第39話 「暴風竜の想い」
「う・・・」
カケルが目を醒ますとそこにはリエルがいた。
「ようやく目を醒ましたか」
「リ、エル・・・俺は」
「何を呆けておる。大賢者の叡知を発動させたのじゃ、しっかりせい」
言われて頭が整理されてくる。
先程のは暴風竜の記憶だろうか。
「貴様が倒れてる間に戦況は最悪じゃ、やはりこの戦力では無理じゃったか」
リエルが岩影の向こうを見る。
そこには光のベールのような結界が広がっていた。
あれが「聖者の右手」だろうか、カケルはそう思った。
「俺も行く」
「貴様がか?魔闘術もまだ不安定じゃろ、セブンにすら勝てんお前が行って何になる」
「分からない。でも、」
カケルは立ち上がり、足を踏み出した。
「あいつとは、イル=バルヴァロとは話さなきゃいけない気がするんだ」
そこまで話してリエルはカケルの雰囲気の違いに気が付く。
「お、お主。なんじゃその魔力。それはまるで・・・」
カケルはリエルには答えず、
結界の中へと向かった。
・・・
・・
・
「ぐ、これ以上は・・・」
ミリアルドが言う。
纏った魔力は弱まり、緑の疾風と呼ばれた姿は見る影もない。
「・・・なんてやつだ、これで結界の効果に抑えられてるって言うのかよ」
ボッシュが刃こぼれを起こした自らの短剣の柄を握りしめる。
銘刀と言うほど上等な剣ではないが、これまで何度も死地を潜り抜けていきた愛刀だ。
「撤退しましょう、もはや我々に勝ち目はありません。すでに策は尽きました」
セブンが言う。
「姉ちゃん、構わねぇ。あんただけでも逃げな」
「・・・我々が敗走すれば、暴風竜はロリリアの街を襲うでしょう。それだけは看過できません」
ボッシュとミリアルドが言う。
セブンは一瞬だけ考え込むが、顔色も変えずに答えた。
「・・・もう少しだけ、お供いたします」
まだ主人からの撤退の指示は出ていない。
リエル様には何か策があるのかも知れない。
ならば私に出来るのはここで悪あがくだけだ、
とセブンは思った。
そしてセブンも再び戦鎚を握りしめる。
その時、暴風竜がグルルとうなり声を上げた。
「現れたか、紛い物めが」
低く唸るような声。
この声は暴風竜の声だろうか。
セブンとボッシュ、ミリアルドはそれぞれその恐ろしい響きに足をすくませた。
だが、その声に答える者がいた。
「紛い物・・・たしかにお前からしてみればそうか。こっちにも事情があるんだけどな」
三人が驚いて背後を見ると、そこに居たのはカケルだった。
ゆっくりと歩くようにこちらに向かってきている。
「あ・・・」
セブンはカケルに声を掛けようとした。
戦闘訓練ですら自分に勝てないカケルでは
暴風竜に殺されてしまう。
ダメだ、今すぐ逃げて。
そう伝えたかったセブンだが、
なぜか言葉が出なかった。
それはカケルの雰囲気の違いを感じたからか。
それとも目の前の人物がカケルとは思えなかったからか。
その両方かも知れなかった。
「お前も、大賢者・・・ロロのことが好きだったんだな」
カケルが暴風竜に声を掛ける。
その言葉に暴風竜は咆哮をあげた。
「当たり前だ!あのような強く、美しく慈愛に満ちた存在は他におらぬ!貴様なぞ足元にも及ばん存在よ!」
「・・・足元にも、か。それには同意かもな」
「理解が早いではないか。貴様を殺し、大賢者の叡知を奪ってやろう。貴様には過ぎた力だ。大賢者は俺のものだ!!」
「・・・奪う、か。たしかに偶然で手に入れた力だけど。今は素直にくれてやる訳にはいかないんだ。俺にはやることがある」
「ならば貴様を殺すまでだ。あの少女はもう居ない!!大賢者はどこにも居ないのだ!」
「・・・なぁ、暴風竜。もし大賢者がロロが救えるかも知れないって言ったらどうする?」
「戯言を言うな・・・何度でも言おう。大賢者は消えたのだ」
「戯言か、たしかにそうだな。でも可能性があるなら、俺はそれに賭けるよ。大賢者を愛していんだろ?俺に力を貸さないか?」
「・・・貴様の言葉なぞ、信じるに値せん。俺は何年も何百年も大賢者を探してきたのだ。俺以上に彼女を愛する者など存在するか」
「・・・身勝手だな。お前には見つけられなかった、それだけだ。彼女はずっと、助けを求めていたんだ」
カケルの言葉に暴風竜が再び咆哮をあげる。
全身に殺気が満ちた。
「黙れ!!我が愛を疑うな、我が愛を貴様が語るな!!」
「片想いこじらせて、不貞腐れてたやつが今さら偉そうに言うな」
カケルも全身に魔力を纏った。
発動させるのはリエルとの修行で身に付けた魔闘術だ。
「死ね!!下等な人間!」
そうして暴風竜はカケルへと襲いかかった。
「カケルさん!」
セブンが叫ぶ。
振り下ろされた竜の右腕はカケルへと襲いかかった。
カケルは右腕に魔闘の鎧を集中し、それを受け止めた。
暴風竜の渾身の一撃。
セブンやリエルと修行していた時のカケルであれば、
衝撃に魔闘の鎧が耐えられずに吹き飛ばされていただろう。
大賢者の叡知を起動させた影響か、
カケルは自らの魔力が急激に高まるのを感じていた。
「バカなっ!!」
カケルの魔力がさらに爆発的に高まっていく。
暴風竜の右腕を弾き返すと、
カケルはそのまま大地を蹴った。
「ハアァッ!!」
体制を崩した暴風竜の懐に入り込み、
その顔面を全力でぶん殴った。
拳には魔闘の魔力が存分に乗っている。
暴風竜の身体が吹き飛んだ。
「グギャア!!!」
暴風竜が声をあげる。
そのままカケルは暴風竜に突進する。
振り払うように暴風竜が爪を振るう。
カケルが防御のために、
再び右腕に魔闘の魔力を纏わせる。
先程と同じように暴風竜の爪を受け止める。
が、カケルは逆方向からの衝撃に叩き落とされてしまう。
その衝撃に一瞬、意識を手放しそうになる。
なんと踏みとどまり、顔をあげると
どうやら尻尾で叩かれたのだと言うことに気が付いた。
「グギャア!!」
そう雄叫びをあげ、カケルに突進してくる暴風竜。
間に合わない。
そう思いカケルは全身に魔力を纏った。
重戦車の衝突のような突進を正面から受け止めるカケル。
結界の影響で魔法を使えない竜と、
魔闘術を駆使して闘うカケルの攻防は、
ほぼ力比べの様相を呈していた。
岩場にカケルと暴風竜の戦いの音だけが響いた。




