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第4話 「初めての強敵」



「なぁテトラ。ここってもう何度か通ったか?」

「いや、ここを通るのは初めてだね」

「そ、そうか・・・・・・」


カケルはずんずんと進んでいくテトラに付き従う。

同じ壁、同じ曲がり角、見たことのある小部屋。

そのすべてが、カケルの方向感覚を狂わせていた。


すでに休憩部屋から出て半日は経っただろうか。

レベリングで周回していたエリアからは遠く離れている。



「道、ホントにあってるのかよ」

そんなことを呟くカケル。


「これでも塔の管理者だからね、魔力の流れを読めば迷宮で迷うことはほぼ無いと思うよ。君が低レベルなうちは強力な魔物に出会わないルートを選んで進むつもりなんだ」


テトラが答える。

「お前が居なかったら死ぬまで脱出出来なさそうだな、頼むぞ相棒」

ニャーと鳴き声でテトラが答える。尻尾をフリフリ悪い気はしていないようだ。







ようやく到達した下層への階段をおり、下の階層に降り立ったカケルは、

先程までいた石壁と迷宮の階層との環境の違いに驚くことになる。




「ここって、一応塔の中なんだよな?」



カケルのとテトラの前には、木々が鬱蒼と生い茂る、

深い森が広がっていたのであった。



「そうさ。塔の中は魔法によって環境を変えるって言う話はしたよね。この森もそうだよ。ひとつ上の迷路型の階層とは異なる生態系が築かれているから魔物も強力だ。注意したほうがいい」



そう言って、テトラは迷いもせずに森の奥へと侵入していくのであった。




森に入って3時間は歩いただろうか。

テトラがカケルを静止し、その視線の先を辿るとそこには一匹の猪がいた。



鼻息を荒くして、若木の皮を貪っている。

真っ黒い毛並みと巨体、そしてそれに見合うだけの

巨大な牙が刃のように生えている。


「ファングボア。獣型のモンスターだね。ちょうどいい、あれを狩ってみよう。 そろそろお腹もすいてきた頃だったんだ。」



「あれ、食えるのか。うまいのかな。。って言うか俺はあれに勝てるのか、死にたくねーぞ」



これまでゴブリンだけを、しかも不意打ちだけで倒してきた

カケルにはあまりにも巨大な敵に思えた。


「大丈夫。ファングボアはその固い毛並みと筋肉で打撃や剣なんかにめっぽう強いけど、魔法にはそれほど耐性が強い訳じゃない。安心するといいよ」


レッツゴーと、尻尾を振りながら囃し立てるテトラに

カケルはため息をついた。




ゴブリンと対戦で幾度も使ってきた身体強化と加速をそれぞれ身に纏う。


何度も使って分かったが、それぞれの魔法には明確な効果時間があるようだ。


身体強化は3分、加速は1分ほどでその効果が切れてしまう。

そのあとは再び集中し、魔法をかけ直さなくてはいけなくなってしまう。



魔物との戦いではその僅かな時間が命取りになるだろう。

つまり魔物との戦いは1分以内が今のカケルの限界であった。


カケルの攻撃手段は乏しく、衝撃波を叩き込むか、

魔法刃で切りつけるしかない。


ファングボア相手にはその片方の魔法刃に効果が

見込めないため、1分以内に衝撃波で致命傷を与える

のが課題となる。


魔法が全身に行き渡るのを感じると、

カケルは地面を踏みファングボアに襲いかかった。



あっという間に詰まる一人と一匹の間合い。


ゴブリン相手であればここで無防備な背中に衝撃波を

叩き込めば勝利であったが、

やはりファングボアはゴブリンよりも1枚上手であった。



僅かな気配を察知して、

飛び込んでくるカケルに気がつくと、

その巨体に似合わぬ早さでカケルの突進を避けたのであった。


そしてすぐさま、体勢を整え、

一声嘶くと戦闘体制に入る。


しまった、とカケルは思った。


突進を避けられ急ブレーキを践んだため、

身体が硬直している。


一秒にも満たないわずかな隙であったが反応が遅れてしまった。



その間に、ファングボアはカケル目掛けて突進してくる。

まるで軽トラックが迫ってくるような圧力だ。

硬直は解けたがここから回避行動をとるには間に合わない。

カケルは両腕をクロスし、急所を庇う。

せめてもの防御だ。



そこにファングボアの巨体が直撃する。




大岩をぶつけられたような衝撃を受け、

カケルは吹き飛ばされる。

まるで大型車との交通事故だ、

人間の身体がおおよそ考えられないような速度で飛んでいく。

なんとか受け身が取れたのは10メートル以上離れた先であった。


「ぐっ、いでぇ...」

激痛が防御した両腕に走る。

感覚はあるが痺れがある。折れたかな。


「ブギャアアァアアアァ!!!」


ファングボアは体勢をこちらに向け、

前足で何度か地面をかく。

再びこちらに突進をしてくるつもりのようだ。


先程の衝撃と腕の痛みに目の奥がチカチカしたが、

カケルはファングボアに向き合った。



「ブギャアァ!!!」


雄叫びと共に再び突進してくるファングボア。


今度は先程よりも距離があるため、

回避に少しだけ余裕がある。


限界まで突進を引き付け、カケルは素早く横っ飛びをする。

身体強化の魔法の効果でこういった反射神経もあがっているのだ。



ドゴン!

と鈍い音がして、ファングボアがふらつく。

勢い余ってカケルのすぐ背後にあった大木に身体をぶつけたのだ。


「ごれをぐらぇえぇぇぇ!!!!!!」

その隙に、カケルはファングボアに魔法を叩きつける。

狙いは内蔵に近い脇腹だ。



「衝撃波!!」


魔法の発動と同時にファングボアの巨体が大きく揺れる。

確実にファングボアの巨体に魔法がヒットした。

衝撃はボアファングのあばら骨を抜け、内蔵を破壊しただろう。




「ブギアァ!」


だがそれでもファングボアは意識を失っていなかった。

口から血を吐きながらもカケルに闘志を向けた。

これが魔物の生存本能なのだろう。

一撃で倒せていたゴブリンとは、

その体力に大きな違いがあるようだ。


カケルはファングボアに間髪入れずに魔法を叩き込んでいく。


「衝撃波!!衝撃波!!!」


計3発、魔法をくらったファングボアは白目を向いて

口から血をはくと、


ずしんとその巨体を地面に倒した。

何度か痙攣したあと、最後に小さな鳴き声をあげ、やがて動かなくなった。



カケルは両腕の痛みに肩で激しく呼吸をすると、

地面にへたりこむ。


数分にも満たない短い戦闘ではあったが、

死を掛けた戦いはその消耗も激しい。


あの巨大な魔物に勝ったのだ。


「やるじゃないか、

まさかホントに一人で倒すとは思わなかったよ。」


そういって、すぐそばにテトラが歩み寄ってくる。

倒せなかったらどうするつもりだったんだよ、

と内心思いながらも


カケルはテトラに苦笑いで答えるのであった。

この師匠はすこしスパルタが過ぎる。

「さぁ、次にいこう。君にはまだまだ強くなってもらわないといけないんだから」

テトラの言葉に顔がひきつるカケルであった。




・・・

・・





あたりはすっかりと闇に包まれた。

上階と異なり、ここでは昼と夜がはっきりと区別できるようだ。

太陽はないが、いったいどういう仕組みなのだろうと

カケルは思った。


カケルとテトラは焚き火を囲み、

ファングボアの肉が焼き上がるのを待っていた。



ファングボアの突進により傷付いた両腕と全身の傷は、

すでにテトラの回復魔法で治療済みだ。



ゴブリン相手のレベリングで負傷することが

殆どなかったため、

回復魔法をみるのは初めてであった。


テトラの放つ深緑の魔力に触れると傷が瞬く間に

元通りに塞がっていったが、

すこしグロテスクな光景であった。

なんでも回復魔法は傷は直すが、体力を回復させる訳ではないので疲労などは

癒せないそうだ。



ファングボアの肉はカケルが食べたことのある肉よりも固く、臭いが強かったが

久しぶりに食べる暖かい食事は体に染み渡った。



「満腹だ。やはり肉は最高だね~」

満腹の微睡みの中でテトラがいう。

「だな、筋ばってるけど肉食ってるって感じがした」

「僕が一番好きなのは、コカトリスの肉なんだよ。淡白なのに旨味が抜群に高くてね、

 食べたのはもう300年以上前だけど...あぁまた食べたいなぁ」

肉の思い出に遠い目をするテトラ。


「なぁテトラは、大賢者の使い魔だったんだよな?大賢者ってどんなやつだったんだ?」

「大賢者様?そうだなとにかく強かった。魔法と魔力に関する知識で彼女に勝てる者はいなかったな」

「そんなにか、良いヤツだったのか?」

「う、うん・・・と言いたいところなんだけど。実は大賢者様自信のことはあまりよく覚えていないんだ。彼女と一緒にいた時間より、一人塔に籠ってからの方が長いくらいだったから」

「・・・そう、なのか」


テトラは300年、塔を守っていたという。

いったいどれほどの時間だったのか、カケルにはまるで想像が出来なかった。


「これまでの時間と比べると、君と出会ってから本当に騒がしい毎日だよ。でも、久しぶりだ。こんな感覚。」

「テトラ・・・」

「君の成長を僕は本当に楽しみにしている。必ず塔の外へ送り出すよ」



そのまま一人と一匹は身体を寄せて、眠りについた。

異常があればテトラが気がつくだろう。

焚き火の火は徐々に勢いを失い、そしてあたりは完全な闇に包まれていった。



明くる日もカケルとテトラは、モンスターを狩りながら森の中を探索し続けた。

この森にはゴブリン、ファングボアの他にはキラーマンティスというカマキリ型の魔物が

多く生息しており、カケルはそれらを順調に倒していた。

初戦こそ苦戦したファンボアだったが、直線にしか攻撃できないことがわかると

倒すことはそれほど難しいことではなくなっていた。

キラーマンティスの方はその両腕に生える巨大な鎌を避け、

胴体部分に衝撃波か魔法刃を当てれば倒すことが出来た。


そうして数日探索を続けたお陰か、

カケルは順調にレベルをあげていた。


LV5

HP 45

MP 80

身体強化Lv2

加速LV3

衝撃波LV3

魔法刃Lv2

魔弾Lv1

探知Lv1


戦闘に多用するスキルのレベルも上がり、

新しいスキル魔弾と探知魔法を覚えた。

魔弾は魔力の小さな塊を高速で放つ技だ。

初めて身に付けた遠距離攻撃である。

探知魔法はテトラがすでに見せたように、

相手のレベルやスキルを測定する魔法だ。

それによるとファングボアは個体にもよるが、

Lv3~10、キラーマンティスはLv4~8であった。

ちなみにテトラを探知してみたが、

LV???と出るだけでなんの情報も得ることは

出来なかった。

どうやらレベル差のある相手には探知魔法は

効かないらしい。

分かってはいたが、どれだけレベル高いんだこの猫、

とカケルは思った。


しかし、

テトラの実力を知る機会は突然訪れることになる。

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