勇者
勇者「王様チィーッス。勇者ですよーっと」
王様「だ、誰だ!?」
勇者「いやだから勇者だって。ほれ、勇者の印」ぺかー
王様「それは確かに勇者のみが持つ……ああ、すまぬ。あまりにも、その……最後に顔を見た時より、容姿が変わっていてな」
勇者「あー、痩せたしね。ヒゲとかも生えてるし。何より格好がこ汚いよな。鎧とかドロドロだし臭いし」
王様「い、いや。決してそのような……」
勇者「おー、そういや、あん時はどーもー」
王様「……うむ。すまぬな、あの時は」
勇者「無理しなくてもいいって。っと、ごめんちょっと吸わせてもらっていい?」
王様「む? あ、ああ、葉巻か? 本来ならば許さぬところだが、魔王を倒した祝いだ。許そう。せっかくだ、兵に良い物を用意させよう」
勇者「いいよいいよ。自分のあるし」
王様「そ、そうか。ところで……他の者たちは?」
勇者「んー、戦士と魔法使いと僧侶の事?」
王様「うむ。一緒ではないのか? もしや既にあちらに?」
勇者「死んだよ。俺以外は全員」プハー
王様「……は?」
勇者「…………」スー……プハー
王様「そうか……何と言えばいいか。誠に……」
勇者「あー、そういうのいいっていいって」
王様「……ふむ。ちなみにだが、皆はなぜこのようなことに?」
勇者「ほんじゃその辺りも含めて、メシでも食いながら説明しようか。正直、俺ハラ減って死にそうなんだわ」ぐきゅるる~
王様「……ふむ。悲しいことだが、魔王を倒したことは快挙。祝いの場が弔いともなろう。誰ぞ! 誰ぞあるか! 勇者の凱旋じゃ! 宴を開け!!」
兵士「ハハッ!」
勇者「…………」プハー
宴の場
勇者「うめえうめえうめえ」ガツガツガツガツ
姫様「まあ、勇者様は健啖ですのね」
勇者「この商売、食えるときに食っとかないとねー」ガツガツガツ
姫様「勇者様、こちらの品も美味しゅうございますわよ」
勇者「へー。どれどれ……お、ほんとだうめえ」ガツガツガツ
姫様「あらあら。お食事は逃げませんわよ?」
勇者「……んなこたねえよ」
姫様「え?」
勇者「…………」ガツガツガツガツ
王様「おお、こちらにおったか勇者よ。おや? 姫もこちらにいたか」
姫様「はい。勇者様ったら、わたくしとのお話よりも、お食事のほうが楽しいようで。まさか豚の丸焼きに嫉妬するとは思いもしませんでしたわ」
王様「はっはっは。きっと勇者も照れているのだよ。姫の美しさに」
姫様「まあ。そうなんですの勇者様?」
勇者「あー、そうっすね。そうだと思いますはい」ガツガツガツ
王様「ところで勇者よ、そろそろ魔王討伐までの話などを聞かせてはくれぬか?」
勇者「んー、そうね。ハラもそこそこ落ち着いたし」
王様「できれば、勇敢なる仲間たちの最後なども聞かせてくれ」
勇者「へいへい。そんじゃ行きますかね」
姫様「期待しております勇者様」
勇者「うーっす」
壇上
勇者「えー、どうも勇者です」
ザワザワ
「おお、あれが……」
「憎き魔王を……」
「英雄だ」
ザワザワ
勇者「そんじゃあどっから話しますかね。んー、そうね。食い物の話でもするか」
王様「ゆ、勇者よ!」
勇者「ん? どしたの?」
王様「その、なんだ。できれば冒険の話をだな?」
勇者「メシだって冒険の一部だよ。嫌ならメシ食いに戻るぞ俺」
王様「……ふむ。確かにそれも道理か。続けよ」
勇者「うーい。えーっと、皆さん、今日は美味い物いっぱいありますよね。俺もさっきから驚きっぱなしなぐらい美味いものばっかです」
勇者「こんな美味い物食ったのは、多分半年ぶりぐらいです」
勇者「じゃあ普段は何を食ってたんだって話ですが、皆さんは街の周りにいるあばれイモムシとか、どくウサギとか食ったことあります?」
ザワザワ
勇者「ははは、ないっすよねえ。下ごしらえ大変だし、大変な割には美味くもないし。何より、そいつらは魔物だし」
勇者「えー、ですが、牛や豚や鶏や、畑で採れる野菜なんてのは人間が飼ってたり作ったりしたものでして」
勇者「そして俺や仲間は魔族が支配してた土地なんかも冒険していた訳で」
勇者「なあ王様」
王様「う、うむ?」
勇者「この世界に、人間の国や街や村が大体どれぐらいあるか把握してる?」
王様「あ、ああ。大きい国は五つ。街や村は……詳細にはわからぬな」
勇者「ふむ。その中で、魔王の居城の近くにある街や村の数は?」
王様「……無いな。あっても魔王に支配されているか、滅ぼされておる」
勇者「よくできました。勇者マークあげちゃいます」
王様「……」
勇者「さてさて皆さん、こんな感じで基本的に魔王の城に近づくにつれ、街や村は減っていきます。更に、数少ない街や村は基本的に貧困に喘いでます」
勇者「そんな状態で俺達が誰にはばかることなく食べる事ができた物とは……はい姫様、答えをどうぞ」
姫様「魔物……」
勇者「はいよくできましたー。勇者マーク進呈! やったね!」
勇者「でだ。この辺りにいる魔物、つまりはあばれイモムシとかどくウサギみたいな奴らね。あいつらは、気性が荒いとはいえ、動物とそんなに変わりません」
勇者「ですが、魔王の城に近づくにつれ、魔物ってのは変化していきます」
勇者「では王様、第二問! その変化というのは?」
王様「…………見当もつかぬ」
勇者「ブブー! はっずれー。勇者マークはおあずけー」
王様「…………」
勇者「その変化ってのはね、あいつら、知能が上がっていくんだよ」
勇者「知能が上がるってのは、感情が激しく出たり、言葉を喋ったりって感じで表れてくる」
勇者「泣きながら攻撃してきた奴を、『殺さないで』と懇願してきた奴を食って俺達は生きてきた」
勇者「人食いとなんら変わりねえ。それがあんたらの言う勇者って存在だ」
王様「…………」
姫様「…………」
勇者「おっと、湿っぽくなっちゃったね。えー、話題を変えますか」