はい。じゃあ、いきましょうか」

「何笑ってるのよ……半分持ってやるわよ」


 思いもよらない優しい行動に、生徒会室にいた誰もがギョッとした。

 澄香は思わず窓の向こうの天気を確認したくらいだ。

 勢に限っては倒れこんだまま鼻血に汚れた顔を上げて「うぐっ」と何やら呻き声を上げただけであったが。



「2人とも気をつけてね」

 琴乃が手を振って笑顔で僕らを見送る。

「琴乃! 気をつけるも何も、下の階に行くだけじゃないの。このあたしを馬鹿にしてんの!?」

「はいはい……」

 顔を赤くしたままの美紗緒の、そんな苛立った言葉はもはや迫力がなかった。

 美紗緒に「早く行くわよ!」と促され、秀介は彼女と共に生徒会室を後にした。



「あの会長が人の手伝いをするなんて……」

 澄香は眼鏡を光らせながら、右手の中指で眼鏡を少し持ち上げる。

 澄香はドアの向こうを見るように視線を送った。


「澄香、どうせ裏があるに決まってるわよ」

「よっちゃんもそう思う!?」

 義実は「もちろんよ! 絶対あとで何かあるわよ!」と何度も首を縦に振った。



「美紗緒ったら、秀くんが辞めたいって聞くなり焦っちゃって」

 美紗緒の行動に談義を始める後輩を横目に、琴乃は窓の向こうを眺めながらそう呟いた。

「素直になればいいのに。変なところで小学生みたいよねぇ……」

 琴乃の視界の先で、太陽が柔らかく光っていた。



「美紗緒先輩が手伝ってくれるなんて、珍しいですね……」

 秀介は隣を並んで歩く美紗緒をちらりと見た。

「まぁ、あんまり痛めつけすぎるとせっかくのパシリ……じゃなくて、総務係がいなくなっちゃいそうだものね」



――やっぱりパシリですか……


帰ってきた美紗緒の言葉に、秀介は落胆を隠せない。



「そうですか。それはそれはどうも!」

 秀介が嫌みったらしく、精一杯の言葉を返してやる。

「ちょっと、秀介の癖に生意気ね。ったく、せっかく手伝ってやったのに。もういいわよ!!」

 唐突に美紗緒先輩は急に歩くスピードを速める。



「ちょちょちょちょっと、先輩! 冗談ですって……冗談! 待ってくださいよ!!」

「あんたなんぞ、誰が待つか!!」


「先輩……先輩ぃぃ……!!!」

「あぁ、うるさい!馬鹿!!」



 美紗緒を追いかけて、秀介は冊子を持ったまま走った。




 後ろから慌てて追いかける後輩の足音に、美紗緒は満足げに口元を緩める。

「せんぱーい!!」



 ふと美紗緒は立ち止まり、前へ続く廊下に嵌められた窓に目を遣った。窓の向こうは太陽の光を浴びて木々が輝いて見える。



「美紗緒先輩、早くしないと下校時間になっちゃいますよ」

 美紗緒が立ち止まって外を見ている間に、秀介は美紗緒を追い抜いて数歩先で立ち止まっていた。

 美紗緒は慌てて歩き始めた。その様子に秀介は表情を緩めて「早く行きましょう」と続ける。


「ちょっと! あんたが遅いから待ってやったのに!」

 美紗緒は早足で歩き出す秀介を小走りで追いかけた。



「先輩こそ、ぼーっとしてましたね」

「うるさいわ!」



 優しい日差しが2人の背中を照らした。

 今日も、生徒会活動日和だ。

読了ありがとうございました。

一応ラブコメです。小学生男子みたいな恋愛の仕方しか分からない生徒会長と、無自覚なのか何なんのか、というレベルの意識しかできていない総務係の話でした。

楽しんでいただけたようでしたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ