ほのぼの犬の散歩道 町内三國志編
天下三分の計だってぇ!?
うちの犬がとんでもない事を言い出した。
それは、町内で覇権を狙うブルジョワチワワ、ルンペンSATO、そしておいらの3トップ。その各々が魏・呉・蜀を名乗り、各々の電柱にマーキングを施す事によって業界を安定させると言う革新的アイディアだった。
「もしこれが実現したらとんでもない事になるぞ……」
うちの犬の賢さは、さながら全裸の諸葛亮孔明と言った所だろうか。
「行くぜ孔明!」
「バウッ!」
激しい動悸を抑えつつ、孔明を携えて町の中心へと向かう。
戦け! 散歩である!
天は蒼くそして高い。
異常なまでに雲がない空は、見渡す限り淵と言う縁がない。
「おいらはこの町の輪郭をして天の混沌を定め、北斗七星を穿つ者なり」
楽しい台詞だって自然に飛び出す。
風は何者を呑み込んで一切の拘りを持たない。
一歩一歩肩で切る空気。露出する皮膚、粘膜。そこに爽やかさを見付けるに至る。
「おはようございます!!」
「あ……フヒッ」
道行く警察官に語気強めの挨拶を食らいつつ、おいらと孔明は前へ前へと進んでいく。
「あらあらあら……あらあらー!」
「あ……フヒッ?」
運悪く近所のババァに遭遇する。名前も覚えてねェ癖においらに勝てると思いでか!
「あらー」
「ふひ、あ~い」
相手にもならねぇやい!
おいらと犬は町の中心へと向かう。
今の時間ならばブルジョワチワワが散歩しているに違いない。
「あよ、こ、こんにちは」
「こんにちは」
ブルジョワチワワに挨拶し、会釈を横目に帰途につく。
ルンペンSATOは留守みたいだ。
雲ひとつ無い茜空は燃える濃淡を弾き出し、やがて今日の業を終える。
サンポは終わった。
「孔明、明日の散歩はどうしようか」
おいらは父の書斎から1冊の本を選び取る。
『坂の上の雲』
子規は「バウッ!」と嬉しそうに笑った。