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第16話 「塔の外」



賢者の塔の1階は冒険者で溢れていた。


三大迷宮の中でも街に近いこの迷宮は、

冒険者に人気が高かい。


おおよそ300階層から成るこの迷宮は、

実は100階以上へ到達したものが、

ほとんど居ない。


100階層には「赤犬」と呼ばれる塔の守護者がおり、

冒険者を品定めしているという。

その赤犬に認められなくてはそれ以上の階層に進むことは

出来ないとの噂だ。


ただしその100階層に至る道中にも

強力な魔物が徘徊しており、

100階に至る冒険者すら一握りではあるのだが。


熟練の冒険者たちはこの100階に至るまでの、

各階で魔物を倒しその素材を売ることで

生計を立てているものも多かった。


受付嬢のリリスは塔の一階に用意された、

ギルドの出張所に座っていた。

出張所と言っても、長机と複数の椅子が

用意されただけの簡易なものであるが。


「リリスちゃん、ちょっと良いかな」

若い冒険者が一人話しかけてきた。

リリスは彼の緊張した面持ちを見ただけで、

用件を察する事ができる。

少し離れたところでは彼のパーティメンバーが、

ニヤニヤとした表情でこちらを見ている。

ああ、めんどくさいとリリスは思うのだった。



「あら?バート、どうしたの?」

知らぬ顔をして質問をするリリス。


「あの良かったら今度・・・俺と食事でもどうかなって」

真っ赤な顔をして誘うバート。


「ありがとう・・・でも今は仕事が忙しくて。そうね、次の感謝祭のあとなら時間が作れるかもしれない」

その言葉にバートの顔がパッと顔が明るくなる。

「そ、そうか!ありがとう。そしたらその時期にまた誘うよ!」

そう言って、彼はパーティメンバーの方へ帰っていった。



その姿を笑顔で見送ると、

リリスは再び深いため息をついた。


「・・・めんどくさい」


笑顔を張り付けたまま、毒を吐くリリス。

ギルドの看板娘である彼女は、

冒険者の憧れの的で、こういった誘いが

山のようにあるのだ。


両親の影響で、

幼い頃からギルドに出入りしていたリリス。

彼女は冒険者の資質を正確に見抜く力に長けていた。

バートは有望な冒険者ではあったが、

ここ最近の成長はあまり芳しくない。

彼の所属するパーティが上層を目指すことはせずに、

30階前後の階層で日銭を稼ぐ方針であることが、

彼の成長を止めているのは明らかであった。

そしてバート自身も安定してきた日々の生活に

満足しているようで、積極的に鍛練している様子は

見られなかった。

そんな冒険者に魅力はない、とリリスは思っていた。


最近は自分をワクワクさせてくれるような冒険者がいない。

次に会うときにはどれだけ成長しているのだろう、

どんな魔物を倒してくるんだろう。

そう思わせてくれるような冒険者がいないのだ。


転送魔方陣が光るたびに、

いつ帰ってくるのか恋い焦がれるような冒険者が。


リリスは今日何度目かの深い溜め息をついた。




その時、件の転移魔方陣が光る。

誰かが帰還したのだ。


リリスがそちらの方を見ると、

黒髪と金髪の青年二人と、

赤髪の女性の3人組が魔方陣から出てきた。

目立つところのない、3人組の冒険者。

リリスはなぜかその黒髪の青年から目が離せなかった。



「帰ってきた・・・」

転移魔方陣から降り立ちルークが辺りを見回し、呟いた。

「今度は大丈夫、みたいね」

ワルツが安堵したように言う。


「ここが一階か・・・」

カケルはキョロキョロと周囲を見回す。

周囲には冒険者と思われる屈強な男達が闊歩している。

誰もカケルを気にかけている様子はなかった。

だが、カケルはそんな冒険者たちとは異なる視線を感じた。


「カケルちゃん、見られてるわよ」

「あぁ、気が付いた」


カケルはその視線の方へ歩いていった。


「あの、こんにちは」

カケルは受付台らしき場所に座る少女に声をかける。


「は、はい!」

少女はピンと背筋を伸ばし、上ずった声で答える。


「すまんが、あまり勝手が分かってなくてな。ずっとこちらを見ていたみたいだけどなにか変だったか?」

カケルが質問する。


「い、いえ冒険者の方は帰ってきたらすぐに帰還報告をされるので・・・それで見ていただけです。手続きはされますか?」


「帰還報告・・・そうか、そういう手続きがあるんだな。どうすれば良いんだ?」


「えと、あなた方の、ギルドカードを見せていただければ・・・」

「ギルドカード?」

カケルは尋ねる。


「あの、もしかして冒険者登録とかされてないんですか?あまりここでお見かけしたことがないので」


カケルは困ったようにワルツの方をみる。


「お嬢ちゃん、その通り。私たち北の大陸から流れてきて塔の中に入ったのよ。だから冒険者登録を済ませてないの」


「そうだったんですね!」

少女が理解したようにうなずく。


「近くにロリリアという街があります、そちらのギルドに寄っていただければ冒険者登録も出来ますので、立ち寄られてはいかがでしょうか。また塔に入られるんですよね?」


少女の質問に、カケルはドキリとする。


「あ、あぁ」

「それでしたら、ぜひギルドへ。私も夕方には街に帰りますので後程改めてご挨拶させてください。」

少女の勧誘に押し切られるように、三人はなんとなくロリリアの街に向かうことを決めた。

一行が塔から外に出ようと足を向けたとき、

少女が慌てて駆け寄ってくる。


「あの、お名前を聞いていいですか?」

少女はカケルに問いかける。


「名前は、カケル。君は?」

「カケルさん・・・ありがとうございます。私はリリスです。それでは後程!」

少女はそれだけ言うと慌てて机の方に戻っていった。


「あらあら」

その様子をワルツは面白そうに見ていた。



・・・

・・


塔の外に出て、大地を踏みしめる。

「ホントに外だ・・・」

ルークが嬉しそうに呟く。

カケルは振り返り、今自分達が出てきたばかりの塔を見上げた。


石造りの複雑な造形が施された外壁が、

空へと伸びている。

頂上は霞み肉眼で見ることができない。

この半年、自分が過ごしたこの塔としばしのお別れだ。


「カケルちゃん?」

そんな様子を心配して、ワルツが話しかけてくる。

「大丈夫だよ、ワルツ。さぁ、とりあえず街に向かってみようか」

カケルに促され一行は街道を南へと下るのであった。



リリスはギルドの出張所の机に座りながら、

先程の不思議なパーティ、特に黒髪の青年のことを思い出していた。

北の大地から来たと赤髪の女性は言ったが、

特有の訛りもなくすぐに嘘だと言うことが分かった。



あの青年、とても不思議な感じがした。


一見して全く強そうには見えないし、

装備を見ても、とても一流の冒険者は思えない。


だが、気になる。

とても気になるのだ。

たくさんの冒険者を見てきたリリスだが、

あんな雰囲気の冒険者は初めて出会った。


「カケル、さん・・・」


そう名前を呟き、リリスは心臓がとくんと鳴るのを感じ、

慌てて嫌だ嫌だと首を振る。

ギルドの看板娘である自分が、

あんな弱そうな冒険者に惹かれる訳がない。

ただ、珍しいものを見たから気になっているだけだ。


そう自分に言い聞かせながら、リリスはいつも早く

事務作業を片付けていた。

タイミングがあえば、ロリリアのギルドで再開できるかも知れない。

そんな期待を自分が抱いていることにまた焦りを感じるリリスであった。







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