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42.シュークリーム

 今夜のために人や武器を集める準備があるからと、砂音は帰ってきたばかりだったにも関わらず、そのまま学校へと戻って行った。その時初めて知ったのだけど、自身の家に帰ることが出来ない『影化』された白地さんらはここ数日、深夜の校舎で大所帯に暮らしていたらしい。存外苦労してそうな絵面が想像されて、まだまだ知らない側面も多そうだなんてことを考えた。

「……」

 再び居間にぽつんと取り残された僕は、人知れずため息を吐いてしまう。目の前に残された箱には彼女が食べ忘れて行ったシュークリームが入っているはずで、冷蔵庫に突っ込んでおくのも面倒だったし僕の腹具合も隙間に乏しかったものだったから。

「妹が忘れてったみたいなんだけど、食べる?」

 と、押し入れに隠れ潜んでいたものを、襖を開けて、ちょうど中から出てくるところだった『彼女』に問うてみる。

 しかし『彼女』はちらりとこちらを見たきり、特に返事をすることもなく僕の目の前を横切って、居間から出て行く。何かと思えば廊下の奥から水を流す音がして、ずっと我慢していたのかと合点がいった。

 浮月さんの実家から連れ出されてこちら、ろくな説明も受けぬまま押し入れに潜むよう指示された『彼女』が、その姿を隠しながら一連の会話を盗み聞いて、結果何を思ったのかなんて僕には想像もつかない。されど、居間を駆け抜けた『彼女』の目元はわずかに光っていたようにも思えたから、きっと僕が口にしたこともあながち間違っていたわけでもなかったのだろう、と。

 思っていたところに『彼女』の足音が戻ってくる。

「色々準備もあるし、そろそろ行こうか?」

 そう僕が尋ねて。『彼女』は返事もせず向かい側に座る。

 立ち上がりかけた姿勢をこちらが持て余す手前で、『彼女』は箱からシュークリームを取り出し始めた。

 相変わらずのマイペースぶりは健在か、なんて思いつつ。

「……お茶淹れてくるね」、と。

 『彼女』はきょとんとしたように、口の端にクリームを付けたまま首を傾げた。


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