第28話「憧れの感情」
「俺はロリリアの近くの農村の生まれでね、小さい頃から騎士になるのが夢だったんだ」
ルークはトーレスと共に馬車周囲を見回りながら会話をしていた。
「貧乏な農家だったけど、必死に勉強と剣の訓練をしなんとか騎士学校に入ることが出来た。そこでミリアルド団長と縁が出来てな、このロリリアの騎士団に入ることが出来たってわけさ」
「ミリアルドさんとの、縁?」
「ああ。ちょうど騎士学校の遠征訓練の時に色々あってな。あの人はすごいぞ、辺境のダンジョン都市の騎士団長ではあるが、聖都の騎士団でも一目置かれているんだ。」
「聖都でも、、ですか」
「聞いたことないか? 『緑の疾風』なんて二つ名までついてるし、剣の腕前は剣神流のやつらにだって負けやしないんだ」
剣神流は三英雄の一人、剣神アトラスが生み出したと言う流派だ。
同じく三大ダンジョンのひとつ、剣神山の麓に剣神流の本家道場があるという。彼らは集団で生活し日々剣の腕を磨き続けている。
また剣神流の指導者は代々、剣神の名を襲名し一子相伝の奥義を継承し続けてるという。
その剣神流にも負けないと言うことは、それだけでミリアルドの実力がとてつもないものである事を証明する逸話だ。
そんな風にミリアルドのことを嬉しそうに語るトーレス。
「・・・尊敬、してるんですね」
ルークが尋ねる。
「尊敬、、そうだな。確かに尊敬してる。けど俺としては少し違う感情かな」
「違う感情?」
「ミリアルド団長に命を救って貰ったこともある、実力もまるで及ばない。けど俺はミリアルド団長の後ろではなく隣で一緒に戦いたいと思ってるんだ。尊敬しているからこそ、彼の力になりたい。」
「後ろではなく・・・隣」
「憧れは理解から最も遠い感情だと俺は思う、ミリアルド団長にも弱さはあるんだ。人間だから。だから俺はそれが理解できるように立派な騎士になりたいんだ。今日がその一歩って訳だな」
「素晴らしい、目標だと思います」
「ありがとう。有言不実行にならないように頑張るよ、ルークも一緒に頑張ろうな」
爽やかに笑うトーレス。
その姿にあぁ、兄と言うのはこういう存在なんだな、とルークは思った。
そして自らの血の繋がった兄とは大違いだ、と心に影を落とす。
結局、護衛任務の往路にはなにも起こることはなく、
無事に商人の目的地である村に着くことが出来た。
一行は村の宿屋で一泊し、翌朝早々にロリリアへと帰還することにした。
「うまいじゃないか」
トーレスがそう言うと、周りにいた騎士団の団員たちも一緒に笑う。
ルークは騎士団の馬を一頭借り、乗馬の練習をしていた。
「えぇ、小さい頃から乗馬は父に仕込まれていましたから」
「俺たちが乗るよりもよっぽど騎士っぽいな、ルークは」
その言葉に一同は大笑いする。
ルークは楽しかった。
彼らに認めて貰え、一時でも憧れの騎士団の一員になれたような気がしたからだ。
ロリリアの街まであと少しのところまで戻ってきた一行。
周囲を警戒するため先行していた騎士団員が、少し慌てた様子で戻ってくる。
「まずいぞ。盗賊だ・・・」
その言葉に一行に緊張が走る。
「どうする?」
「どうするって言ってもこの人数じゃ」
「返り討ちにあっては元も子もないぞ」
「そもそも本当に盗賊なのか」
明らかに混乱しているのがわかる騎士団員たち。
ルークも心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
その時、トーレスが口を開く。
「盗賊だと判断した理由はなんですか?」
トーレスは盗賊発見の一報を入れた団員に尋ねる。
「あ、あぁ。やつらの旗だ。黒に猪の旗印は『森の牙』の連中に違いない。以前討伐で見掛けたことがあるんだ」
「『森の牙』ですか、最近は活動も縮小したと聞いていたが残党がいたんですね。恐らく盗賊で間違いないでしょう」
団員の全員がトーレスを見ている。
「幸い、ロリリアの街は目と鼻の先だ。一人は馬を走らせて騎士団本部に援軍を要請しましょう。残りのメンバーで見失わないように監視を」
トーレスの言葉に素直に頷く騎士団員たち。
この場のリーダーは間違いなく若いトーレスだった。
「ルーク」
声を掛けられ身体を震わせるルーク。
「は、はい」
「初めての護衛任務がこうなってしまって申し訳ないが、冒険者としてその力を貸してくれ。戻ったら報酬は倍にしてもらうから。団長には俺から頼んでおく」
そんなことを笑いながら言うトーレス。
緊張を解そうとしてくれているのが分かったし、
ルークは実際に緊張が緩和されたような気がした。
それはその場にいた一同が同じであった。
「さぁ、騎士団として務めを全うしましょう。必ず生きてロリリアに戻るんです」
そうして各自は戦闘の支度を始めた。
・・・
・・
・
騎士団員は総じて剣術、魔法の技術が高い。
冒険者に比べればサバイバル力には劣るものの、
多数対多数の集団での戦闘は騎士団の得意とするところであった。
森に隠れ盗賊を探すと、すぐに見つけることが出来た。
浅黒い顔に、荒々しい装備。
山賊、と言った方が近しいその出で立ちに一行は剣の握りを強くする。
「このまま、監視を続けよう」
トーレスが小声で周囲に伝達する。
この距離であれば、盗賊に気が付かれることもないだろう。
一同にそんな安心感が生まれ始めた時、目にはしたくないものが目に入る。
「あれは・・・!」
よく見ると盗賊の一団は誰かを取り囲み、
笑いながら殴る蹴るの暴行を繰り返していた。
男性3人と女性1人。
明らかにロリリアの街の商人であった。
「く・・・」
トーレスの顔が歪む。
「トーレスさん、あのままじゃ・・・」
「分かっている。『森の牙』は残忍な盗賊だ。彼らが襲った小隊は皆殺しにされることも多い。あのままでは彼らの命もすぐに奪われてしまうだろう。しかし・・・」
押し黙る騎士団一行。
周囲には盗賊たちの高笑いと殴る音。
女性の悲鳴が響く。
「みんな、聞いてください。俺がやつらに斬りかかります。その隙に人質を助けて逃げてください、街道をロリリア方面に向かえば援軍と合流できるはずです」
「し、しかしそれでは・・・」
トーレスの提案に、団員たちが動揺する。
それはこの僅かな人数で盗賊と対峙することを意味していた。
「彼らを見殺しにすることは、騎士団の誓いに反します。ここで戦わなくてはなんのための騎士団でしょうか」
トーレスの言葉に、周囲の目に熱がこもる。
「・・・わ、わかった。トーレス、お前も無茶をするなよ。俺たちが離脱したらすぐにい逃げろ」
「もちろんです。案外、皆さんより先に逃げ切れるかも知れません。俺、逃げ足は早いので」
トーレスが無理して笑顔を作る。
ルークはその表情にとても嫌な予感を感じた。
「ルーク、君も気を付けろよ。また、ロリリアの街で話そう」
そう言うとルークは一人森のなかを先行し、
盗賊たちへと近づいた。
ルークが見たのは、一人叫び声をあげながら
盗賊の一団へと切りかかるトーレスの姿だった。
その行動をきっかけに、
人質を助けるべく団員たちは一斉に森のなかを走り始める。




