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第6話 「少女の御礼」


296階からの迷宮階ではゴブリン以外の魔物とも

数多く戦闘することとなった。


例えばゴブリンよりも体格が大きく戦闘能力の高い

オークや、同じゴブリンでも遠距離から

魔法攻撃を放ってくるゴブリンメイジなどだ。


299階層では戦闘を避け逃げ回るだけであったそれ

らのモンスターを倒せるようになり、カケルは自ら

のレベルアップを実感する。





だが、とある魔物に関しては未だに一匹も倒せず、

苦手意識を持っていた。



「でやがったな・・・」

うねうねと蠢く、粘り気のある液体。

RPGの王道スライムである。


「テトラ・・・手を出すな。こいつはおれ一人でやる」

鬼気迫る表情のカケル。

じりじりとスライムとの距離を詰める。



そして

「衝撃波!」

右手から魔法を放つ。

その魔法の威力に、スライムは木端微塵になった。



「どうだ!」

「カケル!それはダメだ!」

テトラが叫ぶ。



辺りに散らばったスライムの欠片がふたたびうねうねと動き始める。


そして、


「むごっ!」

欠片のひとつが、カケルの顔にへばりつく。

肩に、脚に散らばった欠片たちが次々とまとわりついていく。

一瞬の間にカケルの身体はスライムに覆われてしまった。


スライムには無属性魔法や物理攻撃が通用しない。


その代わり、属性魔法には極端に弱く

小さな火球ひとつでも倒せるのだが

属性魔法を未だにひとつも操れないカケルには、

倒す術がなかった。


「カケル、何度やったら気が済むのさ・・・」


その度にテトラはため息をつきながらカケルを

助けるのであった。





「ひどい目にあった。まだ体中がベトベトする」

「早いところ属性魔法を覚えないと・・・。カケル僕が居なかったらスライムに完封負けだよ?

その言葉に反論が出来ず、とカケルは肩を落とした。




「あ、カケル。ちょっと待って。そこの部屋」

「あん?」


テトラが示した部屋の中を見ると、そこには宝箱が置かれていた。



「おおーあれは、冒険者の夢、宝箱か」


「ふふ、そうだよ。ここは世界最高峰のダンジョン。宝箱の中身にも期待だね」


テトラがニャーと鳴く。


「開けて平気なのか?開けたら実は魔物で、食われて即死とか無しな」

「大丈夫、さっき探知魔法をかけたけどこれは間違いなく宝箱だよ」


レベルの上がりきった探知魔法はそんなことも出来る万能魔法なのだという。


便利なもんだな、とカケルは思った。


「ではでは早速・・・・ん?鎧か?」

「みたいだね。それは・・・えっと『火トカゲの皮鎧』だってさ」


着てみるとサイズはカケルの身体にぴったりだった。

不思議に思いテトラに尋ねるとテトラは宝箱の仕組みに教えてくれた。


賢者の塔に限らず、この世界にあるダンジョンでは

宝箱が発生することがある。


宝箱はダンジョンの魔力により発生するもので、

開けた者の所持品となるように出来ているらしい。

開けた者の魔力に感応し、サイズなどはある程度調整されるとのことだ。








カケルの戦闘能力は順調に高まっていた。

もともと頭もよく、運動も苦手ではないカケルである。



属性魔法は未だに使うことができないが、

無属性魔法はカケルとの相性は良いようで、

魔法の強弱の調整や細かい操作など、

柔軟に使うことが出来るようになってきた。



291階層の途中で休息所を見つけた。

299階層以来の発見だ。


上の階とは様相が異なり、こちらは

二階建てベッドが左右に並んでいた。

パーティーで使用するにも十分な部屋の大きさだ。



水の満ちた水瓶と、パンが保管されている。

相変わらず傷んではいなかった。


「今日のところはここで休もうか。僕もなんだか今日は疲れたよ」

テトラが言った。


「ああ、久しぶりにベッドだな」

やがて、カケルの意識は深く眠りにつくのであった。







・・・

・・







『起きて』

「ん......」

『起きて』


眠りについてからどれくらい経っただろうか。

声を掛けられ、カケルは目を覚ました。


そこは眠りについたはずの休息所ではなく、

背の高い書架に囲まれた場所であった。



「ここは、どこだ・・・・・?」


『ここは僕の書庫の中だよ』


そう声を掛けられ振り向く。

そこには一人の女性が作業机に腰かけていた。

カケルは正面からその女性を見据える。

美しい女性だ。

長い金色の髪に白い肌。

そして深海のように深い

ブルーの瞳がカケルを見つめている。

外見の年齢はカケルと同じくらいだろうか



カケルは、どこかで彼女のことを見たことがあるような気がした。

だがどこだろう。思い出すことができない。


『あはは、そんなに見つめられると照れちゃうね』


カケルは恐る恐る彼女に声をかける。


「君は誰だ?俺は塔にいたはずで・・・目が覚めたらこんなとこにいたんだが」


カケルの質問に、女性はふふと笑う。

妖艶な笑いだ。


『あ、ゴメンゴメン。信じられないんだけどさ、君って大賢者の叡智を引き継いでくれたんだよね?それをキーにして、思念魔法で君に直接話しかけてるんだ。ここは君と僕、お互いの夢の中みたいなもんさ』


「夢・・・大賢者の叡智を?」



そこまで話してカケルははっと気が付いた。

大賢者の叡知を取り込んだときに流れ込んできた数々の映像。

そしてその中に写った一人の美しい女性の姿。

あの映像では白いドレスを着ていたが、その彼女に間違いはない。


「もしかして君が大賢者?」


カケルの問いに、女性は今度はにっこりと笑う。

今度は少女ように無邪気な笑顔だ。


『ようやく分かってくれたんだね!初めまして。僕が大賢者の叡智の生みの親。魔導師ロロだよ!』



・・・

・・




「えーっと?質問してもいいのか?」

カケルは先ほどとは違う意味で恐る恐る声をかける。

目の前にはニコニコとこちらを見つめるロロがいる。


「うん、うん。なんだい、カケル。カケル、うん、本当に素敵な名前だね!君の頼みならこのロロちゃんは何でも答えちゃうよ。」


そう言って身を乗り出すロロ。

豊満な胸が作業机の上に乗っていて、つい目が行ってしまう。


「コホン。ロロはなんで突然俺の事を呼んだんだ?」


「うーん、突然じゃないよ。僕はここでずっとカケルを呼んでいたんだ。けれど靄がかかったみたいに接続が出来なくてさ。今夜、ようやく君とつながる事が出来たんだ」


ロロは頬を膨らませながら言った。


「君のことを見てその理由が分かったよ、君ホントに魔道士?僕の大賢者の叡智を引き継ぐには明らかに魔力が足りないように見えるけど・・・・」


「あ、あーそういうことか。」


カケルはテトラが言っていたことを思い出す。

大賢者の叡知を使いこなすには、魔力が必要だということを。

それはこういう意味か、とカケルは納得した。


「この魔力じゃ、大賢者の叡智が使えないどころか、起動方法もわからないよね?」

ケラケラと笑いながら話すロロ。


「笑い事じゃねーっての、せっかくチート能力を手に入れたかと思ったのによ」


「チート?ふふ。まぁまぁ、僕でよければ何でも聞いてよ。なんと言っても、当代随一の魔導師と呼ばれてる僕だからね」




その後も、カケルはロロが話しかけてくるままに

他愛もない話を続けた。


『転移?』

「あぁ、そうだ。俺はこの世界に連れてこられたみたいでな。起きたら塔の最上階だったんだ。」

『そんな魔法聞いたこともないよ・・・本当ならカケルは異世界人ということになるね。通りで魔力が薄いはずだ。』

「そんなにか?」

『うん、残念だけど生まれたての赤ん坊より魔力を感じないよ。』

がっくりと肩を落とすカケル。

『通りで大賢者の叡智を引き継げたはずだ・・・そんな抜け道があったなんて』

「あ?」

『ん、なんでもないよ』





どれくらい話しただろうか。

薄暗かった図書館の中に薄く、日がさしてくるような気配があった。


「朝、か?」

『うん。どうやら外の世界でも世が明けるみたいだね。そろそろお別れだ』


「俺はまたここに来れるのか?」


『うーん、どうだろうね、いつでもこちらから誘ってはいるけど。どうやら今日、君がここに入れたのはほぼ偶然みたいなんだよね。』


ロロは、ハハと頭をかいた。


「そうか、すまんな。せっかく呼んでくれているのに」

カケルは自分の魔力不足を恨んだ。



『悲しい顔しないでいいよ。必ずまた会えるみたいし。あ、そうだ。今日はカケルにプレゼントをあげる』

唐突に立ち上がる少女。


「プレゼント?」

『うん、そうだよ。はい、じゃーそこに座って、身体を向けて』


「こうか?」


カケルが立ち上がり、ロロの示す椅子に座った瞬間。

ロロは急に顔を近づけ、カケルの唇を奪った。

ふにゃりと柔らかい感触。




「!!なんだ突然」

思いがけない行動に顔を赤くし、椅子から飛び上がるカケル。



『ふふ、すぐに分かるよ。これ僕からのお礼だと思ってほしいな』


「お礼って、、俺が何かしたのか?」


『分からないの?うん、とっても嬉しいことをしてくれたよ。秘密だけどね』


なんだそりゃ、とカケルは思った。

その途端、カケルの身体は浮き上がり、ロロとの距離を離していった。


ロロは切なそうな顔でこちらを見上げ、

小さく手を振っている。



「ロロ」

そう叫んだつもりだったが、声が出ない。


カケルは次第に意識が遠のくのを感じる。

浮遊感が続きまるで水中を漂っているような感覚だ。




・・・

・・




休息所でテトラと朝食を食べていると、

テトラは信じられないような顔でこちらを見た。


「カ、カケル。君それどうしたんだ?突然・・・なんで・・・」


珍しくテトラが狼狽している。

カケルはわけも分からず首をかしげた。

テトラは探知魔法を使って、カケルのことを調べているようだ。


カケルも自分自身に対して探知魔法を使う。


LV12

HP 98

MP 230

身体強化Lv5

加速LV4

衝撃波LV4

魔法刃Lv4

魔弾Lv3

探知Lv3

『大賢者の叡知』Lv1


新しいスキルが一つ増えている。


「・・・そうか。あれは、そういうことか」

カケルはそこで先ほどまで自分が夢の中で話していた少女を思い出す。


そして彼女が去り際にくれた「プレゼント」についても。

柔らかい唇の感触も。


「夢、じゃなかったんだよな?」

「どういうことだか説明してくれ、君が大賢者の叡智を起動させるにはまだ数年はかかると思っていたのに・・・」


カケルはテトラに先ほどの夢の話をした。

「思念魔法・・・大賢者の叡智にそんな力があるなんて・・・驚きだよ」

テトラも大賢者の叡智の能力に関してはあまりよく分かっていないらしい。



・・・

・・



ロロから受け取った大賢者の叡知は戦闘面においても、非常に強力なスキルであった。

カケルがそのことに気が付いたのは塔の探索を再開し、

最初に出会った、オーガとの戦闘の時であった。

カケルがいつものように<身体強化>と<加速>で身体を強化すると、

昨日までとは比べ物にならないほど強力な魔法が発動した。

戸惑いながらも、オーガに対し魔弾を放つと

オーガは大爆発とともに、バラバラになった。


―――――無属性魔法の威力強化


どうやら、

これが大賢者の叡知のスキル効果のひとつのようだ。

渡し方はどうであれ、ロロからのプレゼントは

塔探索に非常に役立つものであった。

カケルの戦闘能力が飛躍的に向上したため、

ここから探索は加速度的に進むことになる。




・・・

・・






大賢者の叡知を手に入れてか3週間。

カケルはすでに200階層に到達していた。


LV20

HP 320

MP 730

身体強化Lv10

加速LV9

衝撃波LV9

魔法刃Lv8

魔弾Lv7

探知Lv10

『大賢者の叡知』Lv1



3週間で80階層以上の突破は驚異的な早さと言っていいだろう。

冒険者パーティでも、1週間で20階層も登れればかなりの凄腕だ。


それもこれもテトラの的確かつ、正確な道案内にあった。

下層への階段はランダムで発生するため、探索の必要があるが

罠やモンスターへの遭遇などはあらかじめテトラが察知して

くれていた。


また、テトラから魔力供給を受ける修行も引き続き行っていた。

通常、魔法を使うものはMPが枯渇すると戦闘能力がなくなるが、

テトラのおかげでほぼ魔力回復のための時間をとらずに探索を

することが出来ていた。



オークや、ゴブリンの群れなどを多く狩った影響で

カケルのレベルは順調にあがっていた。

大賢者の叡知のスキルレベルは上がらないものの、

その他の無属性魔法はさらに強化されている。


依然、属性魔法は使えていない。


今度ロロに会えたときには、その辺のところを聞いてみないとな。

カケルはそう思った。





そして二人は、200階へ至る扉の前にいる。

探知魔法を使いこなせるようになったカケルにも、

その強力な気配を感じることが出来る。


この部屋のなかには賢者の塔の最後の番人

エンシェントドラゴンと並ぶ強力な魔物がいる。


「準備はいいかい?カケル。外に出るのであればここは避けては通れない道だ。エンシェントドラゴンのようにやり過ごすことも出来ないよ」




これまでの探索で各階の主のような魔物と戦う機会はあったが、

この階から感じる気配はケタ違いだ。


「あぁ、大丈夫だ」


二人は重い扉を開け、ゆっくりと部屋に入った。







広い部屋で、西洋の大聖堂を思わせる部屋であった。


部屋の中央には、鎧が一式だけ置かれていた。

黒く輝くその鎧からは先程まで感じていた強力な気配を感じる。




「塔を登りしものよ、よくぞここまで辿りついた」


声が聞こえる。

登ってきた訳じゃないけどな、カケルはそう思った。



「我が名はデュラハン、大賢者様の剣なり」




「ふん、カッコつけやがって」

テトラが悪態をつく。


「カケル、作戦通りいくよ。とにかく攻撃を避けることを中心に」


「わかった」

カケルとテトラは同時に、自らを強化する。



「ここを通りたくば、我を倒すがよい」

そういってデュラハンは傍らに置かれた大剣を構えた。



「ゆくぞ」



デュラハンは一足飛びでカケルに襲いかかると、

その大剣を振り下ろした。

恐ろしく早い太刀筋をカケルは後方への跳躍で避ける。


同時に、カケルが魔弾をデュラハンへ向け放つが、

デュラハンはそれを横凪ぎでかき消す。


その挙動の終わりに、小さな黒い影が鎧にヒットする。

デュラハンは後方へと吹きとばされた。

テトラの蹴りがデュラハンの顔面に当たったのだ。


だがデュラハンにはダメージはないようだ。

体勢を建て直し、詠唱と共に剣に魔力を集中させる。



「ソードインパクト」

デュラハンが地面へ剣を突き立てる。

剣を中心に半径10メートルほどの地面が赤く輝く。



「まずい!飛べ!カケル」

テトラの指示に、後方へと飛びのくカケル。



その瞬間、地面が大爆発を起こした。

熱波と爆風が顔にかかる。



間一髪の回避に呼吸を荒くするするカケル。

巻き上がる砂煙が晴れると、

そこには巨大なクレーターが口を開けていた。



「やばかった・・・」


「気を抜くな!カケル!」

安堵するカケルにテトラから怒声が飛ぶ。



その瞬間、砂ぼこりの向こうから

カケルの目の前に黒い影が

飛び込んできた。



「消えろ、弱きものよ」

振り下ろされる大剣。


カケルは一足飛びに、後方へ回避した。



だが、それは悪手であった。

一撃目と同じ後方への一足飛び。



カケルが着地をしたわずかな挙動の制止時間に、

デュラハンは追撃する。



デュラハンの巨体がカケルに激突する。

鋼鉄の鎧の重量を十二分に乗せた当て身であった。




カケルはそのまま壁に叩きつけられた。


「グハッ」

呼吸が止まる。

これまで戦ったどの魔物よりも強力な一撃だった。

頭がくらくらする。


「カケル!」

テトラが氷魔法を放つ。

巨大な氷の塊が地面から生え、一直線にデュラハンへ向かう。


デュラハンはこれを回避し、

二人と距離をとる。


「大丈夫かい?まったく、あんな単調な回避をするなんて・・・」


テトラはそう言いながら回復魔法を唱える。

緑色の光に当たると痛みが引いていくのがわかる。


「わ、悪い。ちょっと緊張していたのかも知れねぇ」


立ち上がるカケル。

一撃くらったことにより、少しは固さがとれたようだ。



「いいかい?さすがにデュラハンが相手では僕も分が悪い。少しずつでいい確実に魔法を当てていこう」


「わかった」


カケルは素直に従う。テトラの指示に間違いはないのだ。


「いつも通り残存魔力の心配はいらない。全力でいこう」


そうして二人はデュラハンへ向けて同時に駆け出した。



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