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第35話「暴風竜の思考」


カケル、ミリアルド、ボッシュ、ルークは

夜営地から離れた岩場に身を寄せていた。


周囲には30人ほどの騎士団員と冒険者。

中には怪我をしている者も大勢いる。


当初70名で組織された討伐隊は、散り散りに逃げ出しその数を減らしてしまっていた。

全員無事だと言いが、残りの者には

連絡も取れていない状況にミリアルドは苛立っていた。


「クソ、完全に俺たちの想定不足だ・・・」


ボッシュが悔しそうに拳で岩を叩く。


「・・・仕方ない。あの距離で接近を察知されるなど、普通の魔物であればありえない話だ」


「仕方ないだと? 随分落ち着いてやがるなミリアルド。見たか?やつの風の威力を。あれがロリリアの街を襲えば、街は簡単に壊滅するぞ」


「もちろん理解している。暴風竜という名前とその伝説は大袈裟でもなんでもないということが証明されたわけだ。あれを街に近づかせる訳にはいかない」


その時、森の中からリエルとセブンが出てきた。


「・・・見てきたぞ。やつはお主らを敗走に追い込んだことに満足したようじゃの。再び寝床の方に戻りおったよ」


その報告を聞いて空気は一層重たくなる。


「どうすんだ、ミリアルド」


「・・・もう一度、残った者で部隊を再編し出発しよう。時間がない」


「それも良いが、この様で再編成は可能かの?」


リエルが周囲の騎士団員と冒険者を見る。

こちらの会議の動向をそわそわと気にするその表情には、

明確に恐怖の色が宿っていた。

対峙した暴風竜の圧倒的な魔力に心を折られてしまっているのだ。


「戦場で一度折れてしまった兵は二度と戦えん。このまま敵前に出しても死ぬだけじゃろう」


その言葉にミリアルドが苦い顔をする。


「・・・おっしゃる通りです。傷を負った者、戦えない者はロリリアに帰しましょう。少し時間をください」


ミリアルドはそう言うと騎士団員に何かを指示をする。

騎士団員が周囲にそれを伝達すると、討伐隊は再編に向けノロノロと動き始めた。


・・・

・・


「結局、残れたのはこれだけかよ」

ボッシュが頭をかく。


そこにはカケル、ボッシュ、ミリアルド、ルーク、リエルとセブンの他に

騎士団員と冒険者が10人ほど残っていた。


傷を負っている者だけではなく、

もう一度暴風竜と対峙できるような状態では無い者は一まとめに街に帰したのだ。


「いや、よく残った方じゃよ。かつての七竜を思えばこうして生還していることすら奇跡に近い状況じゃ。暴風竜が本気で無かった証拠じゃな」


「・・・あれで本気じゃなかったって言うのかよ」

直接戦闘をしたボッシュが言う。


「うむ、やつにとっては昼飯後の軽い散歩くらいの気持ちじゃろうな」


「・・・リエル様、何か手はありませんか」


ミリアルドがリエルに尋ねる。

ここまでひとりで作戦の総指揮を取っていたミリアルドが、

初めてリエルに意見を求めたのだ。



「ほぅ、驚いたの。魔族である妾に頼る気になったのか」


「今は種族などと言っている場合ではなくなりました。我々の策はすでに破れております。一から立て直すには時間が必要でしょう。この場でやつに対抗できるような策を考えられるのは魔王であるあなただけです」


「うむ、正しくそして冷静な判断じゃな。お主、人としては好かんが指揮官としては優秀じゃの」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「それが良い、我らの融和にはまだ時間が掛かろう。しかし、その心意気は受け取った。安心せい、妾は素直なやつは好きじゃ。・・・策か。無いわけではないの」


「本当かよ!」

ボッシュが叫ぶ。


「だがそこまで期待するでない。妾とて七竜との真っ向勝負はリスクがあり過ぎる。だがまぁ、嫌がらせぐらいは出来るであろうよ」


「・・・今の我々にはありがた過ぎる言葉です。それで、その策とは?」


「なに、簡単じゃ。そろそろ我が弟子に活躍してもらおうと思っての」


そう言ってリエルはカケルを見てニヤリと笑った。



・・・

・・



暴風竜イル=バルヴァロは自らの愚行に怒りを募らせていた。


数週間前、遠い大陸の山中から大賢者ロロの魔力を察知した。

初めはありえないと、そんなはずはないと自分を説得したものの、

もしかしたらと言う淡い期待を押し殺す事が出来ず、

気が付けば賢者の塔を目指し飛び立っていた。


だがそこにはもちろん大賢者ロロの姿はなく、

賢者の塔も何の変化もないままそこに悠然とそびえ立つだけであった。

完全に無駄足であったと、イル=バルヴァロは後悔する。


また何日もかけて元居た北の山中に帰るのもアホらしい。

そう思い、賢者の塔の側の山中に一時的な寝床を確保し眠りについたが、

今度は明確に自らに敵意を持った者どもが近付いてくるのを察知し目を醒ました。


またか、と暴風竜は人間の愚かさにため息をつく。

そもそも竜と人間では備える魔力の桁が違う。

種族として、竜の方が上なのだ。


人間がどれだけ集まったところで自らの足元にも及ばぬ筈なのに、

人間は生意気にもこちらに牙を剥こうとするのだ。

それも何度も何度も。


ちょうど良い、と暴風竜は思った。

憂さ晴らしにこちらから出向いてやろうと、

暴風竜は翼を広げ飛び立つ。

自分が姿を見せ、一声鳴いてやれば人間どもは一目散に逃げて行くだろうと思った。


予想外だったのは自らを前にして尚、挑んでくる者が居たことだ。

魔族と人間ではあったが、油断しているうちに傷を負ってしまった。

少し魔力を解放すると、突風に吹かれ人間どもはようやく逃げ出したが、

それで溜飲が下がった訳ではなかった。


傷を負った右腕を舐めながら、

これだから人間は嫌いだ、と暴風竜は再び寝床へと戻る。


その道中、イル=バルヴァロは、久し振りに人間たちに

竜族の恐ろしさを味合わせてやるかと言う考えに至る。


そうだ、それがいい。

思えば最近、竜族もすっかり大人しくなってしまい、

新しい話題に尽きていたところだ。


ここは近くの街でも襲って、人間に竜族の思い知らせてやろう。

そう考えイル=バルヴァロは心が踊るのを感じた。


その時ふと、少女の言葉を思い出す。


『イル!人間を襲っちゃダメだよ!』


大賢者ロロ。人間でありながら、竜族をしのぐ魔力を持つ少女。

強く、美しい存在だった。


彼女と出会い、一緒に戦ううちに

人間にもこのような存在がいるのか、と思い知らされることになった。

イル=バルヴァロにとっては特異過ぎる存在であった。


だが少女にはあの戦い以降、出会えていない。

イル=バルヴァロにとって、人間は大きく、彼女とそれ以外の者に分類が出来た。

少女が居なくなれば、人間は再びただの下等な存在にしか思えなかった。


寝床に着くと、イル=バルヴァロは翼を畳み、瞳を閉じる。

明日の朝には近くの街を探し、破壊してやろうと思った。



その時、イル=バルヴァロは魔力を察知した。

驚きで瞳を見開く。


大賢者ロロの魔力。


今度こそ勘違いではない、

イル=バルヴァロは再び翼を広げると、大地を蹴った。


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