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30.5 得体の知れない化け物

長いので分けます


○●○●



「ギルドマスター、次の分の資料です」

「ありがとう」


 受付から渡される資料に目を通し、本部に『異常なし』の旨を何倍にも希釈し長く文字を連ねた文書を作成する。


 なぜ異常が無い時もこんなに書かなければいけないのですか。異常があった時だけでいいと思うのですが。


 コンコン


「どうぞ」

「ギルドマスター、最近『バリガモ』の人達を見かけたという報告が出てきております」

「この王都内ででしょうか?」

「はい、衛兵のかたからも『巧具師』のお力添えを、と」

「分かりました、私からも動いておきますので、そのようにお伝えください。念の為チェイザルにも伝えておいてください」

「はっ!」


 職員の皆様は何故か私には畏まった態度で接して来ます。それよりも仲の良い友の様に接していただく方が私としてもありがたいのですがね。

 やはり二つ名をつけられるとそうなってしまうのでしょうか?


「にしても、『バリガモ』の奴らですか······」


 『バリガモ』というと他の都市で色々悪事の話を聞く犯罪集団ですね。この王都は大陸の端にあるためそういった輩は来ないと思っていたのですが······まずいですね。

 ここは辺境に近いためそもそも馬車等が少ないですし、山に登らない限り強いモンスターは出ないので強い冒険者は基本来ることがありません。腕試しであの山に登る人がいたりしますが、今はそういう人たちは来ていません。

 何かあれば対処しなければなりませんが、この王都で1番強いのが戦闘職ではない私なあたりまともに対処は出来ないでしょう。

 チェイザルは斥候ですから、不意打ちなら1人は相手に出来そうですが、相手は複数人なのでその後は言わずもがなですかね。

 もちろん貴重な斥候を亡くしたくはありませんので、そう指示するつもりはありません。


 あまりしたくはありませんが、応援を頼みましょうか······


 今書いている文書を折りたたみ、新たな文書に『バリガモ』の目撃情報と戦闘員が欲しい旨を記します。

 書き終えた文書に封をして箱に入れておきます、あとは向こうからランクが高い人がくるのを待つしか無いですね。おおよそ10日ほどかかるでしょうか。

 ─────それまでは運を神に願うしかありませんね。


 それにしても、『バリガモ』の人達は此処に何をしに来たのでしょうか?





 その2日後のことです。


「────っ!」


 『バリガモ』の動向を見ようと探知の魔具を使用した時、背筋を這うような悪寒に体が強ばります。


 何でしょうかこれは······殺気でも威圧でないのはわかるのですが、だとすれば何をどうすればこんなにも人を震え上がらせることが出来るのでしょうか?

 混血のエルフとして300年以上生きては来ましたが、こんなものは他の2つ名持ちの人ですら感じたことはありません。師匠が激怒した際に横にいた私が感じたものに似ているでしょうか?



 場所はこのビージアス王都の中、平民街の中にいますね。


 一体これはどんな生き物なのでしょうか?もう一度使用しても場所が変わることはありません。せめて敵では無いと良いのですが······背に腹は変えられません、明日から『バリガモ』とこの正体不明の生き物のため朝昼晩に魔具を使用しましょう。




 


 翌日、朝に探知を使用すると平民街の方からこのギルドがある中央区に向かって動いているのが確認できました。探知をし続けていると昨日よりも強く感じます。

 時に停止し、時に速く動いていますね。小動物······では無いでしょう、あんなものを持っている小動物がいてたまるものですか。


 昨日から今日にかけて何も騒ぎ等は聞いていません。ですが万が一のため、直接見て確認しましょう。




 隠密の効果があるローブを羽織り、職員にひと言伝えてからその生き物へと向かいます。







「やっぱり人が多い······」


 その生き物······いえ、人はただの子どもでした。ドワーフの可能性もない訳では無いのですが、細身からして人族でしょう、短い黒い髪をしています。

 黒い髪は私が生まれた頃では迫害される対象でしたが、その後時間とともにそういった傾向は消えていきましたね。

 その身に在る魔力の量は私の数十倍はあると()()()()()、声を聞く限り男の子なのでしょうが、一体何をしたらここまで魔力量が大きくなるのでしょうか。


 それにしてもこの子、行動が読めないですね。先程から止まっては動き、動いては止まり······まるで自分以外の全ての人の通行を優先するかのように歩いています。路地から出てくる人を待つあたり察知能力は高そうなのですが、それなら上手く歩き続けることができるはず、どこかちぐはぐですね。


 そんな子がギルドの前まで来ると、先程まで動いて止まっていたのに対して一切動かなくなっていますね。

 何をしているのでしょうか?


「······今っ」


 なるほど、タイミングを計っていたのですね。たしかに人の流れは途切れたタイミングなのですが、後方からCランクパーティが近づいているのは気づかないのでしょうか?

 ふむ······もしかすると、この子は冒険者を知らないのでは?

 少しカマをかけてみましょうか。


 子どもの後に続いてギルド内へと入ります、このローブのおかげで目の前のこの子も、ギルド内の誰にも見つからずに入れます。

 裏を返せば魔具1つでここまで大胆に行動しても気づかれないくらいこの王都にいる冒険者たちの質は低いのですが······立地の関係上今は強い冒険者は来ることが無いのが残念ですね。


「登録ですか?」

「はいっ!?」


 驚いて振り返るその顔は、人族の子どもに間違いありません。髭をたくわえているならドワーフだと判断でき、この魔力量にもまだ理解はできるのですが······


「と、登録、です······」

「そうですか、それではこちらにどうぞ」


 丁度良いですね、彼のことを色々調べてみましょうか。


 過去に廃版になった旧記入用紙を取り出して渡します。これは詳細なことを強制的に書かせたため過去にギルド内で暴動が起きてしまい、その際にもっと簡易な質問内容5個で終了する現在のような用紙になったのですがね。

 旧記入用紙を使用すること自体は止められていないため、現在でも一部で使用されています······主に奴隷や囚人に対してですが。


 代筆を断ってペンが進み始めると殆ど止まることなく描き続けています、書きながら次の質問内容を読んでいるのでしょうか?だとするとかなり教養のある子です。


 この王都の冒険者のことは知らないので外から来た子なのでしょうが、これだけペンが進むほどの教養を身につけているのはいません。王都の周囲は村ばかりですし、そこからもう少し遠くなれば他の街の方が近いですからね。おまけにそちらの方が防衛設備が整っていますから安心して暮らせますしね。


 一瞬貴族の子どもかと考えましたが、それなら噂で少しくらいは耳に入るはずなのでありえません。

 それなら······私のようなエルフの血が混ざっているのでしょうか?


「はい、出来ました」

「ありがとうございます、それでは次にこの水晶に手を置いてください」


 犯罪歴の確認をしながら先程書いた用紙に目を通します。

 名前に家名が無い······なら貴族ではないですね。

 年齢は······12歳、それなら学園に入ればいいのでは?と思いましたが、魔法の欄に何も記入されていないのを見るとおそらく適性が無いのでしょう。私が生まれていない頃なら適性に関係なく入ることは出来たのですが、仕方がないですね。ルールには逆らえません。


 年齢詐称も無いでしょう。今手を置いていただいている魔具は『真偽の珠』、触れている者の真偽を問いただせるものです。さりげなく用紙を近づけましたが、魔具は白く光ったままですね。犯罪歴もなし、記入内容に嘘偽りもなし······つまりこの子は恐ろしいほど魔力がある人族の12歳だというのに、その魔力量を活かした戦い方を使ってはいないのでしょうか?


 ふむ······だとすると魔具の存在を知らないのでしょうか?······いえ、この子が魔法の袋を持っているので魔具については知っているはずです。


 ステータスで自身の魔力量を見れるはずなので、有り余る程の魔力量を持っているとは分かるでしょう。その価値に気づけないとは······この子の親はどんな教育をされたのでしょうか。


 怒りとため息を抑えて、さらに考えます。

 魔力量の価値に気づけないということは、そもそも魔力を使わない生活をする人達だと考えられますが······この子は人族なので、魔法自体その有用性を分かっているはずです。魔法すら見たこともない人達が集まれば魔法についての知識がない人が育つかもしれませんが、ステータスプレートに魔力が存在するのでその辺は存在しません。


 それより可能性があるとすれば、ステータスプレートの存在すら知らないことです。それなら魔力については何も知らない状態ですので、こうなることは有り得ます。

 いえ─────それだとどうしてこの子は魔法の袋を持っているのでしょうか?魔法の袋を持っているのは一部の人のみ。12歳の子が自分用に買うことは貴族と言えど殆どありません。


 魔法の袋は登録者の魔力量が内容量に関わってきます。となるとやはり誰かがこの子に魔法の袋を渡したということですが、この子に何も言わずに登録したというのですか?




 ─────考え出したらキリがないですね。他の可能性を考えた方がまだマシです。


 ほかの可能性があるとするならば、この子は人族ではないということでしょうか。用紙に種族を書き入れる箇所は存在しないので、真偽の珠でも確認できないでしょう。聞かない限りは、ですけどね。


 魔法に関係なく過ごす種族は、ざっと挙げるとドワーフ、一部の人獣種や獣人種、それとダークエルフの辺りですね。ですが12歳の条件を考えるとドワーフにしてはその体躯は大きいですし、全身から毛は生えておらず、耳も人族の耳なので人獣族ではありません。となると残った可能性はダークエルフですか······これについては12歳でもあの方法で確認できるでしょう。


「では次に」


 その方法とは私のようにエルフと対峙させること。それで何かしら嫌な反応があればダークエルフの可能性が高いのですが······向けられたのは興味、それも知識はあるけど見たことは無かったときました。やはり教養のある人族なのでしょうが、如何せん正体不明のままですね。

 このままでは埒が明かないので、しばらく様子を見ましょう。敵では無い様ですからね。






 『バリガモ』の様子をみるついでにあの子のことも少し見続けているのですが、どちらにも動きはありません。『バリガモ』の方にいたっては、何の情報も聞いていませんね。

 彼が『バリガモ』を倒している可能性もありますが、それほどの力を持ってして用紙にあんな内容は書かないでしょう。

 さらに監視を続けますか。





 あれから2ヶ月は経ちました。


 『バリガモ』の応援に来ていただいた方達は、その後1ヶ月程かけて捕縛していただきました、これで一安心です。


 人族の彼はまだFランクにいるそうです。

 そのランクですと報酬は宿代だけで無くなる程なのですが······彼の面倒を見ている(と自称する)クーラの報告では日にいくつもクエストを受けることで稼いでいるそう。

 確かにいくつも受ければ金銭面は大丈夫でしょう。それをすると他の人がクエストを受けることが出来なくなりますが、そういえば彼はFランクアップでしたね。Fランクのクエストは消化されず、たまに職員が荷運び等を行う程です。問題ないでしょう。


 あとは体調面ですが、あの魔力からするに、ほとんどの荒仕事でも大丈夫─────いえ、必ずしも魔力量が多ければ身体能力が高くなるとは限りません、体が弱いのかもしれません。

いえ、それだと日にいくつも受けることはできませんね。毎日そうしているならば荷運びや土木関係のクエストも受けているはずなので、力や体力は人並みかそれ以上はあります。


 通常、1ヶ月もすればEランクに上がるのですが、なぜ彼はそうしないのでしょうか?

 目立ちたくないのであれば、そもそも1日にいくつもクエストを受けなければいいだけです。そうすれば『小遣い稼ぎの子ども』として流されるでしょう。


 ならば彼がそうしない理由は?

 ······考えましたが、1番可能性があるのは『彼がモンスターが嫌いで一切戦うことが出来ない』というものです、今でもトラウマを抱えていればそういうことは有り得ます。かつて私の知り合いに1人、そういった人はいました。

 ですが、もしそうだとすればなぜ彼は冒険者になろうとするのでしょうか?


 彼がトラウマを抱えており、保護者がいないのであれば可能性としてあるでしょうが······


 もう考えるのはやめましょう、それよりも土地開発の方へ思考を裂きましょう。








「─────なっ!」


 探知の魔具の結果に、つい声をあげてしまいました。


 この王都が、多数のモンスターによって囲われているのです。

 ここビージアス王都は新しく出来た王都とはいえ、広さはそれなりにあります。その王都を囲える程となると、かなりの数がいます。それも、この王都内にいる戦闘可能な人では足りない位に。


 ただのスライムの集団なら良いのですが、あいにくとスライムには狙って物を囲う程の知識はない上に、ここまで沢山の数が広範囲で見られることはありません。とっくに別の生き物によって倒されていることでしょう。

 スライム以外だとここまで数が多いので、ウルフ系かゴブリンがメジャーなところ、この辺りでは聞いたことがないですがアント系やマジロ系といった地中に住むモンスターの可能性もあります。

 地中からの奇襲により崩壊した都市があったとおじい様から聴いた昔話にありました。


 もう1度魔具を使用してもモンスターの位置は変わっていません、とりあえず急襲は無いと考えましょう······首の皮一枚しか繋がっていないような感覚ですけどね。


 この魔具ではモンスターかそれ以外でしか判別出来ないので、どのモンスターが来ているかは実際に目で見るしかありません。私自身で偵察したいのですが、探知の魔具は私しか使用出来ないので、チェイザルに任せましょう。






 チェイザルを送ってから半時も経たずして帰って来ました。

 顔色を伺ってもはっきりとしたことは読み取れません。近いもので······理解に苦しむ顔でしょうか?


「どうしましたか?」

「······考えても分かんねぇ、ゴブリンを服ごと食べるような生き物なんて居たか?」


 ゴブリンを服ごと?そもそもゴブリンを食べるような生き物はモンスターのごく1部です。

 スライムの可能性もありますね。スライムだけでは倒せないでしょうから、誰かが倒したのを片付けた可能性はあります。

 スライムでないのなら、服まで食べるということは丸呑みした可能性が高いでしょう

 丸呑みする─────それほどまでに空腹であるなら多少種類は増えます。


「あぁあとな、辺りに血がついてた。全部ゴブリンのものだ」

「血?」

「あの量じゃ10体以上いたはずだ」


 血が辺りについているのなら丸呑みの線は消えました。それに、スライムなら血までも吸収していくはずなので、スライムが片付けたわけでもありません。


 血は必要無い、ゴブリンの死体と服は必要な生物なんていたのでしょうか?

 ─────まさか、アンデッドを?


 闇魔法に関しての知識は浅いですが、アンデッドになれば、元がゴブリンでも少しは戦える程度でわざわざ作るほどではありません、はっきりいって魔力の無駄遣いのはずです。

 

 それでもゴブリンのアンデッドを作るというのであれば─────いや、そんな無駄なことでも出来る?

 ゴブリンでも作れるほど魔力が有り余っているというのならば、そんなことをしていても強いことに変わりはないでしょう。

 ······その方が脅威ですけどね。


 アンデッドなら探知の魔具にまたモンスターとして映るでしょう。

 そう思って魔具を使用しても予想とは違い、チェイザルを送ったところには何も反応がありません。


 そう、何も


「一体何が······」

「あとな、今日の森は何か薄気味悪いな、それであの分かんねぇ惨状だ、中々奥には進めねぇな。朝まで待って人手を集めた方がいい」

「勿論そうしたいですが、相手は······ん?」


 相手はモンスター、人とは違い夜でも活動しているものは多いです。私が指揮するなら休んでいる人が多い夜を狙います。朝まで待っているとは思えません。

 

「チェイザル、奥まで行っていないとは?」

「さっき言ったのが森に入って直ぐのところにあんだよ、それに他のところでも本来住んでは無い近い距離にいた。奥まで行かなくても近い範囲に居るし、報告の方を優先しただけだ。あとな、奥の方に似たような気配は無かったぞ」

「他の気配は?」

「それも含めて何にも」


 ふむ、気配がないのはゴブリンの集団に食われたからでしょう。ここらでゴブリンより強いモンスターは森をそれなりに奥まで行かないと居ませんからね。

 それよりも、ゴブリンだけではここまで広がることはありません。別の何かが指示を出しているのでしょう。


 チェイザルに発見場所の詳細位置とゴブリンを見た範囲を報告させます。

 その情報と魔具の情報で大体のゴブリンの数が分かります。後ろにどんなモンスターが居るかは分かりませんが、ゴブリンだけでもこの王都の冒険者で対処しておきたいですからね。


「俺が見たのはこの範囲だ、んであの跡を見たのが多分ここだ」


 チェイザルが指で森に入って直ぐのところを指します。

 こんな所まで来ているのですか、尚のこと早く対処しなくては。


 これと魔具の反応を合わせれば─────




次回も別視点からすたーとです

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