第34話「暴風竜の強襲」
「総員、戦闘準備だ!!!」
ミリアルドが叫ぶ。
夜営地は、暴風竜の強襲に大混乱していた。
カケルがテントから出ると、
先ほどまで晴れていた空が暗雲に覆われ、
雨が降りだしている。
「来たぞ!」
ボッシュが上空を見て叫ぶ。
カケルもその視線を追うように上を見ると、
黒い影がとてつもないスピードで舞い降りてくる
ところであった。
ズシン、と黒い影が着地する。
「グギャアアアアアアア!!!」
巨大な一対の翼。
全身を覆う黒い体毛。
どこかライオンを思い出させる頭部には、
青い瞳と角を備えている。
「こいつが・・・暴風竜・・・」
カケルの横でルークが口を開く。
竜と言われた時に、カケルはエンシェントドラゴンの姿を思い出した。
そのため、勝手には虫類のような容姿を想像していたが、
目の前にいるこいつは、肉食獣と言った感じだ。
ギロリと周囲を睨む青い目。
その瞳に宿るのは完全な殺意だ。
暴風竜を前に夜営地は恐ろしいほど静まり返っていた。
「グルルルルル・・・・」
誰もが足を止め、その眼光に立ちすくむその時、
カケルの背後からひとつの影が飛び出した。
影は巨大なハンマー、戦鎚と呼ばれる武器を握っており、
その華奢な身体からは信じられないほどのスピードで
戦鎚を暴風竜目掛け振り下ろした。
暴風竜はその攻撃に気が付くと、肉食獣さながらに身体を
翻し回避する。
巨体に似合わぬ俊敏な動きだ。
振り下ろされた戦鎚はそのまま地面に激突し、
暴風竜がいた位置を吹き飛ばす。
とてつもない威力の一撃。
それを放ったのは、黒いメイド服に身を包んだ
セブンであった。
「何を呆けておる!このアホども!!!!」
リエルの渇に、気を取り戻す一同。
騎士団員も冒険者も、十分に経験を持つ精鋭たちだ。
ただの魔物を前にしてこんな状態になることはありえない。
ミリアルドとボッシュですら暴風竜の圧力に飲まれてしまっていた。
それほどに目の前にいる暴風竜は圧倒的な強者の存在感を放っていた。
「グギャアアアアアアア!!!!」
自らに攻撃を放ったセブンを標的として認識したのか、
暴風竜の瞳がゆらめく。
その途端、雨足は強まり、夜営地のテントを吹き飛ばすほどの突風が吹き始める。
「全員離れろ!体勢を整えるんだ!」
ミリアルドがそう叫ぶと、騎士団員と冒険者達は
暴風竜から距離を取る。
だがそこには戦略的な意思はなく、
目の前の圧倒的な強者から少しでも距離を置きたいという
明確な恐怖があった。
そんな中、左右の腰に差した短剣を引き抜き、一歩前に出て構えるボッシュ。
カケルはそんなボッシュの姿を見て、
自らも戦うべく魔力を練ろうとした。
「待て、カケル。貴様はまだ出るな」
だがそんなカケルを止めるリエルの声。
「なぜだ?」
「説明の時間はない。素直に妾の言うことを聞くのじゃ。貴様のせいで全滅することになるぞ」
リエルの言葉に圧を感じ、
慌てて途中まで練った魔力を霧散させる。
カケルは再び暴風竜に目を向けた。
「ウオオオオオオ!!!」
自らを奮い立たせるように身体強化の魔法を発動するボッシュ。
そのまま暴風竜に飛びかかった。
その攻撃に合わせるようにセブンも再び戦鎚を振るう。
「グギャアアアアアアア!!!」
暴風竜も二人に応戦するように、
両爪を振る。
ボッシュは短剣を両手に持ち、
暴風竜の爪を掻い潜るようにして
その巨体を切りつける。
セブンも戦鎚を暴風竜の背中に直撃させる。
だが暴風竜は身震いするだけで、
二人の攻撃が効いている様子はない。
「くっ、なんて堅い体毛してやがる」
「魔力を使い防御しているようです。ただの斬撃では効果は薄いかと」
「姉ちゃん、俺に魔法剣なんて高度な魔法が使えると思うか。こちとら生まれたときから不器用なんだ。」
「では、地道に切りつけるしかありません」
セブンはそう言うと魔力を練った。
<魔法剣・炎>
その魔法と共にセブンの戦鎚は赤く輝き、
高熱を放つ。
「お先に失礼いたします」
強化した戦槌を担ぎ直し、セブンは再び暴風竜へ飛びかかった。
「お、おい!」
後を追うようにボッシュも暴風竜に切りかかる。
暴風竜は二人の突進を正面から捉え、
なお悠然としている。
「ハッ!」
赤熱した戦鎚を、
再び暴風竜の脳天目掛けて振り下ろすセブン。
ガキンと鋼鉄を叩いたかの様な音と衝撃に
思わず顔を歪める。
触れれば皮膚が溶けるほどの熱量を持つはずの
自らの魔法剣も、効いている様子がない。
暴風竜は、間髪いれずに巨大な牙でセブンに噛みつこうとする。
「っ!」
セブンは攻撃後の硬直を無視し、無理矢理に回避をした。
「オラァァ!!!」
暴風竜の意識がセブンに向いているところに、
ボッシュが斬りつける。
だが、やはりその刃も暴風竜には届かない。
「グギャア!!!」
羽虫を払うかのように爪を振るう暴風竜。
ボッシュはその攻撃を避けつつ、何度も短剣を振るう。
狙いはすべて同じ、暴風竜の右上腕だ。
二度、三度、僅かな狂いもなくボッシュは
同じ箇所に刃を集中させた。
何度も振るわれる暴風竜の爪。
それを回避するたびに、
ボッシュの耳元を轟音がかすめていく。
一撃でも食らえば自分は終わり。
その恐怖のなか、ボッシュは何度も何度も
同じ箇所を斬り続けた。
そして八度目の斬撃がようやく
暴風竜の右腕を切り裂いた。
「グギャ!!!」
思いがけぬ流血に、
鳴き声あげる暴風竜。
「どうだ!!!」
自らを傷つけられた怒りに、
暴風竜の青い瞳が揺れる。
ボッシュに気を取られたその背後から、
再びセブンが飛び出した。
「ハッ!!!」
<フレイム・スタンプ>
握られた戦鎚は炎を纏っている。
セブンの渾身の一撃が、
暴風竜の胴体に叩き込まれる。
「グギャアアアアアアア!!!!」
暴風竜の巨体が宙に浮くほどの、
重い攻撃。
暴風竜がたたらを踏んで、
体勢を崩す。
「よし!」
その隙をついて、ボッシュとセブンが追撃を仕掛けようとした時、
暴風竜はその両翼を広げ地面からその巨体を浮かした。
怒りの目を自らを傷付けたボッシュとセブンに向ける暴風竜。
「グギャアアアア!!!!!」
一声嘶くと暴風竜の瞳が青く光り、
その途端に暴風竜の両翼の羽ばたきから突風が生まれた。
「ぐわっ」
ボッシュの巨体が、風に吹き飛ばされる。
セブンも風から逃れるべく暴風竜から離れる。
「グギャアアアアアアア!!!」
暴風竜はさらに羽ばたきを強め、突風を生み出す。
立っていることも出来ないほどの風。
巻き上げられた石や木片が、周囲へと襲いかかる。
「ぐあぁ!」
「ギャア!!」
それらに巻き込まれた騎士団員と冒険者たちの悲鳴があがる。
突風に煽られ倒壊するテント。
吹き飛ばされる荷物。
雨足はさらに強くなり、暴風雨へと変わりつつあった。
夜営地はさらに大混乱に陥る。
「くっ!全員離れろ!撤退だ!」
ミリアルドの号令も、
雨と風の轟音にかき消され騎士団員と冒険者には届いかない。
散り散りに逃げ惑う騎士団員と冒険者たち。
「クソッ!」
突風の中、再び暴風竜に向かおうとするボッシュ。
「止めろ、ボッシュ!ここは引けっ」
ミリアルドがその肩をつかみ、ボッシュを引き留める。
「ミリアルド!ここまでされて引けるかっ!」
「落ち着け!ここは間違いなく我々の敗北だ!引かぬと全滅するぞ!」
「ぐっ、クソっ!」
ミリアルドの言葉に、ボッシュは短剣を納める。
「覚えてやがれ・・・」
ミリアルドは殿を務めつつ逃走を始める。
「グギャアアアアアアア!!!!」
暴風雨の中心で、暴風竜の鳴き声だけが森に木霊した。




