第17話「ギルドの風景」
「ロリリアの街に着いたら、僕は家に連絡を取る手段を探したい」
街道を歩きながらルークが言った。
「それがいいな、きっと心配していると思うぞ」
カケルがそう言うとルークは苦い顔をした。
「はは、心配か。それはないよ、今ごろは穀潰しを減らせた事に安堵していると思う。」
ルークが笑う。
だが、その笑顔に以前見たような絶望感は感じなかった。
塔の冒険を経て、ルークは成長したのだ。
「二人とも、見えてきたわよ」
ワルツに声を掛けられ前を向くと、
街道の先に小高い丘が見える。
そしてその丘の上には石造りの壁といくつかの民家が見えた。
「あれが賢者の塔にもっとも近い街、ロリリアよ」
カケルにとってはこの世界で初めての人間の住む街であった。
・・・
・・
・
「すごいな・・・」
カケルは踏み入れた街の活気に飲まれていた。
大通りには左右に商店がならび、たくさんの人が忙しなく歩いていた。
西洋風の顔立ちもいれば、褐色の肌の人、カケルと同じような東洋系の顔立ちの人も多い。
久しぶりに感じる人混みに目眩がする。
「だ、大丈夫か・・・カケル?」
「あぁ、これはすごいな」
「ロリリアはとても活気のある街よ、その理由は・・・」
「賢者の塔、だろ」
「あら?知ってたの」
「知っていた訳ではないが・・・」
カケルはちらりと左右の商店に目を向ける。
そこにはダンジョンで嫌と言うほど見た、
ファングボアの毛皮や、キラーマンティスの前足鎌などが
並べられていた。
それに加えて、剣や槍、杖など様々な武器がところ狭しと並んでいる。
「賢者の塔を目当てに集まる者、賢者の塔からの副産物を目当てに集まる者、そういうところには更に人が集まってくるもんだ」
「その通り、賢者の塔に限らずダンジョンや迷宮の近くにはそこから取れる様々な素材やアイテムを目当てにたくさんの人が集まるのよ。そういった街はダンジョン都市なんて呼ばれているわ」
「ダンジョン都市・・・か」
3人は雑踏の中を足早にギルドに向かう。
通りの中で一際大きな建物が見えてくると、
あれよ、とワルツが言う。
ギルドはまるで役所のように整然としており、
カケルが想像していた場末の酒場のような雰囲気はなかった。
「ここがギルドか・・・」
「そうね、すべての冒険者たちはここを拠点に探索をしてるわ」
キョロキョロと回りを見回すと、鎧姿の剣士や大きな斧を持った以下にも冒険者と言った姿の男たちが歩いていた。
「さて、僕は向こうの掲示板を見てくる、あとで合流しよう」
そう言ってルークはギルドの一角にある掲示板の方に歩いていった。
「さ、カケルちゃん。冒険者登録は正面のカウンターよ」
カケルとワルツはギルドの奥へ向かって進んだ。
「いらっしゃいませ」
そこにはいかにも公務員と言った感じの真面目そうな男が座っていた。
「冒険者登録をお願いするわ」
ワルツが言う。
「あ、はい。わかりました」
ワルツが無駄に放つ色気にすこし戸惑いながらも、
真面目そうな男はすぐに作業に取りかかった。
「お二人ともですか?」
「あら、ごめんなさい。登録するのは彼だけよ」
その言葉に真面目そうな男はチラリとカケルの顔を見る。
「あなたが・・・?後悔はなされないように。職業は何と登録されますか?」
「職業?」
「魔導師と登録して頂戴」
ワルツのその言葉にピクリと真面目な男の眉が動く。
「あの登録は無料ですが、嘘はダメです。スキル詐称はギルド原則に則り罰せられてしまいますよ」
「あら?嘘なんてついてないわよ」
真面目な男の眼光が強くなる。
「ご冗談を。その青年からは魔力の類いを感じる事ができません。探知魔法をかけても、属性魔法を使えるご様子がありませんし」
「使えるわよ、無属性魔法をね」
「無属性・・・?」
真面目そうな男が見下したような目でカケルを見る。
「まぁいいでしょう、お名前をいただけますか」
「カケル、ミドウカケルだ。」
「ありがとうございます、ではこちらに手を」
そう言って机の上にある小さな水晶のような置物を示す。
「こうか?」
「そのまま動かないでください」
そう言って真面目そうな男は何事かを呟くと、
水晶の置物はわずかに光だした。
「はい、ありがとうございます。これで今日からカケルさんは冒険者です。どうか大賢者様のご加護があなたにありますように」
大賢者というフレーズにカケルは一瞬、ギクリとする。
「ありがとう。さ、行くわよカケルちゃん」
ワルツに促され、カケルはその場をあとにした。
ルークは掲示板を見渡していた。
この掲示板には冒険の依頼や、パーティーの募集、その他にも色々な情報が貼ってある。
探し人などの掲示なども載せられており、ギルドを通じ行方不明者の捜索依頼なども
こちらに貼り出されるルールだ。
「ないか・・・」
ルークは先程から自分自身の捜索依頼が貼り出されていないかを確認していた。
賢者の塔で行方不明になった事は同行した護衛から聞いているだろうし、
捜索依頼を出すのであれば、賢者の塔から最も近いこのロリリアの街をおいて他にないだろう。
「父さん・・・僕は・・・」
項垂れるルークであったが、向こうからカケルとワルツが歩いてくるのが見えた。
頭を振って気持ちを切り替え、二人と合流するためその場を離れるのであった。
・・・
・・
・
「久しぶりのベッドだ・・・」
ギルドから程近い宿屋に部屋を取った3人は、
それぞれの部屋に別れた。
カケルは着の身着のままであった革鎧を脱ぐと、
そのままベッドに横になった。
柔らかい布の感触がカケルを包む。
「俺、ホントに塔から出たんだな・・・まったく実感わかないけど」
あれほど過酷であった塔でのことが、
まるで一瞬の出来事のように思えた。
暖かいベッドに包まれ、カケルはいつしか寝息を立てていた。
ここには急に襲ってくる魔物もいない。
カケルは数ヵ月ぶりに本当の意味での安息の眠りについたのであった。
どれくらい眠ったのだろう。
部屋の扉を叩くノックの音で覚めた。
「カケルちゃん、いいかしら」
ワルツの声だ。
「着替えを買ってきたから開けてくれる?着替えたら食事に行きましょう」
「あ、ああ」
寝惚け眼でベッドから起きるカケル。
「あら、寝てたのね。ふふ、はいこれ」
ワルツが茶色い包みを手渡す。
「サイズは大丈夫だと思うわ。センスは・・・カケルちゃんに気に入ってもらえるといいけど」
ふふ、と笑ってワルツは扉を閉めた。
すっかり日の暮れたロリリアの街を3人は連れ立って歩いていた。
「ここよ」
ワルツが指差した先には酒場が一件。
大賢者のコカトリス亭と書かれた店であった。
ここにも大賢者か、とカケルは思った。
扉を開け店内に入ると、そこは大衆酒場のような活気のある
雰囲気であった。
テーブルはすべて埋まり、冒険者と思われる人で溢れている。
その中でホールを右に左に忙しそうにしている男がこちらに気が付いた。
「ワルツ様!」
男は両手一杯に持ったジョッキをテーブルに置くと、
こちらに向かってきた。
ワルツの前に気を付けの姿勢で立つと
恭しく挨拶をす。
「お久しぶりです。ご連絡も無しにいらっしゃるとは、本日は・・・」
そこまで言って男はカケルとルークの存在に気が付く。
「ふふ、色々あってね。上は空いてるかしら?」
「予約客が入ってますが、ワルツ様をホールに座らせるわけにもきません。丁重にお話して帰っていただきますよ」
男はニカッとヤンチャな笑みを浮かべる。
「そう、ありがとう」
「少々お待ちください」
男はそのまま階段をかけあがっていった。
数分後、男の怒号が聞こえたかと思うと、
若そうな冒険者何人かが二階からすごすごと降りてきた。
「どうぞ」
男は満面の笑みで3人を2階に通す。
一連の騒ぎをいったい何事かと伺っていた冒険者たちからの視線が痛かった。




