第18話「大賢者のコカトリス」
「ではワルツ様、ごゆっくりどうぞ。料理は後程運ばせます」
「ありがとう」
そういって男は個室から出ていった。
「ワルツさん、あの方は・・・あなたのことを?」
ルークが尋ねる。
「知ってるわ。私が塔の管理者であることもね。この街にも色々と知り合いがいるのよ」
ふふと、笑みを浮かべるワルツ。
この人は、まだまだ隠していることが多そうだな、とカケルは直感的に感じた。
テトラは割りと分かりやすいタイプだったが、ワルツはまるで表情が読めない。
そのうちに、給仕がワインといくつかの料理を持ってきた。
3人はグラスに酒を注ぎ、杯を合わせる。
「賢者の塔からの脱出おめでとう。色々あったけど頑張ったわね」
ワルツがそう言う。
3人は邪神の眷族の姿とテトラの事を思い出す。
「さぁ、食べましょう。ここは大賢者様の時代からある老舗酒場よ。料理も本当に美味しいわ」
「そんな昔からあるのか・・・」
カケルはテーブルの上に載せられた料理を見て気づく。
「これは・・・」
カケルは鳥肉に良く似た肉をテーブルの上に見つける。
「それはこの店の看板メニューでもある、コカトリスの丸焼きよ。」
カケルはコカトリスの丸焼きを頬張った。
溢れる肉汁と香る香草。
いつかテトラが大好物だと言っていた料理だ。
本当に美味しかったんだな、とカケルは思った。
・・・
・・
・
「カケルちゃん、これからの事なんだけど」
並べられた食事も食べ終わった頃、ワルツがそう切り出した。
「私が案内できるのはこの街までなの。そんなに長い時間、塔を離れるわけにはいかないから」
「そうか・・・」
予想はしていた。だが、面と向かって言われると心細いものだな、とカケルは思った。
「貴方はこれからどうするの?なるべく不自由がないようにサポートさせて貰うわ」
「ありがとう、ワルツ。俺は・・・強くなる必要がある、だろ?大賢者の叡知を使いこなすために」
「そう、ね・・・」
少し自棄になっているように見えたのだろうか、ワルツが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だ、せっかく塔から出たんだし命を無駄にするようなことはしない。テトラを助けるっていう目的もあるしな。当面はこの街で冒険者でもやって生活費を稼ぐことにするよ」
「私も時々は街に降りてくるわ」
「あの、カケル。」
ルークが口を開く。
「僕もしばらく一緒にこの街で過ごしてもいいかな?」
「家に帰らないのか?」
カケルが質問を返す。カケルとは違い、ルークには帰る家があるのだ。
「家に帰るにしても路銀がいるんだ。僕の住んでる街は遠いから」
「家に連絡すれば都合してくれるんじゃないか?行方不明になった息子が生還した訳だし。」
「それは、、そうなんだけど、その、、」
口ごもるルーク。
「家に頼りたくないんだ、これ以上」
その表情を見て、カケルは理解した。
ルークは今も、家族に対する劣等感を拭えてはいないのだ。
「分かった。俺も街には詳しくないからな、ルークが居てくれると助かるよ」
「そ、そうか。なら良かったよ。よろしく頼む」
ルークはそう言われて嬉しそうに答える。
「カケルちゃんはここでどうやって生活するつもりなの?」
「色々考えたんだが、やはり俺は冒険者しか出来ないと思う。常識知らずだから、接客とかも出来ないしな」
「ふふ、言うと思ったわ。その為にこの店を選んだのよ」
ワルツがそう言うと同時に、扉をノックする音が聴こえる。
「ワルツ様、失礼します」
入ってきたのは先程、3人を部屋に案内してくれた男だった。
「二人とも、紹介するわ。彼はボッシュ、大賢者のコカトリス亭の店主よ。」
ワルツにそう促され二人はボッシュと呼ばれる男を見上げる。
よく見るとかなり体格がよく、浅黒い身体は酒場の店主と言うよりも
屈強な戦士、と言ったような容姿だ。
「初めまして。ボッシュです。ワルツ様、このお二人は、、、」
「ルーク君は貴族のご子息、そしてもう一人は・・・」
ボッシュがジロリとこちらを見る鋭い眼光だ。
鷹の目を思わせるその瞳にカケルは見覚えがあるような気がした。
「カケルです。」
「カケルちゃんは大賢者の叡知を引き継いだ、次代の賢者として選ばれた子よ」
その言葉にボッシュは驚き、後退りする。
「な、なんですって!!この少年が!?」
はは、と頬をかくカケル。
ボッシュのリアクションよりも、ワルツが突然暴露したことに驚いた。
「大丈夫よ、カケルちゃん。ボッシュはね・・・」
そうワルツが言った途端、ボッシュは片膝を付き膝まずいた。
「お初にお目にかかります。私は『大賢者の弟子』支団長のボッシュです。あなたが現れるのを我々は長い時間、お待ちしておりました。」
突然の事に驚くカケル。
ワルツはイタズラっ子のような笑みを浮かべている。
「大賢者の、弟子?」
「はい、我々は大賢者様の予言に従いやがて来る戦いのために準備をしております。『大賢者の弟子』とは志を同じくする者たちの総称です。」
「戦いっていうのは邪神の・・・?」
「おっしゃる通りです。世界各地に我々の仲間がおります」
「ボッシュ、彼らの事を頼めるかしら。その時が来るまで、鍛えてあげて欲しいの」
「無論、協力いたします。私の代で次代の賢者様とお会いできるとは思いませんでした。身に余る光栄です」
ボッシュはカケルに向かって深々とお辞儀する。
なんとも居心地の悪いものではあるが、カケルは強力な後ろ楯を手に入れたのであった。
・・・
・・
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「じゃ、二人ともまた会いましょう~」
翌朝、宿を出るとワルツはなんとも軽い挨拶をしてから塔に戻っていった。
残されたカケルとルークは、ワルツに言われた通りボッシュと合流するため、
再び大賢者のコカトリス亭に向かった。
大賢者のコカトリス亭は日中も営業をしているようで、
遅めの朝食を取る客がまばらに座っていた。
「おーい、こちらです」
二人の姿を見つけた使用人に声をかけられ店の奥へと進むと、
中庭と言える場所にボッシュの姿があった。
「来たか、カケル、ルーク。あらためて宜しく頼む」
ボッシュは昨夜のような恭しい態度がなくなっており、
歳上らしい威厳のある話し方に変わっていた。
「俺が君たちに丁寧な態度を使いすぎると目立つからな。ワルツ様から普通に接するように言われているのだ、気を悪くしないで欲しい」
ボッシュは小声で言い分けをする。
ワルツに言われてというのが子供の言い訳のようでカケルは吹き出しそうになる。
「いや、俺たちもその方が楽でいい、ボッシュさん改めてよろしく頼む」
カケルの言葉にボッシュはニカッと笑うと、満足そうに頷いた。
「ワルツ様に聞いたが、君たちは当分はこの街で暮らすのだろう?では生活基盤を整える必要があるな。
部屋はしばらくはウチの従業員用の部屋が余ってるから使っていいぞ。」
「いいんですか?」
ルークが明るい声で聞く。
たしかに衣食住のうち、居住場所が決まったと言うのは大きな前進だ。
「ああ、構わんぞ。うちには多くの従業員がいるからな住み込みの若い二人が増えたからってまるで目立たんだろう。さて、残る問題は生活費の稼ぎ方だが・・・二人ともそれなりに戦えるのだろう?」
ボッシュが悪い笑みを浮かべる。
「今から修練所に行こう。そこでぜひ君たちの力を見せてくれ」




