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第23話「魔王の七竜」


カケルが市場を少し回って大賢者のコカトリス亭に戻ると、

ボッシュが女性と話している姿が見えた。


「あんたはいつもそうなんだから!何度言ったら分かるの!」


女性に叱責され、その巨体が見る影もなく縮こまっているボッシュ。


「す、すまん・・アイン、、俺が悪かった。」


平身低頭謝るボッシュ。その姿に修練場でみた鬼神のような姿は面影もなかった。


「あれ、ボッシュさんの奥さんだよ・・・」


カケルが入り口で立ちすくんでいると、後ろからルークが話しかけてきた。


「・・・大変だな」


美人だが気の強そうな女性だ。

カケルは激しさを増す奥さんの勢いに押され、

どうしたものかと考えていた。

二人はこのタイミングで店の中に入る事も憚られ、

もう一度街へと出ることにした。

ボッシュもこんな姿を二人に見せたくはないだろう、という配慮だ。


それから二人が大賢者のコカトリス亭に戻ったのは一時間ほど後で、そこには頬を真っ赤に腫らしたボッシュがしょんぼりと肩を落として店の掃除をしている姿があった。




・・・

・・


店を従業員に任せ早めに仕事を切り上げたボッシュと食事をしていると、七日後に討伐予定の暴風竜の話題になった。


「暴風竜はかつて若き魔王ガルバディアが従えた、七竜のうちの一頭だ。」


聞いたことがある名前だ、とカケルは思った。

ガルバディア、かつて大賢者ロロと共に邪神と戦ったとされる三英雄の一人だ。


「ガルバディアって大賢者の仲間だろ?その魔王が従える竜がどうして人を襲うんだ?」

カケルが質問をする。


「従えたと言っても、主従関係にある訳じゃない。竜族は非常に誇り高く、高位な竜は人の言葉も理解するくらいだからな。邪神討伐のために魔族だけが使える特殊な魔法を使い、、一時的に戦力として従えたと言われているんだ」


「魔物を・・・そんな魔法があるのか」


「あぁ。魔族だけに伝わる特殊な魔法があるらしい。属性魔法や無属性魔法とはまるで違う系統の、な」

ボッシュがグラスを傾ける。


「暴風竜イル=バルヴァロは七竜の中でも特に気性が荒く、人里を襲うこともある。この数十年は姿を表していなかったんだが、なんでこんな時に・・・」


「討伐は、可能なんでしょうか?」

ルークが尋ねる。


「不可能だ」

ボッシュが答える。

その言葉にルークの顔が固くなる。


「伝説の存在だぞ。せいぜいストレスを与えてこの近隣から離れてもらえたら御の字ってやつだ。」


「そんな・・・」


「とにかくやるだけやるしかねぇ。伝説の暴風竜と戦えるなんて滅多にない機会だしな」


ガハハとボッシュが笑う。

能天気なように見えるが、その表情は固かった。



・・・

・・



明くる日、カケルとルークは先日と同じ森で

魔物の討伐と採取に励んでいた。


丸一日森を歩き回り討伐と採取を繰り返し、

銅貨10枚程度。

これは朝夕の2食と一泊分の宿代で消えてしまう程度の金額だ。


カケルとルークは住居を大賢者のコカトリス亭に間借りしているため少しばかりの余裕があったが、駆け出しの冒険者にとってははまさに日銭を稼ぐようなもので、非常に厳しいと言わざると得ない状況ではあった。

ルークの路銀を貯金出来るようになるのはもう少し先になりそうだ。


ロリリアの街の周辺には強い魔物もおらず安全に狩りをすることは出来る。

だが強くなることが目的のカケルにとっては少し歯応えがない相手だと感じていた。




「じゃあ僕は、素材を換金してくるよ。昨日はカケルに任せてしまったしね」

そう言うとルークはギルドの方へと駆けて行った。


討伐の調子がよく、今日は早めに狩りを切り上げることにした。

このまま大賢者のコカトリス亭に戻っても夕飯の時間には早すぎるだろう。



「どうしたものかな、、」

カケルがそう思いながら街をフラフラしていると、

外套のポケットの中にクシャとなにかの感触を感じた。


取り出して中を見ると、そこには一枚のメモが入っていた。


ーーー魔法を用いた戦闘術教えます。初心者でも問題ありません


ギルドの掲示板で見つけたメモだ。

カケルは話でも聞いてみるか、と思い立つ。

周囲の人に尋ねながら、そのメモに書かれた住所へと向かうのであった。




・・・

・・



「ここか、、、なんだってこんなに遠いんだ」

カケルがその住所へたどり着いたのは、もう日が暮れだした後だった。


メモに書かれた場所はロリリアの街外れの森の中で、

周囲から孤立して一件だけポツンと民家が立っていた。

灯りはついており、人の生活の気配がする。


カケルは思いきってドアをノックする。


「すみませーん。あのメモを見て来たんですけど」


反応はない。

「おかしいな」

もう一度ドアを叩こうと思った瞬間、

ドアは開き中から老婆が現れた。


「あらあら、どうしたんだい」

拍子抜けするカケル。

戦闘術と書かれているからにはボッシュのようなゴツい大男が出てくると想像していたためだ。


「あ、いやあの。掲示板でメモを見つけて来ました」


「メモ?もしかして魔法戦闘術かい?」


「あぁ、はい。でも、、、」

「中にお入りなさい」


老婆に促され、家の中に入るカケル。

なぜか彼女の言葉には逆らえないような気がした。




「お茶で良いかい?」

「はい、ありがとうございます」

老婆はそう言って、良い香りのするお茶を煎れてくれた。


「こんなババアが出て来て拍子抜けしたかい?」

突然的を得た質問をされ、カケルは一気に緊張する。


「は、いや、そんなことはありません」


「ふふ、構わないよ。顔に出ている。容姿から得る情報と言うのもまた大事なものだからね」

老婆は機嫌を損ねた様子もなく、カケルは安心してため息をついた。


「あのメモの件はなにかの間違いでしょうか?」


「間違い?」


「魔法を用いた戦闘術とありました、俺はそれを見てここに来たんです」


「あれか。数年前に掲示板に貼り付けてそのままにしていたよ。誰も来やしないからすっかり忘れていた」


カケルはがっくりと肩を落とした。


「あんたはなんで力を求めるんだい?見たところそれなりに戦えるようだけど」


老婆の質問にカケルはドキリとする。先ほどから鋭い質問ばかりだ。


「それは・・・助けたい子がいるんです。強くなれば救える訳じゃないけど、それでも強くなればなにか前に進めるかも知れなくて」


「よく分からないね」


老婆が笑う。

「何か言えないことがあるようだ。だけど強さを求める人間なんてそんなもんだね」


「ありがとうございます。と言っても強くなる方法って言うのが分からなくて困ってはいたんですけど。もう少し考えてみます」


カケルは出されたお茶を飲み干し、席を立とうとした。


「おや、帰るのかい?」


「ええ、もうじき夕食の時間なので」


「話はまだ終わってないよ。あんたは魔法を用いた戦闘術を習いにきたんだろ?」


「ですが、それは先程・・・」


「募集したことは忘れていたが、誰も教えないなんて言ってないよ」


「ですけど・・・」


「ただの戦闘狂や悪人には教える気は無かったが、あんたはまともそうだからね。特別料金で教えてやらんでもない」


カケルは目の前の老婆を今一度見る。

細い身体に痩せた手足。

これで戦闘術を教えられる訳がない。


「まだ疑っているようだね。ふふ、良いだろう。まずは一つ目の教えだ、魔法戦闘においては目に見えるものがすべてではない、だ」


その瞬間、老婆の身体から尋常じゃないほどの魔力が溢れだす。

テーブルの上のカップがカタカタと揺れ、風もない室内でカーテンが揺れている。


「あ、あんたいったい・・・」

とてつもない魔力を前に、カケルは足がすくむ。

こんな重厚な魔力、塔の中でも感じたことはなかった。

テトラともワルツともまったく違う種類の魔力だ。


「ふふ、驚いたかい。そしてそのまま二つ目の教えだ」


カケルはそう言われて再び老婆の方を向くが、

突如とてつもない眠気に襲われ目を開いていることが出来なくなった。


「ぐ・・・な、にを・・・」

カケルは落ちる意識のなか机の上のカップを見る。


「初対面の相手が進める物は簡単に、口にするもんじゃない。何を盛られているか分からないからね」

カケルの意識はそこで途切れた。



「おやすみ、次代の賢者さん・・・」


民家の灯りは消え、暗闇が満ちた。


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