第32話「出発の時」
そもそも魔族の中には王家というものはなく、
いくつかの種族の連合組織で国が成立している。
だが、魔族の中には魔王と呼ばれる者がおり、
最も有名なのが三英雄となった若き魔王ガルバディアだ。
強さこそすべて。
その原理に今も生きる魔族たちは、
武力でも魔力でも知力でも、圧倒的な力を持つ存在を
崇めている。
そして彼らは尊敬と畏敬の念を込めて「魔王」と呼ばれるのだ。
「・・・妾が名はリエル。夜の魔王と呼ばれておる。」
リエルの自己紹介にボッシュとミリアルド、カレンは三者三様廼表情をする。
カケルも初めて聞いたときには同じようなリアクションであった
「・・・夜の魔王。政治や支配にまったく興味がなく、世捨て人の様に世界中を放浪していると聞くよ。そんな超大物がなんでここにいるんだい?」
カレンが口を開く。
「たまたまじゃ。気候の変化がなく温暖で、人間も妾の存在には気が付かない。それでつい長居をしてしまったのじゃ」
「・・・ロリリアになんかするつもりじゃないだろうね」
カレンの声が怒気を含む。
その態度に驚くカケル。
「カ、カレンさん。落ち着いてくれ・・・リエルはそんなんじゃ」
「よい、カケル。黙っておれ」
間に入ろうとしたカケルを制すリエル。
「カレン、とか言ったか。安心せい、ロリリアは良い街じゃ。妾も気に入っておるゆえ手出しはせん。先程言ったように、ここに居るのはただの気まぐれで、他意はない」
「・・・どうだろうね。だがまぁいい。その言葉、偽りであればすぐに切り捨てるよ」
そう言ってカレンは、気持ちを落ち着かせた。
「・・・それで魔族m夜の魔王が我々に、手を貸してくれると言うのですか。一体どうして・・・」
ミリアルドが質問する。
「・・・それもまた気まぐれじゃ。今回は愛弟子の戦いを間近で見たいというただの老婆心、それから暴風竜のやつと久しぶりに戦ってみたいという個人的な欲求じゃ」
そう言って、リエルはカケルの方をチラリと見る。
「愛弟子・・・カケル、まさかお前魔王に弟子入りしたのか」
ボッシュが驚いた顔をする。
「あ、ああ。俺もリエルの正体はさっきまで知らなかったんだ。でも、このリエルとセブンさんは悪い人ではないよ」
そう言ったカケルの言葉に、目を見開いて驚く3人。
なにか変な事を言ったかな、とカケルは思う。
「ぷっ、あっはっはっはっは!!流石、我が弟子は大物じゃ!はっはっは」
リエルが大笑いし出す。
「安心せい、魔族の尊厳とこの弟子に掛けて誓おう。今回の妾は完全に他意なしの助っ人じゃ。せいぜい便利に使ってくれ。」
その言葉に場の雰囲気はいくぶんか緩和され、
リエルを戦力に含めた討伐作戦会議が再開された。
すべての話し合いが終わり、散会となったのはすでに夜半も過ぎた頃であった。
・・・
・・
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「カケル、おかえり」
討伐隊出発の朝、久しぶりに大賢者のコカトリス亭で目覚めたカケルは、
ルークに起こされることになる。
「久しぶりだな、ルーク。突然すまなかった」
「久しぶりって言ってもまだ5日くらいだよ。そんな何週間も会ってない訳じゃないけど」
「・・・そうか、そう言えばそうだったな」
リエルの魔道具により、カケルは数週間分の時間をリエルの城で過ごしたことになる。
だが外の世界ではまだ5日しか経っていないのだ。
「準備が出来たら行こう」
「そうだな」
そうして二人は身支度を整えると、討伐隊の集合地点である街の入り口へと向かうのであった。
・・・
・・
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「すごい人だな」
街の入り口は、討伐隊のメンバーと荷物を運ぶ商人やギルド職員、
それから見送りの人でごった返していた。
「カケル、あそこ!ボッシュさんとミリアルド隊長がいる」
ルークに促され人混みの中心を見ると、そこにボッシュとミリアルドがいた。
二人がそちらに向かおうとした時、後ろから突然声をかけられる。
「カケルさん!」
その言葉に驚いて振り向くと、
そこには金髪と黒髪の少女達がいた。
「おはよう、カケルさん」
黒髪の少女が口を開く。
「マリアか、と君はたしか・・・塔の入り口で会った・・・」
その言葉に少しショックを受けた表情の金髪の少女。
「ちょっとカケル!リリスちゃんだよ。おはよう、リリスちゃん」
ルークがリリスに笑顔を向ける。
「あ、う。おはようございます・・・」
赤面して挨拶をする少女。
「なにか用?僕たち、これから出発の準備があるんだけど」
ルークが優しく尋ねる。
「あ、う。いえ・・・その・・・」
モジモジとするリリス。
「あー、もう。仕方ないわね」
その様子を見ていたマリアが、一歩前に出る。
「カケルさん、この子が貴方のファンでね。討伐には付いていけないからせめて食べてもらうんだって言ってお弁当作ってきたのよ」
「ちょっとマリア!ファンってなによ!」
「あんた、そんなんじゃいつまでも渡せないでしょ。早く渡しちゃいなさい、お二人だって忙しいんだから」
「あ、う・・・カケルさん。これ」
そう言ってリリスはカケルに小さなバスケットを渡す。
「その・・・頑張ってください。」
消え入りそうな小さな声だ。
その様子をみて、マリアは大きくため息をつく。
「・・・まったく。ごめんなさいね、カケルさん」
マリアがイタズラっぽい笑顔を向ける。
以前、ギルドであった時よりもだいぶくだけた表情だ。
「いや、リリス・・・さん。これありがとうな。」
カケルがリリスに声を掛けると、リリスは顔を赤くしながら首を振った。
「・・・気を付けてくださいね」
マリアがカケルに声をかける。
「ああ、正直どうなるか想像が付かないけど。やるだけのことはするつもりだ」
「また、戻ってきてギルドでお会いできることを祈っています」
そう言うと二人は頭を下げ、人混みのなかに戻っていった。
カケルはその姿を視線だけで見送った。
ふと隣を見ると、ルークが恨めしそうな顔でカケルの顔を見ていた。
「な、なんだルーク」
「べっつにー、なんでもないよ」
おかしなやつだ、とカケルは思った。
・・・
・・
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討伐隊のリーダーはミリアルドで、
その大部分を構成する騎士団員に、忙しそうに指示を出していた。
ルークはミリアルドを手伝ってくると言って騎士団の中に入っていった。
そんな中、副隊長をやっているはずのボッシュがカケルを見つけ話しかけてくる。
「お、来たか、カケル。お前は俺の側に居ろ」
「わかった。ボッシュは仕事とかはないのか、指示出しとか」
「ん、まぁそういうのはミリアルドのやつに任せておけば完璧だからな。一応、冒険者達の統括って言うのが俺の役割ではあるんだが、騎士団員と違って指示に従うようなやつらじゃないからな」
「そういうものか」
「代わりに俺は戦闘の時には最前線で戦うつもりだ」
そう言ってボッシュは手をバキバキと鳴らす。
「それはそうと、カケル。お前いったい何をした?」
ボッシュがカケルに尋ねる。
「数日前と、身体に纏う魔力の質と量が変わってるな。こんなに突然の変化するなんざ、ただ事とは思えない。まさかあの魔族と良からぬ契約でもしてないだろうな」
「・・・契約、かは分からないが。特殊な状況でひたすら修行させられていた。」
「魔王の修行か・・・それは興味あるな。あとで話を聞かせてくれ」
それから出発予定の正午まで、カケルとボッシュは話をしながら時を待った。
やがてミリアルドが掛け声をかけると大きな太鼓が二度鳴らされ、
討伐隊が動き出す。
見送りの声援を背中に受けて、70人を越える大部隊はロリリアの街を出発するのであった。




