29 ランクアップ──E
12000ぴぴぴPV······
ありがとうございますぅぅ!
明日ランクアップ用のクエストを受注するって言ったな、あれはう······そじゃなくてその前に色々やらなくちゃいけないことがあった。
僕を指名するクエストの消化と、配達や建築系のクエストのような常設ではないクエストを依頼している人にこれから先は受けることが少なくなる旨を伝えないといけない。
とりあえずランクアップする意思だけでも示しておこう。自分が忘れないようにね。
ギルドに入ってクーラさんを探す。ちょうど新しくクエストを貼っている最中だったので今は声はかけないでおこう。
えーっとその間にランクアップ用のクエストがどんなものかなっと······
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採取クエスト
ラキラ草の採取
報酬︰歩合制
付近に魔物がいる可能性あり、注意
ラキラ草に似た毒草と混同しないこと
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うん、紙を見て思い出したけど確か来た時に見たのもこんなクエストだったはず。こういうランクアップ用のクエストって変わらないものなのかな?
ん?下の方にまだ文字が書いてある。
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※常設になりますので、剥がさず受付にクエストを受けることをお伝えください
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確かに、剥がしてしまうとそのすぐ後にでもランクアップしようとしている人達がクエストを受けられなくなってしまう。
別に今は受けないから、受ける時には注意しておこう。
「あ、ヴォル君。来てたのね」
「おはようございます、クーラさん」
クエストを貼り終わったクーラさんに、もうすぐランクアップ試験を受けることを話す。
『今すぐじゃないの?』と聞かれたので、朝考えていた理由を話す。
話を聞いている最中にクーラさんは目元を手で拭うような仕草を······涙?
「クーラさん?」
「ぐすっ、ヴォル君がこんなにも立派になるなんて······見守るって、こうなのね」
言われ方が不本意だが、とりあえず伝えれたのでよしとしておこう。
案の定というかいつも通りというか、クーラさんを泣かせたと周りの冒険者たちから言われながらも、僕に指名がかかっているクエストを手に取って受付に行く。
この量ならついでに出来るクエストを受けても明後日にはランクアップ試験を受けれそうだ。
それから2日後、Fランククエストお終わらせた僕は、切り株残る林の前に来ていた。
クーラさんからこんこんとクエストの内容や森の危険について聞かされたせいで、もう昼を過ぎてしまっているけど気にしない。
クーラさんはそんなに僕に話していて受付をしていなかったけど大丈夫なのかな?聞かされている間に列ができていることは無かったから大丈夫だろうけどね。
森については毎晩入っているからモンスターも地形も把握している。なんなら入って数十分歩いたところでも王都の方角が分かるくらいに。
あ、でも昼に森に入っていないからどうだろう?
強い動物は夜行性が多いと勝手に思っていたけど、この世界にそれが当てはまるとは限らない。
「いざって時に盾を買っておくべきだったかな······」
もしかすると剣が折れるかもしれないと思い、鞘が付いていない分値が下がっている、店内じゃそこそこの質と言われた剣を買っておいた。
······というかなんで採取クエストなのに剣を買ったんだろ?
まぁいいか、夜と同じような敵ばかりなら何も問題ないからね。
ふと遠くの方でパーティを組んでいるのか冒険者らしき人が数人固まって森に入っていくのが見えた。
「そうだもんね、人は夜よりかは居るよね」
夜でも数人は見かけたことがあるけど、その何倍はいるはずだ。
できるだけ鉢合わせしないようにしないとね。
となれば、できるだけ浅い所で採取しよう。幸いなことにこのラキラ草は森を歩き回っている間に何本か見かけたことのあるものだ。群生地は見つけていないから一気に沢山は見つけられないだろうけど、コツコツ見つけていこう。
「あった、これこれ」
ラキラ草は意外とすぐ見つかった、白い花で花びらが広がるようにして咲いてはなく、筒みたいにくっついている。
おっと、毒草と間違えていないか確認しないと。授業でやった雄しべと雌しべにあたる部分の色が違っているのが毒草だっけ。うん、同じ色だからラキラ草で合ってる。
毒草は毒草で使い道があるらしいから、どっちみち採取はするんだけどね。
あとは採取するだけなんだけど、ラキラ草は根っこも必要だからただ引き抜くだけだと根っこがちぎれてしまう。
ならばどうするのかというと、魔法の袋を使う。
ギルドから借りてきたスコップ(手持ちの方)を使って周囲の土を大きめに掘り下げていく。
やり始めてみたけど、思ったよりこれキツい。こんなのだったらシャベル(足をかけれる方)を持ってきたらよかった。ギルドに置いているとは考えにくいけどね。
一瞬『掘るだけなら剣でいいのでは?』と思いついた考えは即座に放り投げ、無心になることだけを考えて掘り下げる。
無心になる雑念が入ってしまい無心ではいられなかったけど、そのおかげか『気づいたら長時間経っていた······』なんてことはなかった。
そんなに時間をかけずにラキラ草が生えている所を半球状にくり抜くことが出来た。
そうしたら魔法の袋の口を広げるように軽く伸ばしながら押し込むように土に当てると、土ごとラキラ草がしゅるんと魔法の袋に入る。
瞬間、魔法の袋の中の情報が更新される。
「よしっ」
思い通りにいって、ついガッツポーズをしていた。
頭の中に浮かんだ情報には、
・ラキラ草✕1
と追加されていた。
土も増えているはずなんだけど、前々から容量の確認のために土を入れたりしているから数字は増えていない。増えていない······ということは単位が大きいはずだけど、その数字が863なので一体どの単位なのか気になってしまう。キログラムが妥当だろうけどねぇ。
袋からラキラ草だけを取り出そうと手を突っ込むと、まるで水で綺麗に洗ったかのように土が一切ついていないラキラ草が取り出せた。しっかり根っこもついている、それにちぎれたようなところは見当たらなかった。
これがもし根っこを切った状態で魔法の袋に入れたら中はどうなるんだろ?違う枠でカウントされるのかな?
実験するのは後回しにするとして、今日はできるだけ採取しよう。さっきの感じだとあと十前半くらいは掘り起こせそうだから、目標は15本で!
それからはなにもトラブルは起きず、逆に2本や3本も1ヶ所にまとまって生えていたのが結構あったので、陽が沈む前には25本を超えるラキラ草と1本だけ毒草が手に入った。
毒草は魔法の袋に入った時に
・毒草✕1
と表示されたのでそれで分かった。間違ったとしても魔法の袋の中で仕分けれるなら安心だ。慣れてきて最初にラキラ草かどうか確認するのを飛ばしたせいで起こってしまった、でも今度からは飛ばしていいのかもしれない。
ちなみに、毒草の名前を覚えていなから『毒草』とだけ表示されている。
僕の推測だけど、魔法の袋の情報は所有者の知識で作られていると思う。
毒を持っていると知らなかったら、毒草を入れた時に今ある『草✕112』の方に入るはずだからね。······いつの間にそんな多く採ったっけ?
まぁいいか、これで帰ってから毒草の名前を聞いたり他の草のことも調べて数字が変われば証明できる。
「おっと」
ついそのままギルドに入りそうになった。
危ない危ない、魔法の袋って全員が持っているようなものじゃないからギルドじゃ見せないようにしないと。
慌てて近くの道具屋に入って背負うタイプの籠を買った。何となく栗拾いで使いそうな編まれた籠だ。
中にラキラ草をそっと入れて、と。半分くらいまでしか埋まらなかったけど大は小を兼ねる、効率よく採れるならもっと採れているだろうから、別に今の量と釣り合う籠をわざわざ買わなくてもいいだろうしね。
フードを被って籠を背負う······外見が不審者にしか見えないや。早く視線に慣れなきゃ······
「あっ、ヴォル君お帰りなさい」
「た······ただいま、です」
ギルドに入るなり、受付の机を拭いていたクーラさんに声をかけられる。
未だに家や宿泊施設以外で『おかえり』と言われた時の返しをどうしたらいいか分からない。普通に『ただいま』で大丈夫なのかな?
とりあえずクエストの達成報告をしよう、ちょうどクーラさんもいることだし、このまま報告しますか。
いつの間にクーラさんも席についているからね。
「先に言ってくれれば籠くらいギルドから借りれるわよ?」
籠、借りれたんだ······スコップを借りる時にもっと周りを見ていれば見つけれたのかもしれない、か。
「······クエスト達成確認、お願いします」
今更後悔しても遅い、穴が開いているのを貸し出されるよりかはマシと思い。背負っていた籠をそっと台に置く、机の横には少し低い台があって、そこに討伐証明の部位等を置いて確認してもらうシステムだ。
確認は人力、そこは台自体が魔具で置いただけで鑑定されるようなものかと思ったけど、そういう魔具は無いのかもしれない。
「えと······ヴォル君、これ全部?」
籠の中を見るなり、歯切れの悪い声で聞いてくる。ちらっと顔を伺ったら口元がピクピクしている。
全部って言ったよね、ってことはこの中に毒草が混じっているかどうかってことかな?
「はい、ちゃんと確認しましたよ?」
「ヴォル君は本当にもぅ······」
何故かため息をつかれたんだけど?あと『本当に』って何さ、前々から何を思ってたのさ!
いや落ち着け、落ち着け······大丈夫、半日とはいえ30本もないんだ、何本か固まって生えていたと言ったら問題ないはずだ。
「ちょっと待っててね」
クーラさんはそう言うと、籠を抱えて奥の方へと行ってしまった。おそらく中の本数とか品質とかを確認していると思う。
少し時間が経って戻ってきた。
「ギルドカードを出して」
言われた通りギルドカードを渡すと、クーラさんはいつものようにクエスト達成の手続きを行う。
心なしか、いつもより水晶が明るく光った気がする。
「ランクアップ、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
灰色に変色したそのギルドカードには、
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ヴォル
パーティ︰
ランク︰E
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しっかりとランクにEの字が記されていた。
それを見るだけで何かこう、グッとくるものがある。
「それと、これが報酬金」
クーラさんは籠の中へと手を伸ばす、そこからあげた手にはお盆と、そこにいつもと色が違う貨幣が積まれていた。
ざっと数えてこれまで1日で稼いでた分の6倍、1週間分の宿代を払ってもお釣りがある。
「······銀貨?」
「そう、ヴォル君の持ってきたのは土がついていないから洗わなくていい分高く買い取るの、それでこの報酬金よ」
土がついていないだけでこんな大金になるの!?
「えっと、もし引き抜いた土がそのままついた状態だったら······」
「私が正確に量るんじゃないんだけど、大雑把に言うと半分くらいかしら」
半分になってしまうのか。そんなに手間になるわけじゃないと思うんだけどね。
「それに、どうやったのかは聞かないけど、半日とはいえ量も多かったし、根や葉っぱがちぎれたりしていなかったのも買い取り値に影響してるわ」
量が多いのは似たような花を至る所で見た記憶があったからだし、土がついていなかったりちぎれたりしていないのは魔法の袋のおかげだ。半分以上魔法の袋のおかげで今の金額になっている。魔法の袋、使い方次第で更に色々なことができそうだ。
もちろんこのことを喋る気はない、夜な夜な森に入ったり魔法の袋を使ったりと言ってしまうとクーラさんにも悪いし、とてつもなく嫌な予感がする。具体的にはトラブルに巻き込まれそうな感じ。
「何はともあれ、これからは殆ど城の外でクエストをこなしていかなくちゃいけないから、くれぐれも危ないことはしないこと、いいわね?」
「はい、もちろんです」
口を酸っぱくして言われた注意も、周囲の森を把握できている身としてはもう遅いや。
それに、今泊まっている宿は壁の外側にあるんだけど······これは言わぬが花ってやつだよね?
でも油断は禁物、森にいる時もいない時も、周囲にモンスターが居ないか確認しなきゃね。
色々あったけど、Eランクにランクアップ出来た。Dランクに上がるにはクエストを30個クリアしないといけないようで、1日1つやるとして1か月間はかかる。
『1か月間かけて外に慣れて死亡率を減らしたいってギルドの考えね』とクーラさんが教えてくれた。
まぁ1日1つじゃなくて2つも3つも受けれそうだから半月あればDランクに上がれそうだけどね。
Eランクに上がったので、今日はもう受けないけどどんなクエストがあるか見てみようかな。
「あれ?」
Eランクのクエストが思ったより少ない。
今あるのは草の採取が3種類と討伐が2種類、その討伐もスライムかゴブリンしかなく、ゴブリンに至っては2人以上でしか受けられないみたいだ。これならFランクの方が数は多い。
1つ隣にあるDランクのクエストを見てみると、ゴブリンの巣の調査だったり遠い場所のダンジョンに入るクエストだったり、御者の護衛だったりとバリエーションに富んでいる。
Dランクになって一気にクエストの種類が増えるみたいだ。その為にモンスターと戦うのに慣れるため、Eランクを設けているように感じる。
ふと『こんなことなら最初にDランクかEランクに入っていればよかった』と思う頭を、手のひらで軽く小突いて止める。
いや、人数比率的にはFランクよりもE・Dランクの方がそれぞれ多いんだし、入っていたとしても何も問題はないはずなんだけど、なんだか自分の信念を曲げるような気がして止めてしまった。
Eランクのクエストが少ないとはいえ、この3種類ある草の採取クエストはこのランクにしかないようで、おそらくEランクの冒険者がいなければ供給は絶たれてしまう。使用用途は分からないから後で調べるとして、必要だからクエストにして集めているので余裕があれば毎日やっていこうかな。
······ちょっと待って?僕毎晩森に入ってはモンスターを倒しているわけだけども、それってクエストの対象のモンスターまでも倒してしまってない?
これからは依頼板を見ながら動かないと······