第20話「冒険者の基礎」
「お、おいカケルやばくないか。あれじゃボッシュさんが・・・」
ルークが慌てる。
言われて我に帰るカケル。夢中になりすぎて、つい全力を出してしまった。
塔の魔物だったら、止めを刺すには十分な威力の魔法だった。
「お、おい!ボッシュさん!」
慌てて爆心地に駆け寄ろうとするが、
その時とてつもない殺気を感じる。
と、同時に舞い上がった砂煙が吹き飛び、
視界が晴れる。
そこにはボッシュが、体から煙を上げながら立っていた。
「ボッシュさん、良かった・・・」
ルークが胸を撫で下ろすが、
カケルは全く違う感情を抱く。
カケルは再び現れたボッシュを見て、
全身に汗が吹き出るのを感じた。
シンプルな恐怖だ。
「・・・このクソガキ・・殺してやる・・・」
その目は獣のように鋭く、
すでに理性を失っていることが見てとれた。
<鬼人化>
ボッシュがそう呟くと、
全身からさらに殺気が吹き出す。
同時にボッシュの全身の筋肉が肥大し、
もともと大きなボッシュの身体がさらに大きくなった。
殺される。
カケルは目の前にいる鬼にとてつもない恐怖を感じていた。
「そこまでだ!!ボッシュ!!!」
その時、修練場に声が響いた。
声の方を見ると、眼鏡をかけた男がこちらに歩いてくる。
銀色の鎧を身に付けており、騎士のようだ。
後ろには武器を携えた兵士を従えている。
男はカケルの側まで来ると、カケルを守るように
ボッシュの前に立ちふさがった。
「この馬鹿者が!巨大な爆発音を聞いて駆けつけてみれば。。こんな街中で鬼人化魔法なぞ使用するな!」
「グガガ・・・」
男に叱責され、ボッシュの殺気が徐々に薄れていく。
「ミリアルド・・・か」
やがてボッシュは意識を取り戻し、言葉を発した。
「すまない、助かった。」
「お前がそんな力を使ったら修練場どころではない、この街が壊滅するぞ。よく立場を考えるんだな」
「ああ」
ミリアルドと呼ばれた男は、踵を返すと部下に何かを指示した。
「あとで我々の事務所に来い、君もだ」
そういってミリアルドはカケルの方を向き、同じく鋭い目を向けた。
「いくぞ!」
ミリアルドはそのまま修練場を後にした。
3人はその姿を視線だけで見送った。
「ハッハッハすまん!つい夢中になっちまった!!」
修練場をあとにした3人は大賢者のコカトリス亭へと戻る。
その道中で、ボッシュはガハハと笑いながらカケルの背中を叩く。
「カケル、お前は強いな!挑発したことは謝る、ありゃ嘘だ。ようやく現れたお前を認めんやつなどいない。
それに粗削りながら、お前の魔力は大したもんだ」
褒められながらも、
全身の毛穴が逆立つほどのボッシュの殺気を思いだし、
この人を怒らせないようにしようと誓うカケルであった。
・・・
・・
・
夜分、カケルとボッシュはとある民家の前にいた。
大賢者のコカトリス亭からは離れた、
街の東側にあるきれいな一軒家だ。
ボッシュが2度扉を叩くと、
「入れ」
と短く低い声がした。
中に入るとそこは事務所のような場所で、
たくさんの書類が整然と積まれていた。
「夜分遅くにようこそ」
事務所の中心には昼間の男性、ミリアルドが座っていた。
シャンと伸びた背筋から、敏腕弁護士のようだな、とカケルは思った。
「座りたまえ」
促され、カケルの隣にボッシュ。正面にミリアルドが座る。
ミリアルドはカケルの方をじっと見たまま動かない。
まるで値踏みするようにこちらを見るミリアルドに、
ボッシュに感じたのとは違う恐怖を感じるカケルであった。
「あなたが・・・カケル。次代の賢者様ですね」
突然そう言ったミリアルドに驚くカケル。
「ガハハ!その通りだミリアルド。カケルは大したやつだぞ。」
ボッシュも隠す様子はなく、なんだそう言うことかとカケルは納得する。
「はい、カケルです。えっと、ミリアルド・・さん?」
「自己紹介が遅れました。私、ミリアルドと申します。普段はこの街に滞留する騎士団の団長。また『賢者の弟子』の支部副団長をしております。そこの野蛮人とはその、幼馴染みでございまして。お恥ずかしい姿をお見せいたしました。」
「あ、いえ。昼間は助かりました。ボッシュさんに殺されるかと思いましたので」
その言葉にミリアルドはボッシュをギロリと睨み付ける。
「は、はは。」
ボッシュは頭をボリボリとかいてバツの悪そうな顔をする。
「ワルツ様からお話は伺いました。塔の最上階から降りていらしたとのこと、誠に感服いたします。」
「あ、ああ。それは道案内がいたからさ」
「しばらくはこの街に滞在されるとのこと、そこのボッシュと共にお力添えさせていただきます」
「カケルは冒険者をやるんだってよ。明日から基礎を教える」
ボッシュの言葉に、ピクッとミリアルドの眉が動く。
「カケル様」
ミリアルドがカケルの方を見る。
「この野蛮人に愛想を尽かしましたらすぐにお声掛けを。私が代わりにご教授いたします」
「お、おい!」
二人のやりとりに思わず笑ってしまうカケル。
そのあとはミリアルドの出してきた酒を飲みながら、夜更けまで語り合った。
・・・
・・
・
次の日、カケルとルーク、ボッシュは街の外にいた。
ここはロリリアの街から出て、賢者の塔とは反対方向に位置する森だ。木々は低く、平穏な雰囲気がある。
「さて、今日から冒険者の基礎について教えるが、二人は戦闘も出来るし正直教えることはあまりない。冒険者がどうやって生計を立ててるか知ってるか?」
カケルとルークは首をかしげる。
「まぁ知らんのも当たり前か。冒険者の生業は大きく2つ。よく覚えておけ」
ボッシュの説明を要約するとこのような内容であった。
・魔物の討伐
魔物の証明部位をギルドに持ち込むことにより換金可能。
高位の魔物ほど高い金額となる。
ギルドから指定される賞金首魔物を倒した際には褒賞金が出る。
・素材の採取
薬草や、魔物の部位、鉱石などの素材はギルドでの換金が可能。
ギルドに依頼が入っている素材を納入することで依頼達成となり、依頼達成報酬が支払われる。
「分かったか?魔物を倒しても、証明部位を持ち帰らないと意味がないぞ。素材の依頼はギルドで受注可能だ」
「証明部位・・・」
カケルは塔でのことを思い出す。
「ボッシュさん、賢者の塔だと魔物は・・・」
「その通りだ、塔の魔物は特殊でな。そこらの魔物と違い、大賢者様の魔力で作られている。絶命後に放っておくとすぐに消えてしまう。」
ボッシュによると、
ダンジョンにいる魔物はほとんどが魔力により産み出されたものあり、倒すことにより魔力ごと肉体も霧散してしまうらしい。
「だから塔の魔物を倒すだけじゃ、金は手に入らない。あそこは魔力の泉みたいなものだから、その他の素材がわんさかと採れるがな」
「じゃあ今日は魔物の証明部位を教えながら狩りをするぞ。特徴もあるから一度で覚えてくれよ」
そう言って三人は森の深部を目指して歩きながら狩りをしていった。
ミリアルドの前評判を裏切って、ボッシュの教え方は丁寧で分かりやすかった。
証明部位は兎型の魔物は耳、ゴブリンは鼻、ファングボアは牙など、魔物の特徴的な部位が指定されていたため
すぐにコツを掴むことができた。
3人は日暮れまで狩りし、十分な素材を採取したところで街へ戻ることにした。
こうしてカケルの冒険者としての1日目が終わった。




