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第29話「緑の疾風」


盗賊たちへの距離はおよそ50メートル。

ルークは身を屈めながら走っていた。

剣はすでに抜刀している。


近づいたことでわかったが、盗賊は20人ほど。

対する騎士団員は4人。

ルークをいれて5人となる。


奇襲であることを加味しても、圧倒的に不利な状況だ。


先行するトーレスと他の団員は、

すでに盗賊との戦闘を始めている。

ルークは手にする剣の柄をさらに強く握った。



「なんだてめぇら!どっから沸いて来やがった」



走るルークの目の前に、長身の盗賊が現れる。

手には小さめの斧を持っており、駆けるルークに向かってそれを振り下ろした。



ドクン、と心臓が高鳴るのを感じる。


ルークは、振り下ろされる斧を避け、長身の盗賊の横をすり抜けると、反転と同時に剣を振り抜いた。


「ぐわっ!」


剣は相手の喉元を切り裂き、ルークの顔に生温かい返り血がかかる。

長身の盗賊はそのまま倒れ込み、二度三度身体を痙攣させたかと思うとすぐに動かなくなった。


ルークは今、振り抜いたばかりの剣を下ろすと、

高鳴る心臓の音に我に帰る。


一瞬だけ、呼吸を忘れていたようだ。


手に残る、肉を切り裂いた感覚。

魔物相手に何度も振ってきた剣の感触と同じはずだが、

ルークにはまるで異なるものに思えた。


自分は、初めて人を殺したのだ。

ルークはそう実感した。



「があああああ!!!死ねぇ!」


叫び声に我に帰るルーク。

見ると他の盗賊たちがルークに向かってくるところであった。


「くっ」


剣で応戦するルーク。相手は3人だ。


一対多の状況では、すぐに殺されてしまう。

どうする、ルークに一瞬の迷いが生まれた瞬間。

ルークの目の前に飛び込む影があった。


「行け、ルーク!人質を頼む!」


ルークの代わりに盗賊に対峙したのは、

先陣を切って戦っていたトーレスだ。


「トーレスさん!」

「行け!!!」


トーレスの言葉に半ば命じられたように駆け出すルーク。

乱戦をくぐり抜け、なんとか人質のもとにたどり着くと、

そこには3人の男性と1人の女性が縛られていた。


「大丈夫ですか!立てますか?」


人質に話しかけるルーク。

それぞれ怯えた目で首を振る人質たち。

だがひとりは暴行を受けたことにより失神しているようであった。


「・・・この方は僕が背負います。逃げましょう!」


そう言ってルークは人質たちを解放し、

その場から離れることにした。


騎士団員たちはかなりの善戦をしているようで、

各個で盗賊たちと戦闘をしている。


乱戦をくぐり抜け、

ルークと人質たちは森へと走り出すことが出来た。

このまま逃げ切れるか、ルークがそう思ったとき声が響く。


「人質どもが逃げたぞ!子供と一緒だ!追え」


盗賊の声だ。


ルークが後ろを振り替えると、

5人ほどの盗賊がこちらに気が付き追ってくるのが見えた。



ルークは森の中を必死に走るが、

男性を一人背負ったままでは速度は出ずに

すぐに盗賊たちに追い付かれてしまう。


幸い、他の3人の人質は追撃からは逃れられたようだ。


ルークの周囲を取り囲む盗賊たち。

怒りの表情を浮かべる者もいれば、ニタニタと笑う者もいる。


「へへへ、逃げられないぜ。クソガキ」

「そいつを置いて、剣を捨てな。」

「おい、こいつ、男のくせになかなか可愛い顔してんな」


ギャハハハと声をあげ笑う盗賊たち。


ルークは、背負った人質の男をその場に下ろし

再び剣を抜いた。


「ははは、見ろよこいつ。やる気だぜ」

「カッコいいな、さすが騎士様だ」

「いや、よく見ろ。こいつは着てる鎧が違うぞ。冒険者だ」

「冒険者?なんだって冒険者がいるんだ」


獲物を追い詰めたと確信する盗賊たちは、

ルークを囲みながら話を続ける。


その一瞬に隙を見たルークは、正面の髭面の盗賊に切りかかった。


「このクソガキ!」


だが、ルークの攻撃は正面の盗賊に簡単に避けられてしまう。

体勢を崩すルークに背後にいた盗賊が槍を突き刺した。


「ぐあっ!!!」


背中に激痛を感じ倒れるルーク。


「大人しくしてろ!」

そうして左右の盗賊に押さえつけられ、

地面に伏されてしまう。


「離せ!この獣ども!」


「まぁ落ち着けよ。小僧。冒険者なら俺たちと同じ穴のムジナってもんだろ」


盗賊の一人が地面に組み伏されているルークに声をかける。


「黙れ・・・冒険者は、貴様ら盗賊とは違う、ぞ」


「はは、この状況にまだ強がりが言えるんだ、な!!」

そうしてルークの顔を蹴り抜く盗賊。


「グハッ!」


ルークの口の中に血の味が溢れる。

意識が飛びそうになるのを必死で繋ぎ止める。

気絶すればたちまち殺されてしまうだろう。


「・・・知らねえなら教えてやる。冒険者から盗賊になったやつも多いんだぜ。こっちの方が楽に生きられるからな。それに一度堕ちてしまったら最後、二度とカタギには戻れない。小僧、お前もこっちに来いよ楽しいぞ」


「へへへ、お前も好きだな」


周囲の盗賊がまた下劣な笑い声をあげる。


「どういう、つもり・・・」

ルークは痛みでうまく動かない口で尋ねる。


「なぁに、簡単だよ。そこに転がってる男をお前が殺せ。それでお前の命だけは助けてやる」


そう言うと盗賊の男はルークのすぐ側に倒れる人質の男を指差した。


「人間は自分が一番大事なんだ。人生の先輩として、お前にそれを教えてやるよ。それが分かったら俺たちの仲間になりな。毎晩俺が可愛がってやるから・・・へへへ」


「ふ、ざける・・な」


ルークがそう言い終わる前に、

今度は横腹に蹴りが入る。


「ぐは・・・」


呼吸ができず、涙が出る。

殺されてしまう・・・ルークはそう思った。


「早くしろ!別にお前が死んでもこっちはなんも困らねぇぞ!」


盗賊たちはその姿を見てさらに大笑いする。

ルークはガチガチと歯が鳴るのを必死でこらえた。



目の前の人質は今も気を失ったままで、殺すのは簡単だ。

剣を無抵抗の喉元に突き刺すだけで、命を奪えるだろう。


だがそれをしてしまえば、自分は取り囲む盗賊どもと

同じになってしまう。



それだけは出来ないと、ルークは思った。



ふと頭に過ったのは、友であるカケルの姿と

トーレスの言葉であった。


自分を救ってくれたカケル。

次代の賢者としての運命を背負うカケル。


自分もカケルに守られるだけでなく、

隣で共に戦う仲間になりたい。

彼に認められ、助ける友になりたい。


小さい頃から劣等感の塊であった貴族の少年は、

生まれて初めて、こうなりたいという自らの

願望に気が付いた。


だからこそ、自分は強くなりたい。

強くならねばならない。

ルークは恐怖に震えながらも、

歯を食い縛り自分の弱さを必死に押し殺した。



「ほら、どうした。やれよ、生きたいだろ?死ぬのが怖いだろ?」

盗賊の男が、ルークに言う。


「・・・る」


「あん?」


「・・・断る、僕は・・・」


ルークが震える口でそう答える。

その瞬間、盗賊の男の表情がすっと消えた。



「そうか・・・なら仕方ねぇな」

冷ややかな声。

盗賊は腰に差したナイフを引き抜く。


あぁ、自分はここで死ぬのだな、とルークは思った。

だが後悔はしない。

自分は死んでも、友に誇れるような強さを持つのだ。




盗賊の男がナイフを振り上げる。

ルークは強く閉じ、歯を食い縛った。





その時、周囲に突風が吹いた。

反射的に目を閉じたルークが不思議に思ったのは、

どうしてこの風には色が付いているのだろうと言う

疑問であった。



それはただの風ではなく、実体を持つ緑色の風であった。



「なんだこいつは!」

「殺せ!」

「ギャア!」

「ぐあああ!」


ルークを取り囲む盗賊たちの声は、

一瞬で悲鳴になったかと思うと、そのまま気配を消した。



恐る恐る目をあけるルーク。



「・・・無事だったか」


そこに居たのは魔力を纏い、全身が緑色に輝く

騎士団長ミリアルドの姿であった。



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