第11話 「少女の過去」
僕は小さな頃から特別だった。
初めてそれに気が付いたのは、
近所の友達と秘密基地で、
互いに自分の一番の秘密を
内緒話している時であった。
おねしょをしてしまった話や、
自分の宝物の隠し場所、
それから誰それのことが好きみたいな話。
少しだけ背伸びをしているような感覚が楽しくて、
少年少女たちはワクワクしながら
色々な話をしている。
絶対に内緒だよ、
とお互いの秘密を守ることを誓いながら。
やがて僕の番になる。
おねしょの話や、好きな人も居なかった僕は
彼らに自分の友達を紹介することにした。
友達って?
誰かが質問する。
僕はいつものように彼を呼び出す言葉をつぶやく。
青白い光と共に、現れる猫。
僕の友達、テトラだ。
その晩、家に人が訪ねてきた。
黒いコートを来た人たちは、
なぜかテトラの事を知っていて、
いつから呼び出せるのか、
どうやって呼び出しているのかを
何度も何度も聞いてきた。
僕は怖くなって黙ってしまったが、
彼らは諦めようとせずに
次の日も、また次の日も僕に質問を繰り返した。
父も母も助けてくれる素振りは見せず、
むしろ何か恐ろしいものでも見るような
目でこちらを見ていた。
何度聞いても答えようとしない
僕に業を煮やしたのか、
黒いコートを着た男の一人が
声を荒らげ始めた。
魔女だの厄災だのと何かを叫んでいたが、
ただただ怖くてよく覚えていない。
僕は耳を塞いで、ただ助けてと願った。
その時、
いつもは僕が呼び出さないと現れないテトラが
自分から現れた。
彼は怒っていた。僕を泣かした大人たちを。
彼の発する青い光から、怒りや悲しみを感じた。
そこからの事はあまり覚えていない。
私は次の日、氷漬けになった家の中で保護された。
私以外は父も母も、それから黒コートの男たちも
姿を消してしまったそうだ。
僕は王都から来たという優しそうな紳士に保護され、
彼の家に住むことになった。
街を出る馬車の窓から、
あの日秘密基地で内緒話をした友人たちの姿が見えた。
彼らはこちら恐れるような表情で見ていた。
父と母と同じように。
あぁそうか。
彼らは僕の内緒の話を、バラしてしまったのだ。
内緒って約束したのに。
王都についたら、彼らのおねしょの話や、
宝物の隠し場所、それから好きな人の名前を広めてやろう。
僕はそう思い、それから老紳士の肩で眠ることにした。
僕の膝の上で、テトラがニャーと鳴いた。
・・・
・・
・
またこの夢か。
僕はベッドから身体を起こす。
何度この夢を見ただろう。始まりの日の夢を。
あの日から僕は、魔導師として生きることになったのだ。
この夢を見た日は決まって魔力が乱れる、
よりによってこんな日に、と少女は舌打ちをした。
頭痛を我慢しながら、少女は身支度を始めた。
今日は大事な日だ。
あの魔法を完成させる最後の一歩。
1年も掛け組み上げたのだ。
失敗は許されない。
そして成功してももはや後戻りはできない。
1年前のあの日に、自分の運命は決まったのだ。
永遠を生きる、運命は。
少女はローブを着こみ、またいつもの書庫へと移動する。
大賢者は今日も一人研究に没頭する。




