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第30話 「修羅の男」


「ミリアルドさん、、、なぜ、ここに」


ルークは目の前に突然現れたミリアルドに驚く。

ロリリアに近付いたとはいえまだそれなりの距離はあり、

増援は到底間に合わないと思っていたからだ。


だからこそトーレスたち騎士団員とルークは決死の覚悟を決めたのだ。



「救援要請を走らせてくれたろう。彼は愛馬とともに街まで全速で駆けてくれた。着いて早々必死な形相で君たちの危機を伝えてくれるもんでね。慌てて駆けつけたと言うわけさ」


「それにしてもまだ数時間も経って、、、」

「なに、私は人より少し、、 」


その時、会話の途中で背後から盗賊が迫ってくるのが見えた。

まだまだ乱戦は続いているのだ。

ミリアルドはそれを見ると、再び魔力を纏った。

ミリアルドの身体と剣が深緑に輝きだした。


「速さには自信があるんだ」


その瞬間、ルークの視界からミリアルドが消えた。

離れた所で、盗賊の叫び声が聞こえるが、

ルークにはその姿を追うことさえできなかった。


ミリアルドは一瞬で残りの盗賊たちを討伐し、

事件を収束させたのであった。




・・・

・・



「ルーク!大丈夫だったか」

騎士団駐在所でルークが聴取を受けていると、

知らせを受けたボッシュが迎えにきた。


「ボッシュさん、わざわざすみません」


「いや、盗賊に襲われたって聞いてな。驚いたぞ。怪我はないか?」


盗賊にやられた部分については既に回復魔法を受け、

治療されていた。

あとは僅かに残る痛みが引けば完治するだろう。


「大丈夫です。危ないと言えば危なかったんですが、ミリアルドさんが助けに来てくれたので」


「ミリアルドが?そうか、あいつが居たなら良かった、、、」


「・・・すごく強かったです。とにかく速かった」


「あん?ああ、あいつは巷じゃ緑の疾風なんて呼ばれてるからな。あいつのスピードには俺も反応するのが精一杯だよ」


「ボッシュさんはあれに反応が出来るんですね、、、それもすごいな。僕は目視すら出来なかった」


「初見のやつにはそんなもんさ、あれと戦うにはコツがあるんだ


その言葉はすでにルークには届いていなかった。


「僕は、僕は弱いですね・・・。それを今回痛感しました。盗賊にすら勝てないほどに」


「・・・お前はまだ子供だ。それに盗賊は何人もいたって言うじゃねぇか。あまり気にするな」


「これではダメなんです。僕は、強くなりたい。ならなくてはいけないんだ」


ルークの目から涙が流れていた。


「ルーク・・・あまり焦るな。何度も言うがお前は若い」


「同じことが、カケルにも言えますか!」


「・・・」

ボッシュからの答えはない。



「・・・口が過ぎました、ごめんなさい」


「いや、構わん。お前がそこまで思っているとは知らなかったんだ。甘く見ていた、俺の方こそ謝罪しよう」


「そんな・・・」


半ば八つ当たりに近かったルークだが、

ボッシュがすべてを受け止めたことにより我に変える。

途端に恥ずかしさが込み上げ、みるみる赤面した。


「ち、聴取が終わりましたら帰ります。先に大賢者のコカトリス亭に戻っていてください」


「分かった。・・・ルーク、俺やカケルと違って、お前は純粋な剣士だ。もし本気で強くなりたいなら、ミリアルドのやつに相談してみろ」


「ミリアルドさんに?」


「あいつも、その色々と屈折したやつだが。強さへの想いは同じだ。きっと力になってくれると思う」


そう言ってルークの背中を叩くボッシュ。

そのまま部屋を出ていった。


ルークは何故かその優しさが嬉しく。

叩かれた背中の痛みを感じながら再び涙を流すのであった。



・・・

・・



「このアホ!そうではないと言っておろうが。魔力変質を保ったまま全身に纏うのじゃ」


カケルはリエルに叱責されながら、魔闘術の習得に励んでいた。

だが一向に、魔闘術を成功させることが出来ていなかった。


「ぐ・・・頭では分かってるんだが。どうしても魔力のコントロールが上手くいかないんだ」


「ほれ、言い訳するんじゃったら出来るまで挑戦せい!もう一度じゃ!」


リエルに促され、カケルはまた魔力を練る。

もう何日もこんな状態が続いていた。





「難儀されていますね」

訓練を終え、倒れこむカケルにセブンが言う。

午前の訓練はこれで終わり、つかの間の休息だ。


「・・・あぁ。これは難しいな。きっかけも掴めない」

「きっかけ・・・ですか。」


カケルは休憩中も、技を成功させるための方法を模索する。


「カケルさんの受け継いだ力、大賢者の叡知・・・になにかヒントはないのですか。古今東西、魔力に関するあらゆる知識を得ることが出来るスキルだと伺っております。」


「大賢者の・・・そうか」


カケルは賢者の塔で、転送魔法を使った時の事を思い出す。

あの時はテトラの助けを借りて、大賢者の叡知を使うことが出来た。

大賢者の叡知には文字通り、知識が詰まっているのだ。

もし同じことが出来れば、魔闘術を発動させることが出来るかも知れない。


「実は一人ではまだ発動させることも出来ないんだ。だけど、やってみる価値はあるかも知れないな」


カケルはそう言うと、すぐに立ち上がった。


「セブンは少し下がっていてくれ」


「承知しました。」


そう言ってセブンに下がらせると、

カケルは気持ちを落ち着かせ、

静かに「接続」を開始した。



ざ、ざざざ

と砂嵐のような雑音が聞こえる。

それと同時にまたいくつかの場面が、

ハイライトのように映像として頭の中に流れてくる。

ここまではいつか失敗した時と同じだ。


カケルは、意識的に「魔闘術」と言う言葉を意識した。。

やりかたは分からなかったがなんとなく、文字検索を

イメージしたのだ。


砂嵐の音が轟音に変わり、頭痛がしてくる。

このままでは長くは持たないな、、

目の奥に眩しいほどの光を感じ、

猛烈な頭痛と吐き気がカケルを襲う。


限界だ、カケルがそう思い「接続」を切ろうとした時、

砂嵐は止み、視界が暗転するのが分かった。



・・・

・・




「ガルド様、もう止めてください。このままではあなたの身体は滅びてしまいます」


美しい女性が、カケルに話しかけてくる。


「・・・姫、ありがたきお言葉。その言葉だけで俺は戦うことが出来ます」


カケルの口が勝手に答える。

いや違う、とカケルは気が付く。これは自分ではない。

ガルドと呼ばれる男が答えたのだ。

カケルはガルドの中に居て、二人の会話を聞いていた。


「私のことなど、放っておいて・・・生きて、生きてください」


「姫、安心してください。あと一度、戦で勝利すれば私は爵位を得ることが出来ます。そうすれば、あなたとも胸を張って話すことが出来る」


「でも、それではあなたが・・・」


「戦いしか知らぬ修羅の道を歩んでいた私に、あなたは光をくれた。殺すことではなく、守ることを教えてくれた。今の私にとってはあなたとの未来がすべてです」


「ガルド様・・・ガルド・・・」


そうして抱擁を交わす二人。

再び画面が暗転し、切り替わる。


戦であった。

周囲はおびただしいほどの死体であふれていた。


「ガルド様!ここはもうダメです!撤退しましょう」

鎧を纏った男がガルドに叫んでいる。


「ダメだ、ここを突破されては国に侵入を許してしまう・・・それだけは認められん」


「ですが、味方も残りわずかで。既に撤退を始めている兵もおります。いくら修羅と言われたガルド様でも・・・」


「・・・そうだな。君も逃げてくれ。そして愛する者を守ってやるんだ、ここは俺が守る」


「そんな・・・ガルド様・・・」


再び暗転する画面。

ガルドは一人、大軍の前に立っていた。

将と思われる男が、ガルドに話しかける。


「修羅ガルド殿とお見受けする。武の道を極めし貴殿を失うのは魔族の損失だ。私の国に来ぬか」


「・・・断る」


「望むものすべて与えるぞ」


「断る。私が望むものは今私の背中の後ろに広がるこの国の平穏のみだ。」


「・・・残念だ。貴殿の強さは同じ武芸者として尊敬していた」


そう言うと将は、踵を返し自軍の中へと帰っていった。

それと同時に突撃ラッパと太鼓の音がなる。

継いで聞こえてきたのは、轟音と言えるほどの戦士たちの雄叫びだ。



「我が生み出し究極の魔闘術は殺す技にあらず。全ては愛する者を、我が愛する人の愛する者を全て守るための技なり。獣どもよ、真の修羅は奪うことしか知らぬ貴様らよ。修羅のままでは到底辿りつくことの出来ぬ、この真の武の境地を見るがいい・・・」


そうしてガルドは魔闘術を発動する。

その魔力の濃度にカケルは驚くことになる。

リエルの見せてくれた魔闘術とはまるで違う、

濃厚でそして優しい魔力だ。


そうしてガルドは、敵陣の中へとひとりで飛び込んでいく。

カケルの意識はそこで途絶えた。



ようやく30話となりました。

もしここまで読んでいただいている方がいれば、

本当に幸せです。


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