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31 得体の知れない化け物

 ─────おおよその数が割り出せま······す?


 一瞬見間違いかと思ったのですが、軽く呼吸を整えてもう1度見直しても同じように見えてしまいます。

 チェイザルが指した地図も3度見ましたが、私が幻覚を見ているわけではないようです。


「チェイザル、見た範囲は本当にその範囲ですか?」

「家2つ分くらいはずれるかもしれねぇが、この地図じゃほとんど変わんねぇな。にしてもどうした?今日はずっと変だぞ?」


 ズレたとしても2軒分······例えそれが貴族の豪邸だろうと、その範囲には大きく空いた穴のように何の反応もありません。

 ()2つ分でしょうか。

 魔具の反応では、それくらい離れた位置からモンスターを示す赤い点が写っています。


 先程チェイザルを送った先の場所にモンスターが居なくなっているのは気づきました。


 死体を残さずゴブリンが消える現象が、この短時間で起きている、ということですか。

 しかも、範囲が広がっていく形で。


 先程見た時からさほど時間がかかっていないのにこの範囲だと、軽く走り続ければそれくらいの速さになるでしょうか?

 最も、ある程度散らばっているモンスターを残らず消していく場合はその速さでは足りないのは勿論です。

 モンスターを倒しながら常に走り続けるような足を持っているとしたら、ある程度強い何かがゴブリン諸々を─────


 その時、もう1度発動させた時に、モンスターのいる範囲の端に青い点が見えました。

 青い点は私にとって味方だとそうなりますが、一体誰が?


 味方だと思える以上、そういった所属にいるのか、私が直接見て判別出来たかを経ている訳ですが、この王都で殲滅力のある人を記憶した覚えはありません。

 私はいつもギルドから出ることはあまり無いので、過去にこの王都以外で会ったことのある人が来た?この速さを先程から維持しているとなると、かなり数は絞られてきます。

 ですがそれに該当する人達なら、ここに来た場合は顔を見に来るか噂になるくらいの人たちですし、こんな夜に行動するわけでもありません。夜の危険性は全員わかっていることですしね。

 噂も何も聞いていないので、この王都内からしか─────




 ─────あくまで可能性ですが、1人だけいましたね。

 少し前からギルドに来たヴォル、彼ならその溢れる魔力を用いれば造作もないことでしょう。

 死体が無くなっているのは、可能性として彼が魔法の袋を持っているならそれも有り得ます。アンデットとしてまた襲ってくることもあるので、ダンジョン以外で死体を回収するのは後が楽になります。

 彼がどれほど動き続けることができるかは分かりませんが、流石に囲うモンスター全てを倒し切ることは出来ないでしょう。

 私は私で動いておかなければ


「チェイザル、領主と学園に報告を─────」


 チェイザルに領主と学園への報告をさせて、衛兵と先生に準備をさせておきます。

 その間に、ギルドから動ける人を探します。


 




 ギルド内を確認しても今すぐ動ける者が私しか居ませんでした。夜だからというものもありますが、クエストの種類が昼に固まっているのも原因の1つにあるでしょう。今考えてもこれは仕方がないですね。

 いつでも戦えるように様々な魔具を準備しながら、探知の魔具を使います。


 表示されたのは先程から明らかに減った赤い点、ペースを考えると少し早くなっているのでしょうか?それならゴブリンより戦いやすいモンスターがあの辺に居たということでしょう。

 このペースですと······日の出よりも早く倒し切るくらいでしょうか?

 直後にそれはないと否定します。勇者に近かった彼でさえ、そんなに動き続けることなんて出来なかったですものね。






 かなり時間をかけてチェイザルが戻ってきました。報告するだけだというのに、こんなに時間がかかるものなのでしょうか?


 話を聞くと、どうやら衛兵は守る方が強いと主張し城壁から出ることはなく、学園からはこの時間に無理に起こしても土属性の教師しか全力を出せないとのことです。土属性だけでは、攻撃面では強くは無いですね······それに、城壁から全周囲にモンスターがいるので、頭数を増やさないといけません。

 増やせないならば、少数で何とかするしかありませんね。万全を期すために魔力は常に最大にしておきましょうか。


 

 魔力の消費を抑えるため、見張りは衛兵に任せて魔具の使用を控えました。

 チェイザルにはいつでも動けるように指示し、今は部屋に1人きりになって考え直します。









「────ンサ!おい、ルマンサ!」


 名前が呼ばれ、意識が元に戻っていきます。熟考すると意識がどこかへ行ってしまうのはいけない癖ですね。


 顔を上げると、チェイザルがこちらを見ていて、扉の前に申し訳なさそうな顔の職員がいます。

 おそらく声をかけても私の反応がないため、部屋へと押し入って来たのでしょう。


「すみません、考えすぎてしまったようです」

「探知の魔具はお前しか上手く扱えきれねぇんだ。今はまだ何も報告は来ていないが、衛兵の間じゃ王族の護衛長とルマンサしか頼りないって話だし、その片方が音沙汰無かったら心配するだろうが」


 チェイザルの言葉に、心で深く頷きます確かに、私が居なくなれば魔具による探知能力と統率のとれた冒険者達の2つが無くなってしまいます。

 それよりも、その言い方からして······


「3時間も何考えんだよ」

「ッ!」


 そんなに時間が経っているとは思いませんでした。

 青い点(味方)はヴォルなのは確定したのですが、それでもその動機までは詰めきれませんでした。




 急ぎ探知の魔具へと近づき、魔力を注ぎます。

 モンスターが来たという報告は無かった訳ですが、見えないだけで森の中にいるのかも─────





「 」


 魔具の反応に、私は目を疑ってしまいます。


 青、青、青

 それは味方を表す点、壁の内側にいる人達に対して反応しているのでしょう。円状に散らばっています。


 ですが赤い点は、ひとつも見当たりません。


 どうやって?


 まさか

 3時間もずっと?


 ······少し、考えを改めた方がいいかもしれません。

 前の魔具の反応した位置から走り続けなければ届かないような場所にいる青い1つの点が、そう言っているようです。


「チェイザル、衛兵たちには1度休憩を取らせるように指示を、他に警戒に当たっている人には最低限の人数まで減らしても良いと伝えてください」

「······何があった?」


 急に変更にチェイザルが怪訝な表情を向けてきますが、それは私も聞きたいことです。


「脅威は去りましたが、少し確認事項がありましてね。直接確認して来ようと思います」

「なら。いやわかった」


 理解の早い部下で助かります。











 移動速度が3.5倍になる足防具と改造した姿勢補助の魔具を併用し、朝焼けの空を駆けます。

 この組み合わせは魔力の消費は大きくなってしまいますが、地形を無視して最速で移動できます。

 一時的に脅威は無くなりましたし、後のことを考えて今は時間を優先します。


 立てた予測通りで走るフードの子(ヴォル)、背の高さは彼と同じですし、何より魔力の質があっているとの事です。


「待ちなさい」


 斜め前に降り立った私に驚いたような動きを見せます。索敵能力ははそれほど高く無いようです。

 

「先程から見ていました」


「······」


 彼は少し驚いたようですが、直ぐに落ち着いた様子になります、状況の理解は早いようです。


 ここに来るまでにいくつかのパターンは想像していましたが、沈黙ですか。

 いきなり攻撃されるよりかはましです。

 

 とりあえず、ここまで戦い続けるその目的を聞きましょうか。


「─────あなたは何がしたいのですか」


「守るためだ」


 ······1拍置いて返された言葉の続きを待ちますが、どうも続かないようです。少し態度が悪くなった様に見えてきます。

 本当に守るだけでしょうか?そんな大雑把な理由でここまですることでしょうか?


 持ってきた探知の魔具を使用するとかなり遠くの場所にですがモンスターが居ると反応が出ます。第2波がやってくるかもしれません。

 今は深く聞かず、後でゆっくり聞きましょうか。

 まだやってくるモンスターの対処が先です。


「······そうですか」


 時刻は······1度休憩を挟んだ頃にしましょう。今からは流石の彼でも疲労のせいで全力が出せないでしょう。


「日が昇ったらギルドへ来てください」


 私はそれだけを伝えるとすぐさまギルドへと戻ります。

 ポーションの在庫を確認······日が昇れば動ける人は増えるので、分散させれば大丈夫でしょう。学園には稀代の魔法士が居るそうなので、その人に活躍してもらいましょうか。




○●○●




 宿に戻って一眠りし、体感いつも通りの時間にギルドへと到着した。まだ中には入っていない。


 中に入ったとて、あの人を呼ぶ方法が分かんないや。

 あの人は『ギルドで待ってる』的なことを言ったけど、そもそも冒険者ギルドで合ってるかどうかすら怪しい。まぁ冒険者ギルド以外ギルドの言葉は聞いた事は無いからあっているとは思うけどね。


 でもみんなに会釈されるような人だからなぁ、絶対上の人だって。

 そんな人を名前無しで呼ぶ方法なんて······考えた限り肩書きとかあるのかどうかすら分からないけど二つ名とか?

 でも両方知らなかったらどうしようもないじゃん。


 え······どうしろと?






 考えるだけ無駄な気がしてきたので、フードを被って建物の横に回ることにした。


 にしてもこの建物、すごく広い。事務作業をするのはもちろん、酒場もあるからその分の厨房スペースもあるし、モンスターの解体所へ続く道もあるし、解体した物とかを保管する倉庫もついている。あと修練場もある。

 そんなに付属施設があるんだからかなり広い。歩いて回るだけでいい運動になるんじゃない?


 不審がられないように歩きながら回っていくと、窓ガラスがはめられている窓が見えた。2階にある窓だけど、あそこって人によってはジャンプで余裕で届くよね?セキュリティとか大丈夫なのかな?

 窓ガラスはこの世界では数は少なく、殆どの建物は木窓だ。位の高い人が住むようなところにあるものしか見かけたことはない。

 あそこにあるってことは、そこはそういう人がいる部屋ってことだから、あのエルフの人もいるかもしれない。

 だからってあそこまではどうやって行けばいいのか分からない。


 頭を悩ませながら窓を見ていると、あのエルフの人がいつの間にか窓際にいてこっちを見ている。

 不審者だと思われないように、視界に収めつつもゆっくりと別の方向に歩く。


 エルフの人はこちらをじっと見たあと、窓を開けて手招きをした。理屈は分からないけどどうやら見破られたのかな?ある程度の距離はあるはずなんだけどね。


 そちらに視線を向けると、既に中に入っていったのか人の姿は見えない。ただそこに空いた窓があるだけだ。


 え?まさかそこに直接入れと?


「まぁ出来るんだけどさ」


 跳んで窓枠······ではなく、その横にあり出っ張りへと行き、しっかりと掴む。

 建物自体がしっかりとしたものなのか、掴むところが外れたりしていない。

 なんでこっちへ跳んだかというと、一気に窓枠に行って返り討ち、なんてことにならないようにだ。慎重に慎重を重ねるのがいいってどこかの誰かが言っていた気がする。

 ······それならそもそも跳ぶなって?

 ごもっともです、はい。


 まぁいいじゃん、万が一のことだったし、それに


「早いお目覚めのようですね」


 そこにはエルフの人が1人でいたからね。


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