第36話「夜の魔王の挑発」
カケルはリエルと二人、岩場に立っていた。
すぐ近くにセブンが待機している。
ここは当初の作戦で討伐隊が暴風竜との決戦の場として想定していた広い岩場だ。
「ほれ、場所はここで良い。先程言った通りにやってみるのじゃ。」
「なぁ、リエル。本当に大丈夫か?」
「なんじゃ、ビビっておるのか。妾を信じよ。気を失っても助けてやる」
カケルは渋々、言われた通りに準備をする。
リエルの作戦によれば、カケルが大賢者の叡知を発動させれば
魔力を関知して暴風竜が飛んでくるだろうとのことだった。
目をつむり、深く呼吸を吐いた後、大賢者の叡知に<接続>すべく再び魔力を集中する。
キィンというハウリングの様な音が聞こえた後、
またもや沢山の映像や、音声が大量に流れてくる。
同時に頭痛がカケルを襲う。
「ぐ・・・」
頭痛に意識を刈り取られないように、
カケルは大賢者の叡知を<検索>する。
リエルからは発動すれば、何でも良いと言われているが
カケルは暴風竜イル=バルヴァロのことを考えてみた。
仕組みは分からないが、キーワード検索の様なイメージ。
実物を見ている分、魔闘術の時よりはスムーズだ。
ハウリングの甲高い音が次第に収まり、
その代わりに爆発音に似た轟音が耳に響くようになった。
頭痛がさらに酷くなる。
轟音は耳元で大きくなり、一つではなく二つ三つと
様々な種類の轟音を聞こえてくる。
やがてカケルはそれが竜の咆哮なのだと気が付く。
映像が次第にはっきりと見えるようになり、
視界が暗転した。
そしてカケルは意識を失い、膝から崩れ落ちた。
倒れるカケルの身体を傍らに待機していたセブンが抱き抱える。
「・・・・ふむ、やはりまだ無理のようじゃの。大賢者の叡知を起動させる魔力すら不足しているように思える」
「・・・リエル様、あまりカケルさんに無理をさせてはいけません」
「む、あーそうじゃな、悪かった悪かった。そなたにしてみればカケルが心配じゃろうからの」
「そ、そんな事は・・・」
顔を赤らめるセブン。
「照れておるのも良いが、来たぞ」
リエルがそう言うとセブンは真剣な顔をして上空を見上げる。
黒い飛行体がとてつもないスピードで接近してくるのが見えた。
暴風竜だ。
「手はず通りやるのじゃぞ、人間ども。」
そう呟くとリエルは全身に魔力を纏った。
やがて暴風竜が、岩場に到着しズシンと着地する。
羽を畳ながら、なにかを探すようにキョロキョロと辺りを見回す暴風竜。
「大賢者を探しておるのか、イル=バルヴァロよ」
リエルが声をかける。
その存在に気が付いたのか、暴風竜は喉をグルルと鳴らしリエルに牙を剥く。
「グギャアアアアアア!!!!」
暴風竜の咆哮が岩場に響く。
「なんじゃ、貴様言葉も忘れたのか? 聞けば貴様、長年北の大地に引きこもっておったと聞くぞ。暴風竜の名が泣くぞ。大賢者にフラれて傷心でもしていたか?」
リエルの挑発に暴風竜の瞳が青く揺らめく。
やがて暴風竜はゆっくりと口を開いた。
「・・・その声、その魔力。そして憎たらしいほどに生意気な言葉遣い。貴様、夜の魔王だな、姿が変わってもわかるぞ」
イル=バルヴァロが人語を発する。
人間が話すように声帯を震わせているのではないが、
存在感のある重厚な声だ。
「いかにも。久しいのう、あの大戦時以来か。貴様は変わらんのう」
「・・・黙れ。俺は貴様と想い出話などするつもりはない、我ら竜族にとっては数百年前など昨日のことよ。大賢者はどこだ、魔力を感じたぞ。ここに居るのだろう?」
「くく、焦るな。モテない男の執着はみっともないぞ・・・」
その言葉に暴風竜の瞳が光る。
暴風竜は羽を大きく広げる。とたんに突風が吹き荒れ小雨が降り始めた。
「・・・良いから大賢者を出せ!!!あの娘は俺のものだ!!貴様のその小さな身体を切り裂いてから探しても良いのだぞ!!」
咆哮と叫び声が混ざり、轟音となって響く。
岩場に点在する岩が、ビリビリと震えているのがわかる。
リエルはニヤリと笑うと、傍らにいるセブンを指差す。
正確にはセブンを抱き抱えるカケルを、だ。
「これがそうじゃと言ったら貴様はどうする?」
その言葉を暴風竜は理解が出来なかったようで、
青い瞳を揺らがせながらカケルを観察する。
鼻をひくひくさせ、臭いを嗅いでいる。
「・・・夜の魔王、冗談はよせ。まさかこの小僧・・・」
「クク、その通りじゃ。貴様が喉から手が出るほど欲しがった大賢者の叡知はこの小僧に渡った。そやつが次代の賢者じゃ」
その瞬間、暴風竜はこれまでで最も大きな咆哮をあげた。
それはもはや悲鳴のようで、悲しみに満ちた叫び声だった。
「バカな!バカな!バカな!!!俺は信じぬぞ!こんな、こんな小僧が大賢者の叡知だと!? 大賢者ロロの力を奪っただと!ふざけるな!!」
「奪ったのではない、大賢者がそやつを選んだのじゃ。信じられぬか?だが貴様の鼻はすでに魔力を関知しておろう」
「黙れ!これは何かの間違いだ!あの強く美しい少女がそのような弱く小汚ないガキを選ぶなどあって堪るか。その小僧を渡せ!大賢者の叡知ごと俺が喰らってやる」
その咆哮に、セブンはカケルの身体を守るように強く抱き締める。
「嫉妬は醜いと言ったであろう、今の貴様は完全にただのストーカーじゃな。しつこい男は嫌われるぞ」
「黙れ!邪魔立てするのであれば貴様ごとその小僧を殺してやる」
「やれやれ。こうも簡単に挑発に乗るとはの。よかろう掛かって参れ、ただし後悔するなよ」
そう言うとリエルは魔力をさらに強めた。
ふわりと、リエルの身体が中に浮く。
暴風竜も翼を羽ばたかせ、地面から離れる。
七竜 対 魔王。
伝説同士の戦いの火蓋は、暴風竜の咆哮と同時に落ちる数多の落雷と共に切って落とされた。
・・・
・・
・
上空を猛スピードで飛び回る二つの影。
ひとつはリエル、もう一つは暴風竜だ。
雷が落ち続けるなか、二つの影は空中で何度も衝突し続ける。
時々、轟音と共に爆発がおき、辺りを赤く染める。
もはやそれは人間が介入できるような戦闘ではなくなっていた。
「す、すごい・・・」
岩影からその戦いを見ていたルークが呟く。
「ルーク、下がるんだ。流れ弾をくらえば死ぬことになる」
ミリアルドが言う。
「・・・あれが、魔王と七竜の戦いだってのかよ。次元が違いすぎるぞ。俺たちはあんなのに挑もうとしてたってのかよ」
ボッシュが空を見上げながら歯を噛み締める。
と同時にまた大爆発が起こり、
その熱波がボッシュたちを襲った。
これだけ離れているのに顔が焼けるような熱さだ。
「ぐっ、まさに天災と言える戦いだな、ボッシュ。我々も急ごう」
そう言うとミリアルドは後ろにいる騎士団に指示を出し、
彼らが数人がかりで運んできた木箱を開封する。
そこに3本の杖が入っていた。
1メートルくらいの細長い形状、ライオンと大鷲の細工が施された銀色の杖だ。
それぞれ赤、青、黄の宝石が杖の先端で光っている。
「これより、『聖者の右手』起動準備を始める。全員、持ち場についてくれ」
ミリアルドの言葉に、一同は行動を開始した。




