7 厨二病は見られると恥ずかしくなるもので
本当に申し訳ありません。
7月上旬に載せると言っておきながらほぼ4ヵ月先で投稿しております。
せめて……これから先1ヶ月に1話は!
○●○●
「んっ……」
目を開けたらさっきと同じように木の天井があった。
今度は夢は見なかった。個人的には夢を見たかったけど、やっぱり気絶すると意識が無くなってしまうから、夢は見れないのだろうか。
「起きたかい」
「うわっ!」
突然すぐ横で声がした。突然聞こえたものだから、驚いてバランスが崩れ、ベッドから落ちそうになる。
「おっと」
すんでの所で目の前に手が伸びてきて、ベッドから落ちるのを防いでくれた。
そちらを見ると、僕が宙吊りになっている時に見たおばさんが座っていた。
「うちのうちの旦那が驚かせてすまなかったね。実はああ見えても悪気は無いんだけどね、見た目負けしているせいでね……」
起きたばかりの僕におばさんは謝ってきた。
やっぱりあの狼は人だったのか。どうりでおばさんと人語で話していたはずだ。異世界だから、そういうのがあるんだな。
段々と頭が動いてきたぞ。
「僕も、その、ごめんなさい、驚いてしまって」
いくら僕からして命の危機を迎えてしまったと思ったとしても、驚かせたのは事実だから、ぺこりとベッドに座りながら頭を下げた。
後で狼の見た目の人にも謝らなくちゃ。
頭を上げると、おばさんは驚いたような顔で僕を見ていた。
……もしかして、ベッドに座りながら頭を下げるのはマナー違反だったりするのかな?
ものすごく失礼な行為だったらどうしよう……
「な、何謝ってんだい。謝るのはこっちの方だよ」
よかった、さっきのがマナー違反じゃなくて。
あれ?それならおばさんは何に驚いたんだろう?
「私はエナ。あんたの名前は?」
名前……えーと、一也じゃなくて……何だっけ……
「大丈夫かい?まだちょっとふらつくかい?」
記憶の中に……あぁそうだ、思い出した
「ヴォル、です。僕の名前はヴォルです」
「そうかい、よろしく、ヴォル」
「はい、よろしくお願いします、エナさん」
エナさんから差し出された手を握って握手をする。大きくて柔らかい手だ。
それはもう、ずっと握っていたいほど。
だけど初対面の人にそんな事出来るわけないので、力を抜いて離した。
「ここが何処か分かるかい?」
エナさんが笑顔で聞いてくる。
何故だろうか、見ているだけで癒されてしまう。
「村、ですか?」
「そうさ、村の名前は分かるかい?」
「……分からないです」
「ふむ、なら何で川にいたか覚えているかい?」
「それは───」
口を開けたところで、ある考えが頭をよぎった。
───親に突き落とされたと言っていいのだろうか。
あれは盗賊団が追い詰めてきていて、僕を助けるために仕方なくしたことだと思っても。
それをエナさんに話したところで、信じてくれるのだろうか。
もしも言ったあとで、僕と同じようにこの村も盗賊に襲われてしまうのではないか、と。
3歳の子供を川に突き落とすなんてまず考えられない。僕ならその話を聞いたら、『親に溺死されられそうになった子供』と思ってしまう。
だから───
「───分かりません」
言わないことにした。
僕が言った瞬間、エナさんの顔が曇ったような気がしたけど、すぐにさっきの笑顔に戻った。
「起きたばかりで体は動くかい?」
確か脇腹に矢が思いっきり刺さっていたから、そのことを言っているのだろう。
体を起こした時に痛くなくなっていたから、もう傷は無いのだろう。
「大丈夫です」
「そうかい、少し待っておくれ。今から温かいスープを作るから」
「あ、はい。ありがとうございます」
エナさんがそう言って扉を開けたその時。
「わっ」
「おや、アンタ待ってたのかい」
開けた先に2本足で立っている白い狼がいた。
「声が聞こえたんだよ」
狼はその耳をピクピクと動かしながらエナさんに言っている。やっぱり、さっきエナさんが『旦那』と言っていたのはこの人のことだろう。深海のような色をした目がこっちを向いた。
「起きたのか、ガキ」
「ちょっとアンタ!この子はヴォルって名前があるんだよ!」
狼人の言葉にエナさんが頭を引っぱたく。
「紹介が遅れたね。この人はキール。狼人族だから見た目がアレだけど、根は優しいから怖がらないであげてよ」
「『根は』ってなんだよ『根は』って!
俺のこの毛並みを見てもそう言えるのか?言えねぇよなぁ、この艶のある毛なんて、狼人族の中でも俺以上の奴はいなかったぞ。それにこの目の色なんて……」
キールさんが胸を張って『俺は見た目も優しいアピール』をしているようだけど、狼人族について何も知らない僕からしたらよく分からない。
そうだ、謝らなきゃ。
「き、キールさん」
「おまけに弓の名手とも……ん?なんだ?」
「さっきは、その、狼と間違って叫んでしまって……あの、ごめんなさい」
「なんでお前が謝んだよ……元はと言いやぁ俺が獲物と間違えて撃ったばっかりにこんなことになってんだ。だから俺が謝んねぇといけねぇんだよ……すまんかった」
「アンタは相変わらず謝る時に恥ずかしがるんだね」
「うっせ」
こっちから謝ったのに逆に向こうから謝られた。
「アンタ、掃除はどうしたんだい?」
「それはもう終わっ……あと半分だ」
「なら早くやっておしまい」
「……あぁ」
キールさんが言葉の途中でエナさんに睨まれて訂正している。
そのまま少し落ち込んだようなキールさんの背中を押して2人共そのまま部屋の外に出ていった。
「さて……と……」
僕は僕で今出来ることをしてみよう。
神様のドジなのか、僕のスキルやステータスのことについて説明もなしに憑依したので、その辺についてが一切分からない。
という事で。
「ステータス」
……何も起きない。ここでパソコンの画面のように自分のステータスが空中表示されてくれれば今の自分の事や何のスキルのテスターになったかどうかすぐ分かるのにな……
「スキル発動」
これも変化なし
「ステータス表示」
変化なし
「はっ!」
気合を入れただけでは何も変わらず
「ふっ!」
拳はただ空を切るだけで、なにか衝撃波のようなものは発生もしないし飛んでも行かない。
……まぁ飛んで行ったら飛んで行ったでこの部屋が無くなりそうな気がするから攻撃系の検証はやめておく。
「収納」
異世界モノでよくあるストレージ的な物も無し……
「何も無いな……」
考えうる全部を試してみたけど、何も起きなかった。
分かったのは今僕に出来ることは何も無いということだった。虚しい……
「いや……まさかね……」
「おや、もう歩いてもいいのかい?」
僕が1つの考えが出てきた時、ちょうどエナさんが部屋に入ってきた。手にはお盆を持っている。さっき言っていたスープだろう。
「はい、おかげさまで」
正直さっきまでの1人でやっていた事を聞かれているとすごく恥ずかしんだけど、ステータスを確認したいとはいえ、黒歴史を積み上げるようなことだからね。
頬が赤くなっていないかな……
「───────」
エナさんが口を動かしているけれど、さっきまでの事じゃないと信じたい。
「そうそう、スープが出来たよ。まずは体を温めようじゃないか」
お盆には湯気が立つ木の器が乗っている。
中の液体は白く、その中に緑色や肌色の何かが入っている。見た目は即席のコーンスープの色違いみたいだ。
「栄養も摂らなくちゃいけないから色んなものを入れてるけど、味は大丈夫だよ。さ、座りな」
そう言われると何が入っているのかさらに気になるんだけど……
そう思いながらベッドに座る。少々体を上手く使わないと登れないのだが、登れない高さではない。
だけど、今はエナさんが持ってきて座っていた椅子があるので、楽に登れる。
「いただきます」
スープは熱く、それでいて少しとろみがある。具の方もしっかりと熱が通っていて甘く、それぞれの具が味を主張して、それを汁が包み込んでいて……
「ごちそうさまでした」
「いい食べっぷりだね。これなら大丈夫さ、ゆっくり休みな」
体の芯から温まった。しかも味付けが濃くなく、一気に平らげてしまった。
この温かさのまま、ベッドに横になる。
「はぁ〜」
至福だ。
ステータスのことは1度忘れて、寝て明日に備えようか……そうしよう……うん、それがいい……
「……眠れない」
昼だからなのか、はたまたさっきまで寝ていたからだろうか。一向に眠気が来ない。
成長期というものは、『寝て・起きて・食べて』を繰り返して育つものだと習った。
その中でも特に、『寝る子は育つ』と言われるほど、子供は寝ないといけないんじゃなかったけ?
……夜更かしをしていた僕が言えたことじゃないけど。
それはともかく、こうしてベッドの中に潜って、目をしっかりと瞑って、寝る体勢になっているというのに、眠気が来ないのはどうしてだろう?
憑依する前には同じことをしたら1分以内に寝る自信はある。
エナさんは僕がベッドに横になった時に「おやすみ」って言って部屋を出たから、そうそう戻ってこないと思う。
この時間をどうしようか?
誤字などがあれば遠慮なく指摘してください