第24話「漆黒の幼女」
「あの、換金をお願いします」
ルークはギルドの窓口に素材を持ち込んでいた。
「はい、換金ですね。承知いたしまし、、、」
受付の少女はルークを見て、驚いた表情をする。
「あの何か、、、」
「ご、ごめんなさい。あなた数日前に賢者の塔でお会いしましたよね?その、カケルさんと一緒に、、、」
そこまで言われてルークは気が付く。
塔の受付にいた金髪の美少女だ。
「あ、君は」
「はい、リリスです。先日はありがとうございました」
「こちらこそ、換金をお願い出来ますか?」
「もちろんです!それでは素材を出していただけますか?」
ルークは道具袋を漁り、今日の収穫を取り出していく。
「はい、以上ですね。承知しました。それではすぐに査定いたしますね」
そう言うとリリスは手際よく素材を確認し、帳票のようなものに書き込んでいく。
よく見ると顔はにこにこしているが、とてつもない早さの事務作業だ。
やがて査定が終わり、本日の報酬を受けとる。
今日は昨日よりも高い査定額となったようだ。
ルークが帰宅しようと、換金受付をあとにしようとすると
リリスから声をかけられた。
「あ、あの。今日はカケルさんは一緒じゃないんですか?」
「え、あ。うん、そうなんだ。」
「そうですか・・・」
露骨に残念そうにするリリス。
「僕とカケルは大賢者のコカトリス亭に部屋を借りてるんだ。冒険者としてしばらくはこの街にいるから、また会えると思うよ」
そう言うと、少女の顔がパッと明るくなる。
「本当ですか!?良かった」
そう言って笑顔を見せるリリスに、ルークは胸がざわつくのを覚えた。
ルークはふわふわとした気持ちのまま、
ギルドを出るとそのまま大賢者のコカトリス亭に向かった。
「リリスか・・・」
帰り道でルークは少女の笑顔を思いだし、
名前を呟くのであった。
・・・
・・
・
「うっ・・・」
カケルが目を醒ますと、そこは先程までの民家ではなく
石造りの部屋のなかだった。
どことなく塔のなかを連想させるその部屋造りに、
カケルは一瞬また塔の中に戻ってしまったのではないかと言う
恐怖心に襲われる。
だが、窓から見える景色が塔から違うことに気が付き安堵する。
そこは大森林の中に立てられた城のような建物だった。
「な、なんだここ・・・俺は・・どうしたんだ」
眠る前のことをゆっくりと思い出し、
あの老婆に一服盛られたのだと言うことを察する。
「あのババア・・・」
その時、部屋の扉がノックされ扉がゆっくりと開かれる。
「おはようございます」
そこにはメイド服に身を包んだ、長身の女性がいた。
カケルは一瞬身構えたが、相手に殺気も魔力も感じなったため
肩の力を抜いた。
「あ、あのここは一体・・・」
「ご主人がお呼びです、こちらへどうぞ」
カケルの質問には一切答えず、
メイドさんは無機質な声でカケルを案内する。
そのまま部屋の外に出たカケルは、
メイドさんの背中について城のなかを歩く。
よく見ると絵画や鎧が展示されている。
ダンジョンと言うよりは、
王宮と言って良いような高級感のある作りだった。
しばらく歩くと、
メイドさんの足が止まった。
そこは他の部屋よりも巨大な扉の前であった。
「ご主人様、お連れいたしました」
メイドさんがそう言うと、
扉はひとりでにゴゴゴと音を立てて開く。
「どうぞ」
メイドさんにそう言われ、カケルは
部屋のなかに入っていく。
謁見の間のような作りの部屋。
中心の床には赤い絨毯が敷かれ、
入り口から部屋の中心へと伸びていた。
そしてその部屋の中心にはきらびやかな玉座が置かれ、
そこには
「ようこそ、次代の賢者」
真っ黒いドレスを着た、幼女が鎮座していた。
「えっと・・・」
カケルは状況が理解出来ずその場に立ちすくむことになった。
・・・
・・
・
「ハッハッハ、驚かせてすまないな」
カケルと幼女はテーブルを挟み話を向かい合っている。
傍らではさきほどのメイドさんがお茶を入れている最中だ。
「次代の賢者なんて超大物が急に来て妾も驚いてな。つい悪さをしてしまったのだ、許せ」
「はぁ・・・」
カケルは幼女の勢いに圧倒され、曖昧な返事をする。
「む、自己紹介が遅れたな。妾はリエルじゃ、よろしく頼む」
「カケルです・・・リエルさんはそのおいくつなんですか?」
「この姿か?ふふ、ただの趣味じゃ。実際は500歳を越えておる。妾は魔族じゃからの」
「ジジイ言葉の幼女か・・・」
「なにか言うたか?」
「いえ、なんでもありません」
「そうか?ところでお主、その堅苦しい言葉遣いを止めよ。寒気がする」
「そうです・・・そうか?なら崩させて貰い、、貰う」
「うむ、敬う気持ちは必要じゃが次代の賢者にそんな言葉遣いをされると後が怖いからの」
次代の賢者と言うのは一体どのような扱いなのだろう、カケルは思った。
「俺が次代の賢者・・・って呼ばれてるのは確かだ。実感はないが。どうして分かった?」
「どうしてじゃと?」
リエルは目を丸くさせて驚くと、そのまま大笑いしはじめた。
「ハハハハハ!これは傑作じゃ。そんな脆弱な隠匿魔法だけで自分のステータスを晒しておる貴様が言うセリフか!」
「隠匿魔法・・・」
カケルが戸惑っているとリエルは笑うのを止め、カケルの顔をジッと見た。
「まさか知らんのか?次代の賢者ともあろう者がか?・・・む、たしかにお主に掛かっておる隠匿魔法は他者に掛けられた魔法のようじゃの」
そんなことをするのは、ワルツしかいない。
そういえば修練場でボッシュのステータスをうまく探知出来なかったが、
それも隠匿魔法とやらだろうか。
「隠匿魔法は対人戦であれば必須じゃぞ。ステータスを見られるのは自分の手札を晒したままカードを切るようなものじゃ。まぁ、そのレベルであれば人間には簡単には見抜かれないじゃろうな。魔法の効果もいずれ消えるが当面は心配はいらんじゃろ。しかし不思議なやつじゃ・・・貴様、いったい何者だ?」
カケルは迷いながらも、
この幼女にことの顛末を話してみることにした。
幼女にはカケルにそうさせるだけの、不思議な雰囲気があった。
「転生か・・・そのような魔法があるとは。長生きしてみるもんじゃの」
幼女はさらにカケルの顔をジッとみる。
「言われてみれば、次代の賢者だと言うのにその微弱な魔力。やつの後継者とは思えんの」
「やつ?」
「無論、大賢者ロロのことじゃ。」
「知っているのか」
「ああ、もう300年も前の事になるがな。やつとは何度か戦ったことも、共闘したこともある。真面目すぎて寒気のするやつじゃったが、とにかく強かったぞ」
あのロロと戦って生きてるって言うのはすごいことなんじゃないか、とカケルは思った。
「あんた・・・何者なんだ?」
「む。そうか気になるか。ふふ、今は秘密じゃ。そのうち分かる。それより貴様、強くなりにきたのじゃろ?妾の指導を受けんか」
「指導・・・」
「心配するな、殺しはせん。それに妾の教えを受けれるなぞ、滅多にないことじゃぞ」
「強く・・・なれるのか」
「それは貴様次第じゃ。」
カケルは少し迷いながらも、
この幼女の不思議な存在感に頼ってみたいという気持ちになった。
「・・・よろしく、頼みます」
「決まりじゃな、妾も楽しみじゃ。次代の賢者にものを教えることなど貴重な機会じゃからの」
そう言うとリエルは笑顔を見せた。
カケルはその笑みに邪悪な気配を感じ戦慄を覚える。
カケルがこの選択を別の意味で後悔するのはすぐ後の事であった。




