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第9話 「少女の約束」


「下がっていろ、ルーク!」


「衝撃<インパクト>!」


ルークに襲い掛かろうとしていた蠍型の魔物の

頭が爆散する。


「カケル、まだだ!」

テトラに促されそちらを向くと、

今度は蝙蝠型の魔物がカケルに襲い掛かってきていた。

「アイスバレッド」

テトラの魔法が蝙蝠を撃ち落す。

やがて戦闘を終えると、あたりは静かになった。



テトラの予想したとおり、

ルークは一行にとっての文字通りお荷物となり、

探索のペースはガクンと落ちることになった。



ルークは極度の怖がりで、魔物を前にすると

足がすくみ何も出来なくなる様子であった。



「す、すまない・・・」


一度プライドが折れると、ルークは一気にしおらしくなり、

弱音ばかりを吐くようになった。

尊大な態度は弱さを隠すためだったのだろう。


とにかく一行はその探索速度を落としながらも一層一層を

降りていくのであった。




・・・

・・



迷宮でカケルとテトラに出会って、今日で3日目。

その間、ルークは何度も二人の戦闘を見ていた。

今も岩陰で自分が隠れている目の前で、

巨大なオーク3体と戦っている。


自分の知っている冒険者と比べても、華奢な体つきの

カケルははたから見ても強そうには見えない。

いや、こうして戦闘を見ても彼は特段強くはないのだ。


魔法は属性魔法が使えないようで、無属性魔法のみで戦っている。

ルーク自身は魔法の才能がなく出来ないが、魔法の分野に才能の

ある者であれば10歳になる前に火球くらいは放てるようになる。

強靭な力も、スピードもない。

彼の動きはルークにも見えるくらいだ。


だが、カケルは上手いのだ。

攻撃の避け方が、魔法の当て方が。

一つ一つの動作が流れるように、

決して自らを危機に晒さぬように行動している。


レベルこそ駆け出しの冒険者くらいだが、

まるで熟練の冒険者のようだ。

彼はこの賢者の塔の高レベルな魔物にも引けを

取らずに戦うことが出来ている。


そしてさらに凄いのが、カケルの使い魔だと名乗る

この小さな黒猫だ。

言葉を話す動物は居るが、猫となると初めて出会う。


テトラはルークのの魔法指南役や、知り合いの冒険者などとは

比べものにならないほどの濃密な魔力を纏っている。

そして自らも戦いながら、

戦闘全体をコントロールし、

カケルに対して万全のサポートをしているのだ。


初めは自分と同じ賢者の塔の下層から飛ばされた

駆け出しの冒険者たちだと思った。

だが、一緒にいて彼らが確かな実力をもっていることが分かる。

彼らであれば上層にアタックすることも可能なのかも

知れない。ルークはそんなことを思っていた。




「・・・ふぅ」

戦闘が終わり、身体強化を解くカケル。

ふと顔をあげると、テトラがまだ魔力を纏ったまま

なにやら神妙な顔つきで中空を見ていた。


「どうした?テトラ」

カケルの言葉に、ピクッと反応するテトラ。

「あぁ、なんでもないよ」

そういって魔力を切ると、再び階下に向け進路を取るのであった。





・・・

・・


『カケル、おきて』


その声に目を覚ますカケル。


『カケル?』


「・・・ロロか?」


目を開けるとそこには心配そうにこちらを覗き込む少女がいた。

周りを見るとそこはかつて訪れた書庫のような場所であった。





『カケル、だいぶ強くなったんだね。感じる魔力が以前とは桁違いだよ。僕からの贈り物を役立ててくれているみたいで良かった』


贈り物、そう言われ彼女の柔らかい唇を思い出すカケル。

顔が赤くなっている。


「あ、あぁ。ありがとうな。なかなかスキルのレベルが上がらないけど」

『ふふ。それはそうさ。数多あるスキルの中にはただ使うだけじゃレベルの上がらないスキルもあるんだよ』


「そうなのか?じゃあどうやって大賢者の叡智はレベルが上げられるんだ?」

カケルが尋ねる。


『ふふ。それは簡単さ!大賢者の叡智はいわば僕と君との絆そのもの!僕を想い、僕を感じてくれれば大賢者の叡智はどんどん力を増していくよ!』


そういって抱きついてくるロロ。

「お、おい。抱きつくな!」

引き剥がそうとするが、腕にあたるロロの柔らかな膨らみに

思わず顔が緩んでしまうカケルであった。



その後も、ティーテーブルを挟み

お喋りを続ける二人。

ロロはカケルの世界の話に興味深々といった様子であった。




そういえば、とカケルが思い出す。

「三英雄の伝説っていうのを聞いたんだ。邪神を倒した大賢者ロロって言うのはお前のことでいいんだよな?」


その言葉にピクンと反応するロロ。

今までの柔らかな雰囲気が一変、硬い表情でこちらを見てる。


『僕が・・・?邪神を?』

「あぁ、剣神と魔王と一緒に邪神を倒したって聞いたぞ」


『、、、それは、、ううん。倒してなんか、ないよ』


その言葉にギクリとするカケル。

あれ?何か地雷踏んだか?と思う。


『邪神は、今でもこの世界に生き続けているんだ』

「そうなのか、なんでもルークの話だと・・・」

『ごめんカケル、その話は今はしたくない』


カケルの話を遮って耳をふさぐロロ。

彼女はそれきり黙ってしまう。


ぽりぽりと頭をかいてどうしたものか、と悩むカケル。

そういえば、三英雄の話をしたときにテトラも知らない

様子だった。

目を覚ましたらテトラに詳しく聞いてみよう。

カケルはそう思った。



「そ、そういえばさ。俺、いまだに属性魔法が使えないんだ。その、何かコツとかあれば教えてくれないか?」


場を取り繕うように明るく尋ねるカケル。

「魔法のコツ?なんだろう僕はもう物心ついた時から魔法が使えたから正直コツっていうのがわからないかも知れない」


とりあえず見せてよ、とロロに促され

カケルは久しぶりに属性魔法を使うべく魔力を練った。


「ふっ・・・・」

集まる魔力に熱くなれ、燃えろと念じる。

火をイメージしどんどん温度が上がるように魔力を集める。


だが、

その魔力が魔法になるその直前に、

魔力はなぜか力を無くし中空に霧散してしまう。


「ダメか・・・」

もしかしたらと思い挑戦したがやはり属性魔法は

発動しなかった。


『なんだか・・・不思議だね』

一連の動作を見ていたロロが言う。


『属性魔法はイメージの魔法なんだ。それさえ出来ていれば魔力の練れる人であれば誰でも魔法を使える。魔法が使えない人っていうのはこの魔法を練るって感覚が理解できない人なんだよ。』


でも、とロロは続ける。


『カケルは無属性魔法を使えるし、魔力の練りも上手いと思う。でもそれなのに魔法になる直前でまえるで何かにかき消されるように魔法が消えているね』


ふーむ、実に面白いな。

と言いながらロロはブツブツと考え事をはじめた。



やがて書庫に光が差してくると同時に、

カケルはふわりと体が浮くような感覚をえる。


『今日は・・・お別れかな』

「そうみたいだな」


『はは、なんだか寂しいね。お別れのキスでもする?』

ロロが言う。


「ば、バカ。そんな冗談言うな。また会えるだろ」


カケルの言葉に目を臥せるロロ。


『本当に?』

「ん?」

『本当にまた会いきてくれる?』


上目遣いで顔を覗き込んでくるロロに

思わずドキリとするカケル。

近くで見ると本当に美しい顔だ。


「あたりまえだろ!絶対ロロに会いに来る!」

その言葉と同時に体が宙に浮き、意識が引っ張られる。

ロロが何かを言っているが、声が聞こえない。


「約束」


そう口が動いたのだけをカケルは見ていた。






・・・

・・



ある日、休息から目を覚ますと

寝床にルークの姿がなかった。


トイレにでも行って魔物に襲われたかと

カケルが辺りを探すと、

ルークは自らの剣を一心に振っているところであった。


「精が出るな」


カケルの言葉にルークの動きが止まる。


「カケル・・・」








「僕の家はそれなりに由緒ある家系でな。兄はすでに成人して、王都で要職についている。非常に優秀な兄でな、幼い頃から神童と呼ばれ、魔法も剣も達人なのだ。」

ルークは語る。


「父はそんな兄に全幅の信頼を置いていてな、兄が家を継ぐのをとても楽しみにしているのだ。つまり僕はただの穀潰しさ、家にいてもいなくても構わないような存在なのだ。案外、迷宮で行方不明になったと聞いて胸を撫で下ろしているかもしれないな」


はは、と自嘲気味に笑うルーク。


幼い頃から優秀な兄と比較され、

おそらく自信という自信をすべて打ち砕かれて

きたのだろう。

ルークの極度とも言える怖がりは、

家庭環境に原因があるのかも知れないな、

カケルはそう思った。


「こ、こんな話をしてもカケルには関係なかったな。その、すまない」


ルークは剣をしまうと、

肩を落としすごすごと部屋に戻っていった。

カケルはルークに声を掛けたかったが、

その背中に語る言葉が見つからず無言で見送ることになった。



ただその日以降、カケルは言葉の代わりに、

ルークと共に剣を振ることにした。

最初はただの素振りをしていたが、

次第に二人で剣を合わせることになる。

それによりカケルも、ルークも互いに

剣技のレベルが向上していくのであった。





・・・

・・




151階層、深い森のエリア。

一行はいつものように階下へ向かう階段を探していた。


「この階、なにかおかしいね」

テトラがいう。


たしかに、とカケルも思う。

いくら探索しても魔物が出てこないのだ。

いままでの経験からいえば、森林の階層は他の階よりも

魔物が多く出るはずだ。




階下への階段を見つけた一行は、

その光景に改めて異常を感じる。



「これは・・・」



階下の階段には隙間なく糸が敷き詰められていた。


「蜘蛛の糸・・・だ」

ルークがいう。


「どいて」

テトラがそう言って、炎の魔法を放つ。

だが、糸はびくともしなかった。


「この糸は魔力を纏っている。糸の主を倒さない限りは先に進めないみたいだね」

「糸って、そんな今までそんなことなかっただろ」


カケルの言うとおり、

階段の周囲には魔物を寄せ付けない魔力が満ちており、

魔物は本能的に近づくことが出来ない。


だが、この魔物は意思を持って罠を仕掛けに来ている。

相当に頭が良い魔物だ。



一行は踵を返し、再び森のなかに入っていく。




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