第26話「メイドの少女」
魔闘術は別名、魔力変質魔法とも呼ばれ属性魔法にも無属性魔法にも
属さない魔法である。
かつて武の道を極めんとする一人の魔族により編み出され、
魔法を使う術を持たない戦士や剣士などが使っていた。
だが現在では、その継承も断たれ習得方法も伝達されておらず、
伝説上の武芸に数えられるようになっている・・・・
カケルはそのような説明をリエルから受けた。
そうしてはじまった魔闘術の訓練だが、
リエル自身は妾は寝る、と言って寝室に籠ってしまった。
そして現在、カケルの訓練を監督しているのは、
先程魔闘術をリエルに進言したメイドさんであった。
「カケル様、魔力が乱れております。集中を」
そう言われてカケルは再び魔力操作に神経を集中する。
課された課題はシンプルで、魔力を魔法に固める一歩前の段階にとどめ続ける
と言うものだ。
言うは易し、と言う言葉がぴったりのこの訓練は
一瞬でも気を抜けば魔力は霧散するか、もしくは魔法が発動してしまうかの
どちらかであった。
すでに4時間。
座禅の姿勢から魔力を練り続けているが、
失敗の繰り返しである。
「あー、ダメだ。ちょっと休憩」
魔力が霧散すること数百回目。
カケルはついにその場に倒れこんだ。
「難しいでしょうか」
メイドさんがカケルを覗きこむ。
「魔法を習得したこと自体が最近だけど、それとはまったく違う技術って感じですね。こんなの習得できた人っているんですか」
「人間ではわずかだと聞いております」
メイドさんが答える。
「人間では・・・あの違っていたらごめんなさい。もしかしてメイドさんも・・・」
「申し遅れました、私の名前はセブンと申します。おっしゃる通り私も魔族です。」
「セブンさん・・・よろしくお願いします。やはり魔族なのですね。こうして見ると分かりませんが」
「普段は人間の姿に擬態しております故。我々魔族にはそれぞれ本当の姿がございます」
「本当の姿か・・・それは恐ろしいですね」
カケルがそう言うとセブンが不思議そうな顔をして言う。
「失礼ですが、仰っているほど我々魔族を恐れてはいないように見えます。カケル様は自分とは異なる存在である我々が恐ろしいとは思わないのでしょうか」
そう言われて考えるカケル。
「自分とは・・・たしかにそうですね。俺は塔のなかで死ぬような目に何度も遭いましたし、自分とは異なる存在っていうのはたしかに怖いかもしれません」
「では・・・」
「でもそれはセブンさんやリエルには当てはまりません。こうして意思疏通が出来ますし、なによりあなた方には邪悪な雰囲気は感じません。」
「邪悪な・・・我々は魔族ですよ?」
「それは種族であって、あなた方の本質ではないでしょう?それとも魔族は全員が悪者なのですか?」
「そんなことはありません!」
「そうですよね。お二人を見ていればわかります。魔族と言う種族のことは知りませんが、あなた方二人は優しい人だと思っています。種族ではなく、その人個人がどうか、だと思います」
「・・・っ」
カケルの言葉に急に黙りこむセブン。
「あ、あのどうされました?」
「い、いえ。なんでもございません。失礼いたしました。」
「そうですか、、」
「カケル様は優しい方ですね」
「えっ?」
「なんでもございません。それからカケル様、よろしければ私には敬語をお取りください。それから私の事はセブンとお呼びください」
「え、そう言われても、、」
「無理して敬語を遣われるより自然体がよろしいかと存じます」
「リエルにも言われたが、そんなに不自然、、か?」
「はい」
そんなに即答するなよ、とカケルは思った。
「ではそうさせて貰う。セブンも俺の事はカケルと呼んでくれて構わないぞ」
「それは致しかねます」
「なぜだ?」
「カケル様はリエル様の弟子になられました。カケル様に不遜な態度を取ることは私の主への不敬にあたるかと」
「そんなもんなかな、、じゃあせめて様は止めてくれないか?俺も落ち着かないんだ」
「では、カケルさんとお呼びしても?」
「あ、ああ。まだ落ち着かないけどそっちの方がマシかな」
「わかりました。ではカケルさん、訓練の続きを始めましょう」
そこからさらに数時間。
カケルの地道な訓練は続くのであった。
・・・
・・
・
「時間?なんじゃ貴様、そんなこと今さら気にしておるのか」
夕食時、リエルに修行にかかる時間の目安を尋ねてみた。
「魔族の武芸者が生み出した術じゃぞ?逆に一朝一夕で身に付くようなものが良いのか?」
「いや、そんなことはないが・・・」
カケルはリエルに暴風竜と、その討伐が7日後に迫っていることを説明した。
「暴風竜じゃと・・・、また厄介なやつが来たもんじゃ」
例によって、暴風竜のことを知っている様子のリエル。
本当にこいつは一体何者なんだという思いが強くなる。
「まぁ良い時間のことは気にするな。ここはそう言った意味では今の貴様にぴったりの場所じゃ」
「ここ?」
「なんじゃ貴様、まったく気が付いていないのか。ここをどこだと認識しておる」
言われて気が付くがたしかにここはどこなのだろう、とカケルは思った。
最初の民家とは異なるが、ロリリアの街の側では無いのだろうか。
「この城は妾の生み出した結界魔法の中じゃ」
「結界魔法・・・」
カケルはその言葉を聞いて賢者の塔のことを思い出す。
「結界魔法は言うてみれば、魔法を発動した者の作ったルールが、そのまま結界内に適応されるのじゃ。もちろんそのルールが複雑になればなるほど高度な術式と大量の魔力が必要じゃが。」
「俺にぴったりとはどういう意味だ?」
「この結界に込められた魔法、それは気候の安定と時間の遅延じゃ」
「時間の遅延って・・・それはすごい魔法なんじゃないか?」
「そうでもない。知覚の方を操作して体感的な時の流れを早めているだけじゃからな。実際に時間を操れるような便利な魔法ではないのじゃ」
「そうなのか。俺にはとんでもなくすごい魔法のように思えるが」
「我々長命な魔族にとって、時の流れはさほど重要ではない。普段はバカンス用に使うだけじゃ。暴風竜の討伐隊が出発するまで7日もあるのじゃろう?そしたら数週間分の猶予はあると思っていいぞ。もっとも数週間の修行で暴風竜と戦えるようになるとは思えんがの」
そう言うとリエルはハッハッハと笑った。
もうこいつが暴風竜を討伐すればいいんじゃないかとカケルは思った。
「カケルさん、明日はまた朝から魔力のコントロールを訓練しましょう」
「明日もか・・・お手柔らかに頼むぞ。セブン」
「ふふ、承知いたしました」
食事を片付け終わったセブンが声をかける。
その光景にリエルがにやにやとしながら見ていた。
カケルが自室に帰ってから、リエルはセブンに声をかける。
「なんじゃ、そなたが名を明かすとは珍しいな。そんなにカケルの事が気に入ったのか。英雄、色を好むと言うが次代の賢者もなかなか隅に置けんの」
「・・・おやめください、リエル様」
顔を赤らめるセブンさん。
「ふふ、照れるな。我らとて生物に過ぎん。優秀な雄には惹かれるものよ」
「・・・」
「それで、どうじゃ?やつの魔力の具合は」
「・・・はい、コントロールには苦労していますがすでに魔力を変質する前に留めると言う感覚は理解している様子。あとは数さえこなせば早々に次の段階に進めるかと」
「・・・ほう。やはり次代の賢者に選ばれただけはあると言うことか。面白い、明日からは戦闘訓練も加えて更に追い込むとしよう。そなたにも協力して貰うぞ」
「承知いたしました」
「くく、だが次代の賢者が本当に我が教えに従うとはな。長生きしていると面白いこともあるもんじゃ」
その晩、リエルの城にリエルの高笑いが響くのであった。




