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第41話 暴風竜の討伐


カケルが目を醒ますと、なこは部屋のベッドの上であった。

よく見ると大賢者のコカトリス亭の自室だ。


「・・・おはようございます、カケルさん」


声を掛けられ驚いてそちらを見ると、

入り口近くの椅子にセブンが腰かけていた。


「良かった、目を醒まされて。3日も眠っていたんですよ」


「3日もか・・・、暴風竜はどうなったんだ」


セブンはゆっくりと、

カケルが倒れたあとのことを教えてくれた。




竜鱗を攻撃された竜は、

竜鱗が再生するまで全ての魔力を失い、

魔法はおろか飛行すら出来なくなる。

竜鱗が竜族の唯一にして最大の弱点と言われる理由だ。


すべての力を失った暴風竜は意識を失い、

今も目を覚ましていない。

そしてそのままミリアルドが呼んだ、

騎士団の後方部隊により捕獲され、

ロリリアの街へと運ばれた。


現在もまだ意識を失ったままだが、

心臓の鼓動は時間と共に強まっており、

目を覚ますのは時間の問題とのことだ。


一方、暴風竜討伐の吉報はロリリアに歓喜をもたらした。

七竜の一角として名高い暴風竜を討伐したことは、

歴史的な快挙でもある。

街に帰還した討伐隊は、

英雄として万雷の拍手で迎えられたそうだ。



「カケルさんは戻ってからも目を覚まさずずっと眠られていました、魔力の使いすぎが原因かと」


「そうだったのか、暴風竜を・・・」


カケルは暴風竜の事を思った。

最後の瞬間、イル=バルヴァロは何を思っていたのだろうか。


「七竜の一角を処分すべきか否かでギルド、そして騎士団が揉めています。そう簡単には決まらないと思われます。ミリアルド様の根回しで暴風竜が目を覚ましたら一度は会える手はずになっています。それからリエル様が目を覚ましたら家に来るように、と」


そう言ってセブンが立ち上がる。


「帰るのか?」


「はい、カケルさんに付きっきりでしたので。リエル様がお一人では心配です」


セブンは言わなかったが、

セブンはカケルが目覚めるまでほぼ不眠不休で看病をしていた。


「セブン」


扉を出ようとするセブンに声をかけるカケル。


「はい」


「ありがとうな」


その言葉にセブンは丁寧にお辞儀し、扉を出ていた。

赤くなった顔はカケルには見られていない、はずだ。



・・・

・・



身支度を整え外に出たカケルは、

軽い散歩がてら外に出た。

3日も寝たきりでは筋肉も衰える。


街を歩くと、お祭りムードに驚く。

まるで感謝祭のように出店や、

花火や太鼓の音が鳴る。


どうやら捕獲された暴風竜の噂を聞きつけ、

近隣の街からも観光客が押し寄せているらしい。

大通りの往来はいつもの倍以上だった。


そしてそれ以上に驚いたのは、

多くの人がカケルに声を掛けてきたことであった。


「おぉ!小賢者様!目を覚まされたんですね1」


「小賢者様、ありがとうございました!」


「快気祝いにうちのお店寄りませんか?小賢者様!安くしますよ」


なぜか小賢者と呼ばれるカケル。

不思議に思っていると、街中でよく知った声をかけてきた。


「カケル!目を冷ましたのか!」


振り返りそこに居たのは、

暴風竜を倒した張本人のルークであった。


「あぁ、さっきな。すごい盛り上がりだな」


「ああ、うん。暴風竜を倒すなんてありえない事だからな。他の街にも噂は届いているらしい」


「そうか・・・それよりさっきから何故か変な呼び方で声を掛けられるんだが・・・」


「あぁ、それはね」


ルークが説明する。

人の口に扉は立てられぬとはよく言ったもので、

帰還した英雄達、この場合はルークにボッシュ、ミリアルドを除く冒険者と騎士団のメンバーは、

街の人々に求められるがまま戦闘の詳細を喧伝してみせた。


鬼人と緑の疾風の活躍、

夜の魔王とその従者の圧倒的な力。

そして見たこともない魔法で暴風竜と戦った

カケルの話である。


新たなヒーローでもあるカケルの登場に、

ロリリアの街の人々は敬愛をこめ「小賢者」の

二つ名でカケルを称えたのであった。


「・・・君はスゴいよね。こんなに早く二つ名なんか付けられて・・・」


ルークが言う。


「何言ってんだ。暴風竜に最後の攻撃を放ったのはルークだろ?もちろんお前だって英雄じゃないか」


「・・・僕は、そうでもないよ」


ルークの話によると、

最後のルークの一撃については目撃者がおらず、

曖昧になっているらしい。

暴風竜の竜魔法によりほぼ壊滅状態だったのだ、無理はない。

実際、ボッシュとミリアルドですら竜魔法の爆風で吹き飛ばされており、

ルークの一撃を見たのはカケルだけと言うことになる。


「別にいいけどさ・・・僕だって頑張ったと言うか・・・」


ルークがブツブツと言う。

まだ納得していない様子だ。


その後も、街を歩いていると「小賢者」に対して声を掛けてくる人は居たが

ルークに対して労いの言葉はなく、

ルークは最後には無表情になっていた。


一度だけ八百屋のおじさんに


「お、小賢者とその従者様!」


と声を掛けられた時にカケルは思わず笑ってしまった。

ルークはさらに不満げにカケルの隣を歩くのであった。



・・・

・・


その夜、カケルの部屋がノックされる。


「おい、カケル。入るぜ」


現れたのはボッシュであった。


「目を覚ましたって聞いたが、遅くなってすまなかったな。ギルドの方も街も、暴風竜が来たときより問題が続出しててな。身体、もう大丈夫か」


「問題は、ないと思う。身体も魔力も元通りみたいだ」


「そうか。カケル、今回は本当にありがとうよ。お前が居なきゃロリリアの街は間違いなく終わりだった。感謝してるぜ」


「止めてくれ、暴風竜の件だって元はと言えば、俺が大賢者の叡知を使ったからやつを呼び寄せてしまったようなものだからな」


「それも含めて、だ。結果的にとは言えこの街はお前に救われたんだ。まぁ、小賢者様とは笑っちまう話だがな」


「それは言わないでくれ」


そのあとボッシュとゆっくり話をした。


初めて鬼人と言う二つ名を付けられた時には、

恥ずかしくて街も歩けなかった話を聞いてカケルは大笑いした。


「ところでカケル。お前はこのあとどうするんだ?」


「このあと?」


「しばらくはこの街で慎ましく冒険者やってくって話だったが、もうこの街でお前は有名人だ。慎ましくなんて無理だぜ?色々面倒くさいことも多いだろうよ」


「そうか。そうなるのか・・・まったく考えてなかった」


「王都の方にも暴風竜の件は伝わるだろうよ。そうなると更に面倒くさいぞ」


悩むカケルにまぁゆっくり考えろと声を掛け、

ボッシュは部屋から出ていった。


3日も眠り続けていたからか簡単には眠れず、

カケルは朝までこれからの事を考えることになってしまった。



・・・

・・



「これからじゃと?そんなもの妾が知るか。自分で考えるんじゃな」


カケルは悩みをリエルに相談した。

今後の身の振り方だ。


「冷たいな、可愛い弟子なんだろ?」


「ふん、口だけは達者じゃな。さすがは『小賢者』様よ」


リエルはそう言ってクククと笑う。


「じゃが、この街に居るのは勧めかねるぞ。貴様が使うと言う『不思議な魔法』から、大賢者の叡知が露見しかねん」


カケルもリエルと同意見だった。

今まであまり意識して居なかったが、

大賢者の叡知を引き継いだ事が分かれば

暴風竜みたいなやつを惹き付けてしまう可能性もある。


「ふふ、悩むが良い。貴様も時期に分かるぞ、強者は常に孤独なのじゃ」


「怖いこと言うな」


カケルがそう言うとリエルは満足そうに笑った。



「ところでカケル。お主あの時の力はなんだったのじゃ。」


「あの時?」


「貴様が目を覚まし、暴風竜に挑む前よ。普段のお主とは比べられぬほど魔力が溢れておったぞ?」


「そうだったか・・・?まったく無意識だったけど」


「でなければ、貴様ごときでは暴風竜とは戦えぬであろうよ。」


「貴様ごときって言うな、傷つくから。あの時は大賢者の叡知で暴風竜の過去が見えたんだ。」


「ほう、イル=バルヴァロのか。それは興味深いの」


「それで目が覚めて、なんていうかこう、あいつが悪い奴に見えなくなってな。それで止めてやろうって気持ちが先走ってたよ。あとはあまり覚えていない」


「ふふ、悪名高い暴風竜が悪い奴ではない、か。本当に面白い奴よの」


リエルとの話は尽きず、夜更けまで色々な事を話し合った。


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