第14話 「殺意の波動」
邪神の眷族は唸り声をあげて、
カケルを見ていた。
真っ赤な瞳、そして全身から溢れる赤い魔力。
「お前が・・・テトラを・・・」
カケルの感情を察知してか、
邪神の眷族は三つの頭を振り回し、
牙を剥き出してカケルに襲いかかろうとしている。
だが、カケルは恐怖を感じる素振りも見せずに
ただ邪神の眷族の足元に立っていた。
カケルの心は憎しみに満ちていた。
目の前の相手がどのような存在であれ、
絶対に殺してやりたいという殺意に満ちていた。
その感情が、突如カケルに理解させる。
これまでどうあっても使えなかった自分の力の使い方を。
300年の時を経て自らに引き継がれた、
絶対的な破壊の力の引き出し方を。
「グギャアアアアアア!!!」
邪神の眷族が再び雄叫びをあげる。
「ブッッッ殺してヤルッ!!!!!!!」
カケルは叫ぶと同時に全身に魔力をまとう。
溢れだす、赤黒い魔力。
カケルの手足、そして胴体に。
身体中に魔力が展開される。
濃密な殺意の波動が、五感を支配する。
そして、同時に魔法を詠唱した。
----------氷剣魔法<アイスブレード>
カケルの前方に巨大な氷の剣が生まれ、
邪神の眷族に放たれる。
その剣はテトラの生み出す氷剣よりも大きく、
放たれるスピードもけた違いであった。
そしてテトラの魔法と大きく異なる点は、
カケルが生み出すその氷剣は血のように
真っ赤な色をしていた。
「ウワァァァァ!!!!!!」
カケルは次から次へと赤い氷剣を生み出し、
邪神の眷族に放っていく。
魔力は途切れることなく沸き出し、
カケルの思考が加速していく。
邪心の眷族は氷剣を避けるため、
両翼を大きく広げると空中へと飛び上がった。
「逃がすかよッ!!」
カケルは両手に魔力を集中し、
空中を飛び回る邪神の眷族に狙いをつけた。
-----------高熱魔法<ギガフレイム>
こちらもワルツが使ったのと同じ、
炎の属性魔法。
カケルが詠唱すると、
目の前に六つの魔方陣が展開した。
そしてそこから、
先程ワルツが放ったより太く、
超高熱のレーザーが六本放たれる。
その巨体からは想像も出来ないほどのスピードで、
中空を飛び回る邪神の眷族。
「グギャアアアアアア!!」
だが、放たれたレーザーの一本が邪神の眷族の
片翼を焼き貫いた。
「まだだあぁァァァ!!!!」
---------招雷魔法<ライトニングボルト>
カケルの魔力が赤い雷へと変化し、数多の雷が
邪神の眷族に襲いかかる。
邪神の眷族は、ついに飛行継続が難しくなり、
地面へと墜落した。
邪神の眷族は叩き付けられた衝撃に身を悶えながら、
カケルを向いて牙を剥く。
その瞬間、カケルは邪神の眷族の足元に転移<テレポート>すると、三頭の一つを蹴り潰した。
「グギャアアアアアア!!」
頭部を一つを失い、たたらを踏んで苦しむ邪神の眷族。
そして、さらに追撃を放つカケル。
----------地殻魔法<アーススネイクバイト>
周囲の地面が隆起し、蛇のように鎌首をもたげると、
邪神の眷族を目掛け放たれた。
地響きとともに、地盤に飲み込まれた邪神の眷族は、
土煙に包まれる。
歴然とした力の差であった。
カケルは赤黒い魔力をまとったまま、
遠吠えのように咆哮した。
憎しみと、悲しみに満ちたその声が
洞窟内に響く。
「あれはどういうこと・・・」
ワルツはテトラに回復魔法をかけながら、
カケルの戦闘を見守っていた。
カケルはこれまで属性魔法を使えなかった。
本人が幾度も挑戦し、失敗している姿を
ワルツも見ていた。
それが今は超高難度の属性魔法・無属性魔法を使いこなし、
邪神の眷族を追い詰めている。
ワルツは気が付いていた。
先程からカケルが放っている魔法はすべて、
自らの主人である大賢者が、
かつて戦闘に用いていた殲滅魔法であることに。
「カケルちゃん・・・」
ワルツはそっと今のカケルに探知魔法を向ける。
そして異常なほどに変化したカケルのステータスを感じ取った。
カケル
LV35
HP 5920
MP 49597
大賢者の叡知Lv76
ー無属性魔法Lv95
ー火属性魔法Lv83
ー水属性魔法Lv86
ー風属性魔法Lv78
ー土属性魔法Lv82
「カケル・・・君は・・・」
テトラもまた、消え行く意識のなか戦闘を見ていた。
そして同時に、このカケルの変化がいくつか疑問に
対する答えであることに気が付いていた。
一つ、テトラ自身の能力の強化について。
テトラの魔力が高まり、戦闘力が強化されていたのは、
カケルの側にいたためであった。
使い魔は主人の魔力を得て、どこまでも強くなる。
塔の中で四六時中行動を共にしていたカケルから、
大賢者の叡知を通じて溢れだす魔力を、
無意識の内に魔力を受け取っていたのだ。
二つ、デュラハンとの戦いの結末。
デュラハンを倒し、
塔の内部を破壊したのは、
意識を失ったカケルであったのだろう。
大賢者の叡知は危機を察知し、
カケルの能力を解放。
主の危機を救ったのであった。
だが圧倒的な力は次第に、
カケルのことを飲み込み始めていた。
「カケル・・・ダメだ・・・その力は・・」
テトラは消え行く意識の中で呟く。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺してやる・・・・」
カケルの心は憎しみに満ちていた。
テトラを傷つけた目の前の邪悪な存在を
ただただ苦しめて、殺してやりたいとだけ考えていた。
感情は爆発的に高まっていき、もはや押さえようのないほど
カケルの心を支配していた。
同時にカケルは心地よさを覚える。
憎しみに身を委ねること、
それにより産み出される自らの圧倒的な力に。
脳内物質のすべてがカケルの心を踊らせていた。
----------次元圧縮魔法<ディメンション・コア>
カケルが手をかざすと、
邪神の眷族に赤黒い魔力がまとわりつく。
「グガガガ・・・」
「死ネ」
かざした手を握りしめると、
赤黒い魔力が内に押し潰す力となり、
邪神の眷族を圧縮していく。
「グギャアアアアアア!!!」
今はボロボロになった邪神の眷族から
ついに苦痛の叫び声が漏れる。
「は、はははハハハはははーーーー」
カケルはその姿が、楽しくて仕方がない。
憎しみの対象が苦しむ姿が、
カケルの心を満たす。
とてつもない快感が脳内に満ちるのを感じた。
カケルの魔力は更に高まり、、
纏う赤黒い魔力はさらに深く濁った色に
変化していった。
やがて大きな音を立て、
邪神の眷族は次元魔法により
その身体を握りつぶされる。
――――――――――ドクン
その時、先程の気味の悪い鼓動が再び
洞窟内を揺らした。
・・・
・・
・
「カケル・・・カケル・・・」
薄れゆく意識のなか、誰かの呼び声が聞こえる。
ただ声が聴こえるだけで姿は見えない。
「ロロ?」
「ダメだ。それ以上は戻れなくなってしまう。」
「でも、あいつは・・・殺さないと」
「憎しみに支配されてはダメ。あいつはそれを狙っているんだ」
「気持ちいいんだ。もう少しだけ・・・」
「カケル、頑張って。君なら勝てる。だから君は選ばれたんだ」
「選ばれ・・・?」
「僕が一度だけ力を貸すよ・・・、だから・・・」
「ロ、ロ・・・」
・・・
・・
・
「カケル!!目を醒ませ!!」
ルークが叫ぶ。
カケルは今や赤から黒に変色した魔力に
取り込まれ、意識を失っていた。
「カケル!!!」
このままではカケルが危ない、
ルークはそう思い叫び続けていた。
だが、カケルの魔力は暴走し、
さらに禍々しさを増してく一方であった。
「ワルツさん!!!どうなってるんだ!」
「カケルちゃん・・・」
ワルツが呆然と言った感じで、カケルを見ていた。
カケルの魔力が膨れ続け、
ついにはカケルの身体自体が黒く変色し始める。
その時、カケルの身体が
一瞬にして青白く強い光に輝く。
「うわっ!」
その眩しさに思わず目が眩む、ルーク。
「ウ、ウワァァァァ!!!!!!!」
その光をきっかけにカケルが目を醒ます。
身体中を侵食していた黒い魔力が
霧散していく。
「カケル!」
「ルーク、どうなってんだ・・・俺は・・・何を」
「良かった、気が付いたんだな。安心してる場合じゃないんだ、あれを見ろ!」
ルークが指差した方を見るカケル。
そこには、邪神の眷族が赤黒い魔力を撒き散らしながら
風船のように膨らんでいる姿があった。
バチバチとエネルギーを放出し、今にも破裂寸前といった様子だ。
「あ、あれは・・・」
「自己破壊魔法<メギド>よ。あいつらの奥の手・・・まさかこんなところで」
ワルツが言う。
「どんな魔法なんだ?」
「自らの命と引き換えに、周囲のすべてを巻き込み自爆する魔法よ。ここにいたら、間違いなく・・・」
「どうするんだ・・・」
「逃げ場もない、爆発も防げない・・・万事休すね」
「そんな・・・」
邪神の眷族はさらに膨張し、
吹き上がるエネルギーも倍加してる。
もはや原型はとどめていないが、
カケルには邪神の眷族がこちらを見て
笑っているような気がした。
その時であった。
「・・・カ、ケル」
よく知った声が自分を呼ぶ。
「テトラ!」
横たわるテトラに駆け寄るカケル。
「大丈夫、なのか?」
チラとワルツの顔を見るが、
ワルツはカケルと目が合うと首を横に振った。
「カケル・・・良かった、戻ってこれたんだ、ね。君はまだ大賢者の叡知を使いこなすことは出来ない」
カケルは頷く。
「だけど、さっきの戦いで・・・君は大賢者様の力に、一時的にでも接続することが出来るようになった・・・」
「大賢者の・・・力に・・・」
「そう、それを・・・今度は意識的にやるんだ。感情に・・・支配されてではなく、自分の力、で・・・」
「そんな、こと」
おぼろげに、自らが戦ったことを思い出す。
だがそれは、まるでビデオ再生のように他人事で
自分以外の誰かが自分の身体を操作していたようにしか思えなかった。
カケルの中に満ちた憎しみの感情。
身を委ねた事が恐ろしくなるほど、
深く悲しい気持ちであったことに今さら気が付く。
「やらないと、みんな死ぬ・・・、そして君が死ぬと・・・言うことは・・・」
「テトラちゃん!」
ワルツがテトラの言葉を遮るように叫ぶ。
「いい・・だ、ワルツ・・・仕方がない」
「なんの・・・話だ?」
「カケル、君が死ぬと言うことはこの、世界が滅ぶと言うのと・・・同じことなんだ」
テトラが言う。
「どう、いうことなんだ?」
「時間がない・・・とにかく脱出を・・・僕、が君を助けるから」
テトラはそういうと、苦しそうに立ち上がった。
「テトラ・・・」
四肢を焼かれ、血を吐きながらテトラは自分を助けようとしている。
「カケル・・・負けないで・・・君なら・・・できる」
その一言をきっかけに、
カケルはもう一度大賢者の叡知への「接続」を開始した。
「ウォオオオオオオオオオ!!!!!」
カケルの身体から、青白い魔力があふれでる。
それと同時に、カケルの脳内にあらゆる情報が流れ込んでくる。
かつて賢者の塔の最上階で水晶に触れたときと同じだ。
いくつもの景色、
たくさんの人物、
聞いたことこともない言葉、
読んだこともない本の内容。
それら全てがカケルの中に溢れ変える。
情報の波に、カケルは意識を手放しそうになる。
「カケル、意識を保って・・・これはすべて大賢者様の記憶だ」
「記憶・・・」
「大丈夫、僕が・・・導いてあげる。」
次々と脳裏に浮かんでは消えていく情報の処理に、
カケルはすでに視界を失っていた。
すでに周囲の音も聞こえない。
ただ、テトラの声だけが、カケルの頭の中に響いていた。
「カケル、これだ・・・」
テトラの声に導かれ、ある一つの情報が頭の中に溢れ変える。
「転移・・・魔法・・・」
「大丈夫、今度はうまくいく。僕を信じて・・・」
テトラの言葉に、カケルは自らの魔力のすべてをその魔法に注ぎ込んだ。
「ウォオオオオオオオオオ!!!!!」
どこか遠くで、邪神の眷族の悔しそうな叫び声が聞こえたような気がした。
ざまあみろ、とカケルが思うと同時に
全身が引き伸ばされ引っ張られるような、
転移の感覚を感じた。
・・・
・・
・
「・・・カケル!おい、カケル!」
ルークの声で意識を取り戻す。
「ここは・・・」
身体を起こし、周囲を見回すと
そこは洞窟ではなく、よく見知った迷宮内の部屋だった。
「カケル、テトラが・・・」
ルーク声にハッとするカケル。
テトラの方を見ると、再びぐったりと倒れこんでいた。
傍らにはワルツが付いている。
「ワルツ、テトラは・・・」
「この子、あんな状態で魔力を使って・・・信じられないわ・・・」
ワルツの顔には諦めの感情が浮かんでいた。
「おい、テトラ、目を開けろ・・・大丈夫か?」
テトラの側に座り込むカケル。
その言葉に、テトラの耳がぴくんと動く。
「カ、ケル・・・?無事に・・・脱出できたみたいだね・・・」
「あぁ、やってやったよ。お前のお陰だ・・・」
「ふ、ふふ、そうだね。君は・・・僕がいな・・いと・・・ゲホッゲホッ」
咳き込むテトラ。
「もう、もう話すなテトラ・・・」
「ふふ、も、・・かして泣いてくれて・・のかい。」
「テトラ・・・」
テトラに言われて、カケルは自分の両目から大粒の涙が流れていることに
気が付く。傷付いた頬を熱い涙が伝う。
「さっき言・・とおり、君には使命・が・・る・・・、でも君なら、大丈・・・だから」
テトラの身体が青白い光に包まれる。
この塔の中で、今まで何度も見てきた光景だ。
「ダメだ、テトラ・・いくな・・・」
「楽しかった・・ね・・・カケル・・・本当に・・」
テトラの目からも一筋の涙が溢れる。
「テトラ・・・」
やがてテトラの身体はその実体を無くし、
魔力となって辺りに霧散した。
テトラが使う魔法のように青白い魔力が、
生まれ、そして消えていった。
カケルはその場に座り込み、
止まらぬ涙をいつまでも拭っていた。
猫の鳴き声は聞こえなかった。




