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第13話 「邪神の眷属」


転移魔方陣の部屋は、普通の迷宮階層に隠されていた。

その上、ワルツの魔力を関知して秘密の扉が開く仕組みになっており

ワルツがいなければ確実に見過ごしていただろう。


「さ、こっちよ~」

ワルツが先導する小部屋の先には、巨大な魔方陣があった。

いくつもの記号と、文字と思われるものが複雑に書かれている。


「すごいな、これほど大規模な魔方陣は見たことがない」

ルークが感嘆の声をあげる。


「ふふ、大賢者様の特注よ。ここに集まって頂戴」

ワルツが魔方陣の中心を示す。

「転移の先は賢者の塔の一階よ。起動したらすぐに一階だから心配しないで」

ワルツがいそいそと準備を進める。


「カケル、いよいよだね」

テトラが話しかけてくる。

「あぁ、まずはどこでも良いから街に行きたいところだな」


次第に魔方陣が青く輝き始める。


「さて、準備は良いかしら。」


ワルツがさらに強く魔力を込める。

ルークは隣でぎゅっと目をつぶっていた。


魔方陣の光が強くなる。

探知魔法を使わなくても強く魔力の流れを感じる。

次第に魔力の流れは渦を巻き、カケルたちの身体に

も魔力が触れていく。

その時、魔力は青白い光から赤い色と変化し、

やがて視界すべてが真っ赤に染まった。

こんな魔力は塔の中では感じたことがなかった。

強すぎる。


「え、なにこれ」

ワルツが隣で狼狽しているのが見えた。

「ワルツ、これは・・・この魔力はなんだ!?」

テトラが叫ぶ。





「・・・マズい、みんな転移から出」


テトラの声がそこまで聞こえたところで途切れた。


やがてカケルの視界が赤一色になり、

周囲の景色の輪郭も見えなくなる。


身体が引っ張られるような気持ち悪い

感覚を感じて、カケルの意識は途絶えた。




・・・

・・



「カケル!大丈夫かいカケル!」

カケルはテトラの声で目をさます。

気絶していたようだ。

周囲を見ると、ルークも、ワルツもいる。


「ここは・・・」

カケルが身を起こすと、

そこは洞窟のような空間であった。

塔の内部のような石造りではなく、

地面がむき出しになっている。

そしてとても寒かった。


「分からないわ。こんなところ初めて来た・・・」

ワルツが言う。


「どういうことだ、ワルツ」

テトラが言う。


「分からないって言ってるじゃない!私はいつも通りに転移魔方陣を解放したのよ。なのに途中からよく分からない魔力に邪魔されて、あの様よ」


「よく分からない魔力・・・」

テトラが呟く。

あの赤い魔力だろうか、とカケルは思う。

確かにあの魔力は塔のなかで感じるような魔力とは違うものだった。


「ひとつ言えるのは・・・」

ワルツが顔をこわばらせる。


「間違いなくヤバイ状況ってことね。」


洞窟内に沈黙が響く。

カケルの心臓の音は周囲に反響してしまうのではないか

と本人が心配するほど鼓動を早めていた。



「どちらにせよ、進むしかない」


テトラが言う。

今カケルたちがいる少し開けた場所から、

一本だけ通路が口を開けている。


「いこう」

カケルが言い、一行は歩み始めた。





・・・

・・



洞窟の通路を進んでも、魔物はゴブリン一匹出てこなかった。

変わりに先に進めば進むほど先ほど赤い魔力が強まっていった。



いつも通り先頭はテトラ、次にカケル、ルーク、

最後尾をワルツが歩いていたが、

もはや一行に会話はなく、いつもであればうるさいくらいの

ワルツも最大限の警戒をして顔を強ばらせていた。


どれくらい歩いたのか、

不意に視界が開けて巨大な空間にたどり着く。


洞窟内に巨大な広間とも言える空間。

そこには巨大な柱が一本、天井から地面に向け伸びていた。

魔力はその地面の下から漏れだしている様子だった。


「カケル・・・あれなんだ・・」

ルークが質問するがもちろんカケルにも分からなかった。






その時、全員の左方に魔力を感じた。

「誰だっ!!」

テトラ、ワルツが臨戦体制に入る。

遅れてカケルも全身に強化魔法を纏い、

ルークも剣を抜いた。



そこにいたのは、紫色の物体であった。


四肢を持ち、尻尾と頭がこちらを向いている。

だがまるで命を感じない。

よく見るとウネウネと小さないも虫のような

ものが蠢いており、それが獣の形を作っているようだった。



「こいつは・・・」

ワルツが声を漏らす。


「グギャアアアアアア!!!!」

気味の悪い叫び声をあげ、

紫色の「それ」が突然魔力を解き放った。


「避けて!」

テトラの声をきっかけに、四散する一行。

四人のいた地面が赤く光った後に爆散した。


「大丈夫!?カケル」

爆発の煙塵の向こうから、テトラが叫ぶ。


「俺は大丈夫だ!」


そう答えるカケル。

だが、傍らを見るとルークが右足に血を流していた。

レベルで劣る彼だけが、爆発を避けきれなかったのだ。



「ぼ、僕は大丈夫だ・・・カケル。あいつは一体なんなんだ。ヤバ過ぎる」

ルークの言葉にカケルも同意見だった。



「<ファイヤーアロー>」


顔を上げるとワルツが魔法を放っていた。

ワルツの連続魔法。

離れていても感じるほど、強力な火力だ。


「ルーク!大丈夫かい」

テトラがカケルとルークの元に飛んで来る。

ルークの傷を見ると、すぐさま回復魔法をかけた。


「テトラ、あれはなんなんだ」

魔法をかけているテトラに、カケルが尋ねる。


「あれは・・・たぶんだけど邪神の眷族だ・・・あんな禍々しい魔力、それ以外考えられない」


「邪神の・・・」

ルークが語った、大賢者を含む三英雄が倒したと言う邪神。

その邪神が生み出した眷族が、現れたとテトラは言う。


「テトラ!早くなさい!!」

魔法を放ち続けているワルツが叫ぶ。

全快とはいかないが、ルークの足の傷も立ち上がれるほどには回復した。


「カケル、君とルークは隠れていてくれ。あれは君たちが戦えるような相手じゃない」

「おい、待てテトラ!」


カケルがそう叫ぶよりも早く、テトラはワルツの方に走っていった。

ワルツの魔法の爆煙で、邪神の眷属の姿は見えない。

とてつもない弾幕だ。


「遅いじゃないの!」

辿りついたテトラにワルツが言う。

「・・・君こそ早くもとの姿に戻りなよ。あれは化けたまま戦えるような相手じゃないよ」



テトラがそう言うと、一瞬ムッとした表情を浮かべるワルツ。

フンと鼻を鳴らし魔力を纏うと、ワルツの身体が炎に包まれた。


「この姿も久しぶりだわ」

炎の中から現れたのは、赤い毛並みの犬であった。


「ワルツ、君は本当になにも知らないのかい?なんであれが、こんなところに」

「知らないわよ。あんなもの二度と見たくないと思っていたのに・・・」

ワルツは悔しそうに犬歯をむき出しにする。


「同意見だ・・・もしあれが本当に邪神の眷族なら、僕たちだけでは歯が立たない」

「・・・偽い物であることを祈りましょう。」



「グギャアアアアアア!!!!」

煙塵の中から鳴き声が響いた。

洞窟中に響くような気味の悪い方向だ。


テトラとワルツに向かって、黒い何かが叩きつけられる。

よく見るとそれは邪神の眷族の腕だ。


その攻撃を避けながら、

テトラは氷を、ワルツは炎をそれぞれ放つ。

魔法は邪神の眷族に当たるが、

ダメージを受けているようには見えなかった。



「ダメね」

「ワルツ、僕が時間を稼ぐ。魔力を溜めて火力を稼いでくれ」

「あなたひとりで、止められるような相手じゃないわ」

「大丈夫、今の僕ならいけるような気がするんだ」


そう言うとテトラは邪神の眷族の前に、立ちふさがった。


「300年振りだね。大賢者様に消し炭にされたくせに、戻ってきたのかい」

言葉が通じたかは分からないが、

邪神の眷族は「グルルル」と唸っている。


「好きにはさせないよ、もうお前たちに泣かされるのはコリゴリなんだ」

その言葉と同時に、テトラは氷剣を生み出し、放つ。

邪神の眷族は一本目の氷剣を避けるが、

周囲にはすでに無数の剣が浮かんでいる。



「氷剣乱舞<アイス・ブレード・ダンス>」


かつてデュラハンに放った魔法を発動する。

あの時にはカケルの助けも借り、

長時間の詠唱を経て放った魔法だが、

今のテトラは溜めなどは不要で魔法を放つことができた。

テトラの魔力はそこまで高まっていたのだ。

テトラが一鳴きするごとに、

氷剣が邪神の眷族に突き刺さる。

剣を身動ぎ一つで振りほどく邪神の眷族だが、

無数に迫る氷剣を前に、少しずつダメージを受けている様子だった。


「ハァァァァ!!」

テトラは魔力を最大限に解放し、

次から次へと氷剣を生み出し、放つ。



邪神の眷族は回避を諦め、

テトラにその右腕を振り下ろした。


テトラはその一撃を避けると、

邪神の眷族の頭部めがけて束ねた剣を放つ。

剣のひとつが、眼と思われる位置に刺さると

邪神の眷族は初めて苦しそうな声をあげた。


「どきなさい、テトラ!」

ワルツの声が響く。

テトラは一足で邪神の眷族から離れた。


「くらいなさい!!!高熱魔導砲<ギガフレイム>」


魔法の詠唱とともに、ワルツが吠えると

その口先からレーザーのような魔力が解き放たれる。

とてつもない熱量をもったその一撃は、

テトラの産み出した氷剣を溶かし、

邪神の眷族に突き刺さる。


「グギャアアアアアア!!!!!!!」

邪神の眷族の苦痛の叫びが響く。


効いている、そう思いテトラとワルツが共に

共に安堵したその瞬間だった。



ーーーーーードクン。


何か気持ちの悪い振動のようなものが、洞窟内に響いた。



「グギャアアアアアア!!!!!!!」

邪神の眷族が再び雄叫びをあげる。


「テトラ!」

ワルツが叫ぶ。


邪神の眷族の全身から真っ赤な魔力が漏れだした。

それに伴い、邪神の眷族の形状が変化していく。

背中と思われる場所が一瞬蠢いたかと思うと、

そこから一対の翼が生える。


そして一つだった頭部はグチャグチャと音を立て分裂し、

三つに増えていた。

先程より禍々しい姿、全身から発する魔力も桁違いに膨れ上がっている。



「変化・・・したというの・・・」

ワルツが呟く。



「不味い!ワルツ!」

テトラがそう叫ぶと同時に、

邪神の眷族の身体が赤く染まる。


まだ間に合う、テトラはそう思った。

いち早く魔力の高まりを感じていたテトラは、

先んじて防御魔法を展開し始めていたからだ。



だがその時、テトラは自らの後方で身を隠す

カケルとルークの存在を思い出した。



「グギャアアアアアア!!!!!!!」


憎しみを込めた咆哮をあげ、

邪神の眷族はその全身から魔力を一気に解き放った。


視界のすべてが赤く染まる。

遅れて生まれた轟音と高熱が洞窟内を包んだ。










「ぐ・・・あ」

カケルは全身の痛みで意識を取り戻す。

邪神の眷族が魔力を解き放ち、

発生した爆風に吹き飛ばされたのだ。

隣を見ると、同じくルークが吹き飛ばされていた。

呼吸は荒いが生きてはいるようだ。


とてつもない魔力を感じた。

かつてデュラハンと戦うテトラから感じた魔力よりも

遥かに強力な魔力だった。

ではなぜ、自分は生きているのだろうか。


痛みを感じながら顔を上げると、

目の前には何重にも展開された氷壁が

残されていた。

テトラの魔法障壁。

これがカケルとルークを守ってくれたのだ。


そしてカケルは氷壁のさらに先に目を向ける。



「あ・・・え・・・?」



そこにはぐったりと倒れる、

テトラの姿があった。


「テトラ・・・・?・・・・テトラ!!!」

カケルはそう叫ぶと、

テトラの元に駆け寄る。

右足が痛み、スピードは出ない。


「テトラ!大丈夫か、テトラ!」

声をかける、カケル。



「・・・カ、ケル。」

テトラがゆっくりと目を開く。



「お前・・・俺たちを庇って・・・」



テトラの小さな身体は焼け焦げて、

四肢の先は炭化してしまっているところもあった。

邪神の眷族の魔法を近距離でまともに受けたのだ。


「僕も甘い・・ね・・・咄嗟に君を守ろうとして魔法の展開が遅れてしまった・・・ゴホッ!!ゴホッ!」

テトラは咳き込むと、口から大量の血を吐いた。


「カ、ケル、、あいつは・・ここで倒さなくてならない・・・あいつが世に出れば、世界はまた・・・」

テトラの瞳から涙がこぼれる。


「もう二度と、あんな思いは・・・カケルお願いだ。お願い。あいつを・・・」

「もういい!喋るな!」


「カケルちゃん!!」

その時、ワルツがカケルとテトラの元に駆け付ける。


「ひどい・・・」

テトラの状態をみて、そう呟くワルツ。


「・・・ワルツ、回復を頼むわ」

カケルはふらりと立ち上がる。


「か、回復って言ってもこの傷じゃ・・・」


「うん、それでも頼むよ。せめてあと少しだけ・・・」

そう言ってカケルは、歩き始めた。


「あ、あなた一体何を・・・」

ワルツが叫ぶ。


「俺は・・・あいつを、倒さなきゃいけないんだ。テトラの頼みだから」

そういってカケルは、邪神の眷族の前に立った。



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