第31話 「友の隣」
「カケルさん、カケルさん」
「う、、、」
「大丈夫ですか?」
「姫、、、」
「はい? いいえ、違います。私はセブンです」
その言葉にハッとして身体を起こすカケル。
「俺は・・・どうしたんだ」
「突然、気絶し倒れました。大変驚きました」
「そうか。大賢者の叡知を使ったら急に映像が見えてきて、、、それで、、、」
カケルは自分の身体を触る。
身体に生々しく残るガルドの魔力の感覚。
あれは夢だったのだろうか。
「いかがでしたか」
「セブン、ガルドって誰だ?」
「・・・申し訳ありません。私は存じ上げません。何か掴めたのでしょうか?」
「そうか、それなら大丈夫だ。あとでリエルに聞いてみよう。それより・・・」
カケルは再び立ち上がった。
カケルは目をつむり、身体に残る魔闘術の感覚に集中する。
なんだか心地よい気持ちだ。
穏やかなガルドの優しさに守られているような感覚。
驚くほど自然に、カケルは魔力を練ることが出来た。
「か、カケルさん、、、」
セブンが驚くのも無理はない。
カケルは無意識のうちに魔闘術の魔力の鎧を身に纏っていたからだ。
・・・
・・
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「・・・貴様、なにがあったのじゃ。説明せい」
午後の訓練にて、魔闘術を発動するカケルを見てリエルが言う。
「リエル、ガルドって知ってるか?」
その言葉に驚いてる様子のリエル。
「な、なぜ貴様がそいつの名前を知っておるのじゃ!」
「実はな・・・」
カケルは大賢者の叡知を使い、見たものを伝える。
「・・・そんなことが、ありえるのか。」
驚きでリエルの表情が強張っている。
「ガルドは魔闘術を生み出した魔族の名じゃ。数々の戦で名を上げ、修羅などとも確かに呼ばれておったそうじゃ。」
やはりか、とカケルは思う。
「だが、愛するものを守る、か。ガルドがそのような性格の男だったとは、妾も知らん。貴様が一体どうやってそんな事を知ったのか。あまつさえ魔闘術まで使えるようになるとはな・・・」
「俺も上手くいって驚いている。今まで大賢者の叡知を意識的に使えたことはなかったんだ」
「ふん、妾の指導で貴様の魔力もかなり上げっておる。単純に保有魔力量が増えたからじゃろう。」
「そうか・・・ならこのまま修行すればもしかしたら」
「調子に乗るなそもそも使うたびに気絶しているようじゃ、戦闘に使えるようになるのは遥か先じゃがな」
そうしてカケルとリエルとセブンは、
カケルが新たに魔闘術を習得したことにより、新たな訓練フェーズに入った。
すなわち魔闘術の実践における使用。
カケルは暴風竜の討伐出発のギリギリまで、セブンとリエルとの戦闘を繰り返すのであった。
・・・
・・
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護衛任務から帰還した翌日、
ルークは再び街の外の森で剣を振っていた。
明日には暴風竜の討伐へと出発することになる。
それまでにある人物と話しておきたいと思っていた。
そうしてしばらく一人で剣を振っていると、
目的の人物がルークに近づいてくる。
「なんとなく、君が居るような気がしました」
「はい、あなたを待っていました。ミリアルド隊長。」
二人は森の切り株に腰掛け、会話を始めた。
「あの・・・一緒だった騎士団の方々はどうなりましたか」
「・・・ご安心を、全員よく鍛えております。怪我はしましたが大事には至らず。すぐに通常通り騎士の仕事に戻れるでしょう」
その言葉にルークは安堵する。
「怪我をしているってことは明日の討伐隊には・・・」
「さすがに参加は難しいでしょうね。ここで無理をさせても戦力にはなれないでしょうし。負傷者を連れて挑めるほど、簡単な相手ではありません」
「そうですか・・・」
ルークはトーレスの顔を思い出す。
ミリアルドと共に出発できないこと、さぞ悔しがるだろうなと思った。
「・・・君も、参加するつもりですか?正直に言うと力不足ですよ」
「分かっています。でもカケルが行くなら当然僕も行きます」
「・・・死ぬことになってもですか?」
強い眼光でルークを見据える。
「はい。カケルは僕の初めての友達なんです。その彼を一人で行かせることは出来ません。もしそうしたら僕はまた、もとの弱い僕に戻ってしまいます」
「・・・友達、ですか」
「はい。僕が命をかけて守るべき宝です。そのために僕は強くなります」
その言葉に何かを考え込むミリアルド。
やがて遠い目をして口を開いた。
「・・・私にも幼馴染と呼べる友がおります。ボッシュというやんちゃで乱暴で、小さなときから武の才能に溢れた明るい男でした。」
「ボッシュさんが・・・」
「彼は早くに冒険者になると、メキメキと頭角を現し、名を上げていきました。とある魔法を手に入れてからは更に怪物じみた強さを手に入れた」
「私は必死でした。どんどん強くなる友達に置いていかれる恐怖、そして劣等感。一緒に冒険者として活動していましたが、守ってもらう場面の方がいつからか多くなった」
ミリアルドも冒険者として活動している時代があったと聞いて、
ルークは意外に思った。
「そして私は友と友でいるために、友と離れる決意をしたのです。聖都へ行き、騎士として一から自分を鍛え上げました。」
「本当に必死だった。友の名声が都に届くたびに、寝食も忘れ剣を振りました。そして私は、騎士になった」
ルークのドクンと心臓が高鳴る。
「君が抱く気持ちはかつての私と同じだ。それはとても辛く険しい道になる。共に歩もうとしている存在が大きければ大きいほど」
ミリアルドは今後はしっかりとルークを見る。
「それでも君は強くなりたいと言うのですか? そんなことをする必要もないのに?」
「・・・盗賊に襲われて自分の無力さを知りました。以前までのような気弱さから抜け出せたことで自分は強くなった気がしていた。でもそれではダメだったんです。僕は誰かを守れるくらい、出来れば初めての友達の隣に立てるくらい強くなりたい」
ミリアルドの目を見据えて答えるルーク。
ミリアルドはその視線を正面から受け止め、
そしてしばらくしてからふっと笑った。
「・・・君の覚悟はわかりました。出来る限りのことは教えましょう。そのつもりでここで待っていたのでしょう?」
ミリアルドが笑う。
「・・・ぜひお願いします。」
ルークは人生の師となる男に頭を下げた。
・・・
・・
・
その夜。
ギルドの一室にボッシュ、ミリアルド、ギルドマスターのカレンが集まった。
カレンは非常に疲れた様子で、椅子に座っている。
この短い期間に、大規模討伐の準備を整えたのだ。
無理はない。
暴風竜の討伐隊は冒険者が30人、
騎士団員が40人で合計70名の部隊となる予定だ。
それぞれカレンとミリアルドが精鋭を集めており、
一定以下の実力を持たないものは後方支援となった。
「暴風竜が根城にしているのは、この山間だ」
カレンが地図を見ながら指を指す。
「ここにある開けた場所が決戦の場になるハズだ。だが間違っても倒そうなんて無茶をするんじゃないよ。傷を負わせりゃ十分だ 」
「その傷を負わせること自体が難しい可能性もありますが・・・」
「おいミリアルド、戦う前から折れてやがるのか?」
ボッシュが言う。
「私は事実を言ったまでだ。過去の資料によれば、七竜は一頭一頭が一国レベルの戦力であったと聞く」
「・・・確かにこれだけの人数ではやつに近付くことすら出来ない可能性もあるね。過去の資料が大袈裟に書かれていることを祈るしかないね」
一同が沈黙する。
その時、部屋の扉がノックされた。
「誰だい」
カレンが尋ねる。
「俺です」
その声と共に扉が開き、入ってきたのはカケルであった。
「カケル!お前戻ってきたのか。修行すると言ったきり帰ってこないから心配してたんだぞ・・・」
「すみません、ボッシュさん。色々と事情がありまして。」
「ボッシュ、その話はあとにしろ。カケル様にはなにか我々に伝えたいことがありそうだ。そうでしょう?」
「ありがとうございます、ミリアルドさん。今日は皆さんに、その・・・紹介したい人がいまして」
バツが悪そうに頬をかくカケル。
そう言ってカケルが身体を寄せると、カケルの後ろから二人の人物が出てきた。
ボッシュとミリアルド、カレンはその相手をみて戸惑う。
そこには長身のメイド服に身を包んだ女性と、黒のドレスを身に纏った幼女がいたからだ。
幼女は顔に似合わぬ尊大な態度で部屋に入ると、
ドカッと椅子に座った。
そしてボッシュとミリアルドとカレンをそれぞれ見ると、
ニヤリと笑って口を開く。
「そなたら暴風竜と戦うらしいの。面白そうじゃから妾も参加するぞ。感謝せい」




