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9 紙メンタル

遅れて申し訳ございません

「っん〜!くぅ〜!」


 ベッドの上で伸びをする。あの後すぐ寝てしまったようだ。我ながらなんて早い寝付きだろうか。

 上半身裸のままで寝てしまっていたけど、掛け布団があったから風邪をひくことは無かった。

 たっぷり寝たから気持ちがいい。窓から入る陽の光も暖かく、今日が晴れだということを教えてくれる。ちょっと寝すぎたかもしれないけどね。

 ベッド横の服も完全に乾いている。汗のにおいが少し気になるけど、乾いていないよりかはましだからね。同じく喉がかなり渇いていた。

 寝る前に運動してたらそうなるよね……脱水症状のようなものは体に現れていないようだから、ほっと一安心。


「さっ、今日は手伝いをするか」


 自分で頬を叩いて気を引き締め、扉に手をかける。

 ちなみにこの扉は開き戸だ。これが引き戸だったらドアノブ以外の場所を押しながら開けることはできるけど、開き戸ならそういうことは出来ない。

 今は体が小さいからドアノブに手が届くか届かないかといったところだけど、その持ちにくさが今は嬉しかった。1つ2つ深い深呼吸をして、ノブに手を伸ばした。


 扉を開けると、そこはリビングだった。

 キャンプ場のログハウスのようなそれは中々の広さがあって、テーブルとそれを囲む6脚の椅子が置いてある。

 部屋の隅には暖炉があって、今は炭が何本か灰の上に積まれている。夜外に出る時は2階にいる父さんと母さんが起きないかどうか気にしながら歩いていたから、こういう所は見ていなかった。


 部屋には扉が3つ、階段が1つ繋がっており、扉のうち1つは僕が寝ていた部屋で、もう1つは玄関の扉だ。

 その階段から、誰かが下りてくる音が聞こえる。音は2人分あるから、多分父さんと母さんだろう。


「ふぁ〜あ」

「ほら、早く下りなさい」


 案の定、父さんと母さんだった。2人はゆっくりと階段を下りてきている。


「んあ?」


 2人の顔が見える前に父さんの声が聞こえる。こっちからは全然見えない。


「そうか、そうだったな」

「何がだい?」


 立ち止まった父さんは、1人で何か納得したような声を出す。後ろにいるであろう母さんは何が何だか分かっていないようだ。


「あら」

「お、おはよう、ございます……」

「あぁ、おはよう」


 咄嗟におはようと出てしまったけど、今は朝であっているのかな?

 父さんが欠伸をしているからきっとそうだとは思う。だけど、日の出まで起きていた僕からするとすごくおかしいのだ。

 昨日の昼から起きていて、日の出前に寝て、今は朝であるというのに、すこぶる調子がいい。こんなに睡眠時間が無くても大丈夫なんだろうか?

 元の世界では日の出を見てから寝ていたら夕方まで寝ているからね。


 まさか、1日以上寝ていたのかな?


「僕は、どれほど寝てました?」

「昨日の昼からじゃないのかい?それから後は見ていないさ」


 なるほど、丸1日寝ていたわけじゃないんだ。

 つまりそれは、僕が日の出から朝までの短時間しか寝ていないことになる。


「体のほうは大丈夫なのかい?」

「はい、もう十分に動かせます」

「今日は外に出るけど、本当に大丈夫なのかい?」

「大丈夫ですよ」


 僕は体を動かしながら答える。

気のせいなのか、夜動かした時よりも体が動く。


「ははっ、それじゃあ朝ごはんにしようか」


 おっ、手伝いをすることがあるかな?


「何か手伝えることは無いですか?」

「うーん、ならそこの野菜を洗ってくれないかい?アンタ、連れて行ってやりな」


 母さんがさっきまで所在なさげに立っていた父さんを呼ぶ。


「あいよ。ほら、こっち来い」


 父さんが母さんの指した野菜の入ったかごを持って玄関の方へと歩く。玄関と言っても靴を脱ぐような玄関では無くて、靴のまま入っていい玄関だ。


「はい、父さん」


 父さんは僕の呼ばれ方が恥ずかしいのか頬の辺りをポリポリ掻いている。






 父さんが向かった先は家のすぐそばにある屋根がついた井戸だ。夜にこの近くは通ってはいるけど、その時は柵の方しか見ていなかったからここに井戸があるなんて知らなかった。この世界にも井戸はあるんだね。


「こうやって、この2本の紐のうち、短ぇ方を引っ張る、そしたら水が入った桶が、出てくるんだ」


 井戸はポンプ式ではなく、上に滑車がついた汲み上げ式のもので、父さんが実際に汲み上げている。

 もちろんだけど今の僕じゃあ非力だから、紐に引っ張られて井戸の底に落ちていく姿が容易に想像できる。


 滑車の組み合わせを変えたり数を増やしたりしたら、今の僕でも引っ張れるように出来るんだけどね。


「ほらよ」

「ありがとう、父さん」


 父さんが汲んでくれた水に野菜を浸けて、野菜に付いている土や泥を落とすように洗う。


「終わったよ」

「おう、なら戻るぞ」


 そう言って父さんは洗ったばかりの野菜をかごに置き、それを持って家へと歩き出した。


「うん!」


 その後ろを僕は小走りでついて行った。






 ……正直僕は異世界の料理を舐めていた


「おい……しい」

「だろ!エナの作った料理だからな!」

「アンタ、もう!」


 僕の口から漏れたほどの声に父さんが反応する。父さんに褒められた母さんは頬を赤く染めている。

 本当に美味しい、こんなの僕じゃあ作れないや……






 いつの間にか目の前にあった朝ごはんが無くなっていた。手を動かした記憶はあるのに、いつ食べ終わったのか分からない。不思議だ。


「もうそろそろ行くか?」

「アンタは掃除がまだだろう?アタシが連れていくよ」


 父さんが僕が食べ終わったのを見てからそう切り出すと、横に座ってまだサラダを口に運んでいた母さんが遮った。掃除していたのか、父さん。


「さ、皆食べ終わったことだし、それぞれのことをするよ。ヴォルはアタシと一緒に来なさい」

「ど、こへ行くんですか?」

「村の皆は1人を除いてヴォルのことを知らないからね。あいさつみたいなものさ」


 母さんが僕に向かって手を伸ばしてくる。そっか、はぐれちゃ駄目だよね。

 僕がその手を握ると、母さんは顔を綻ばせた。やっぱりその手は大きくて柔らかく、つい笑みがこぼれる。


「ちゃんとついてくるんだよ?」

「はい!」


 思わず大きな声になったのは仕方ないよね?






「おっ」

「おや、サマンタかい」


 外に出たところでこちらに真っ直ぐ来る人が見えた。手にはかごを持っているけど、それよりも目線が上にいってしまった。

 ハg……スキンヘッドなのだ。ごつい体格からして年はさほど食っていないように見える。

 日に焼けた褐色のハゲとは言わないでおこう……

 サマンタと呼ばれた人は僕を見るなり首を捻る。

 初対面ですよね?いや、あの……首を捻らないでくれますか?すごく不安になってくるんですけど……


「エナ、頑張ったな」

「いや、アタシはそんなに頑張っていないよ」

「え?」

「この子の自力さ。アタシは毒を少しだけ弱めただけさ」

「えぇ!?」


 サマンタさんがすっごく驚いている。毒ってどういうこと?


「それは……あるのか?」


 サマンタさんが首を逆に捻りながら僕を見てくる。

 だから僕を見ないで……そんな顔で迫られたから怖いから……父さんとは違う怖さがあるから……


「紹介が遅れたね。この人はサマンタだよ。ほら、隠れてないで挨拶しなさい」

「ヴォル……です」

「恥ずかしがり屋だな〜んん?」


 どうやらサマンタさんは僕が逃げているのに気がつかないようだ。

 って気づいてよ!自分の顔を見て!顔を!


「そこまでにしときな。ヴォルが怖がっているじゃないか」


 母さん、今の僕の味方は母さんだけだ!

 怖がっているのを母さんに伝えるために服をしっかりと握った。


「恥ずかしがり屋じゃないのか?」

「アンタはベリアは大丈夫だったけど、自分の子を見ただけで泣かせる程、容姿が怖いことを知らないのかい?」

「うっ……そ、それはわかっているがな」

「じゃあとりあえずヴォルが怖がらないようにもっと離れてくれないかい?とりあえず10メートル位さ」

「とりあえずが遠い!」


 母さんとサマンタさんが即席のコントを始めている。

 もしかして、サマンタさんって見た目負けしている人なのかな?


「それはそうと、どうしてこっちに来たんだい?」

「そうだったな、見舞いの品を持ってきたんだ。ちょっとした果物だな」

「そうだったのかい。なんだか悪いね」

「いや、俺もそこにはいたからな。もしかしたら俺が止めれたかもしれないからな」


 そう言ってサマンタさんが母さんに持っていたかごを渡す。朝野菜が入っていたかごよりかは少し大きい。

 中には元の世界では見たことがない果物が入っている。立方体の青いものやまん丸の黄色のものまである。一体どんな味がするのだろうか?


「ルイスはどうしたんだい?」

「まだ寝てる、寝る子は育つって言うだろ?」

「ルイ、ス?」

「あぁ、まだ教えてなかったね。あんたと同じくらいのこいつの子供だよ。あともう1人村にはアンタと同じくらいの子がいるけど、それは後のお楽しみだね」


 どうやら村には僕と同じくらいの子が2人いるようだ。話せるかな……もちろん僕が。ルイスは聞く限り男の子のようだし、話すことには話せるかな?

 問題はもう1人の方だ。女子だったらどうしよう?目線すら合わせる自信が無い。

 だとして男の子だとしても、ルイスと2人で来られたら焦って何も答えられないと思う。慣れていくしかないのかな……

 これからのことを考えると、つい肩を落としてしまう。

 でも、いつまでも肩を落としたままじゃ駄目だ。ここは本やアニメでおなじみの異世界、そして、僕は何かしらのスキルを持っているはず、つまり─────



 → 小説のように強くなってちやほやされたい!



 僕の心はそれ1択だった。






「で、外を1周したらしがみついて離れなくなったのか」

「そうなのよ、まだ全員と話していないっていうのにね。今はベッドで寝させてるよ」


 扉の向こうから聞こえる父さんと母さんの声を聞きながら僕はベッドでゴロゴロしている。

 理由?そんなのメンタルがやられたからだ。

 僕のメンタルが紙なら、もうヒラヒラと何処かへ飛んで行ってるよ。

 だって母さんが畑仕事をしていた数人に『紹介したい子が居るんだよ』って言ったら、その数人が周りの人を呼んであれよあれよと言う間に20人くらいに囲まれていたからね。


「へぇーこの子が」

「可愛いわね」

「エナさんにすごい懐いとるのぅ」

「でもエナにもキールにも似てないぞ?」


 なんて周りに来た大人たちが口々に僕を見て言って、僕はと言うとずっと母さんの服を握って片目だけ出すようにして周りを見ていた。

 こういう時に堂々とできる人に凄く憧れる。もちろん年齢は関係なくだ。


 そんなこともあって只今ベッドにてゴロゴロしながら何処かへ行ったメンタルを作り直している最中だ。


 そうそう、今日朝に話していた同じ身長の子が2人とも居た。

 名前は確か……ベリアとル……ルイスだ。どうも人の名前を一気に覚えるのは難しい、今までこういったことが必要だとは思わなかったから。あっても1日2人、計10人程の名前を覚えるだけで事足りてしまうからね。


 ベリアは栗色の髪をした子で、ルイスは綺麗な金髪の男の子だ。元の世界では金髪に染めている人は見た事はあるけど、光を反射しそうな輝きを持ったサラサラした金髪ではなかった。


 ベリアはおそらく彼女のお母さんと手を繋いで、ルイスは僕と同じようにしがみついて半目だけ出していた。

 ルイスがしがみついている相手はサマンタさんだ。

 あれ、遺伝は?


 ベリアはこっちをじっと見て、ルイスはおっかなびっくりというふうに僕を見る。目の焦点は僕に合っているようで、僕がその眼力に負けて母さんの影に隠れてしがみつくまでずっと見ていた。僕が何もしなかったら後数分は見てきたと思う。……そう考えたら鳥肌が立ってきた。


 そこからはずっと母さんにしがみつきっぱなしだった。僕が母さんの服に顔を押し付けて動かなくなったのをきっかけに、周りの人達は元の作業へと戻っていく足音が聞こえてくる。足音が無くなってから僕が顔を話すと、母さんはゆっくりと歩き出した。


 それから母さんは村を1周して僕の気を紛らわそうとしたみたいで、村の中を歩きながらトッポグ村の事を話し出した。

 だけど僕はメンタルが飛び去った直後であり、母さんの服にしがみついたまま離れず、そのまま家に着き、ベッドまで直行した。


 そんなこんなで現在、ゴロゴロして紙メンタルを取り戻そうとしているんだけど、これが中々戻ってきてくれない。元の世界では好きなラノベを読んで戻していたけど、生憎とここは異世界、ラノベなんて無い。


 それよりも、ベッドに入ったら睡魔が……

 目を閉じると、すぐ眠りについた。






○●○●






「あれ?どうしたのかしら」


「どうした?玉を見て首を傾げるのはともかく、声を出すのは珍しいな」


「失礼ね、その言い方だと私がいつもこの水晶玉を見ながら首を傾げているようにしか聞こえないんだけど?」


「実際そう「ど・こ・が・か・し・ら?」いや、違う、違うな。まぁそれはさておき、何かあったのか?」


「置かないでよ……いやね、さっきまでずっと私たちの未来が見えていたのに、いきなり見えなくなったのよね」


「ふーん」


「『ふーん』って!私たちの未来の話よ!?もう少し危機感とか感じないの!?」


「いつもそんな感じのこと言っちゃ外れてるじゃあないか」


「いつも外してないわよ」


「この前の強敵の予測」


「ぐっ」


「その前の女王の出産予定日」


「あ、あれはその前の戦争が無かったらピッタリ合ってたわよ!」


「どうだか……戦争を含めて見れていないからじゃないのか?」


「そう言われると何も言い返せないわね……」


「そんな事があったから信じないんだよ」


「今回はそれとは違うのよ!」


「何が違うんだ?」


「この前の戦争でちょっとレベルが上がってスキルが変わったのよ。そのスキルの説明からしてこれまでより正確なこと、ほぼほぼ未来が見えるスキルに変わっていたわ。〈未来視〉には負けるでしょうけどね」


「じゃあ……どういうことだ?」


「これまで……あ当たらないとしても!見えないことなんてなかったわ!それに、いきなり変わったから、私たちの未来が変わるような何かが今起こったってことよ」


「それって強いやつが生まれたってことか?」


「どれだけ戦闘が好きなのよ……そうかもしれないわね。もしそうだとしても、私たちが負けることは無いでしょうね」


「こうしちゃ居られねぇ!ちょっと行ってくる!」


「行くってどこよ?」


「そこら辺だ!ここらのやつはほかよりかは強ぇからな!」


「行っちゃった……今すぐ来るわけじゃないと思うけどね……それに天災でも見えなくなることはあると思うのにね……」


「さて、こうなってしまったら今は見れないし、また見るときまでしまっておきましょうか」


「あっ」


パリーン

サラサラ……


「ど、どど、どうしまま……」


「そうだわ、予備が沢山あるじゃないの。心配して損したわ……」


「ん?そういえば外がやけに騒がしいわね……」


バンッ


「あら、今さっき出ていったば「すまんっ!」かりじゃな……え?ちょっと、なんで頭下げてるのよ」


「そこら辺に居たマルボアを殴ったら木にはね返ってお前の建物の1つに飛んで行った!本当にすまん!」


「え?そ、それってまさか、保管庫じゃないわよね……」


「保管庫がどれか分からないが中に大量にガラスがあった建物だ」


「何やってんのぉー!」


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