3 選ばれました
1ヶ月に1話は流石にしたくない!
ってことでどうぞ
「おめでとう!荒田一也君!君はスキルテスターに選ばれたんだ!」
両手をバッと広げて、目の前の子供はそう言う。仁王立ちでドヤ顔で言っているが、手に引っ張られて広がる紫のマントのせいで、余計に小さく見える。僕はそれを胡座をかいて見ていた。
ってあれ?僕寝てたはずなんだけどな……起きた記憶もないし、なんでこんな、何も無い部屋に?
いや、部屋じゃないな。壁がないから、空間だな。どこまでも真っ白で、ずっといると地面の感覚までなくなってしまいそうだ。せめて床くらいは違う色にしておいて欲しい。
気になることが沢山あるから、目の前の子供に聞いてみるか。
「あなたは誰?ここはどこ?わたs、スキルテスターって何?」
相手が口を開ける前に矢継ぎ早に質問を続ける。つい違うことを言いそうになってしまったけどね。
「1つずつ答えていこうか。僕はエグザーム、スキルテスター担当の神様だよ。まだ新人だけど。」
自嘲気味に言っている、目の前の小学4年生くらいの子供を見る。
神様?こんなにちっさいのに?
「君、今ちっさいとか思わなかった?」
はい、思ってました。心を読まれてしまった、ということは神様に違いない。今後一切ちっさいことを思わないようにしよう。
だからあの……無言の笑顔は……怖いからやめてくださいお願いします。
「まぁいいか。僕が君をスキルテスターに選んで、色々と準備をしてから、ここ、神界に呼んだんだ」
「準備ってもしかして、僕の夢のアレのこと?」
「そうだよ、それは君が憑依する形になるお相手さんの記憶だよ。あと、今日起こったノイズもね。あれが完了した合図だよ」
それもだったのか。スピーカーが壊れたわけじゃなかったんだな。記憶ってのも、僕が予想してた通りだったな。全部の記憶が小さい頃の記憶だったけど、憑依する時も小さいのかな?
それにしても、神界にいて、神様は退屈しないのかな?
「ここはスキルテスターと会うだけの部屋だから、退屈なんてしないよ。いつもは自分の部屋でスキルテスター達の動きを見て、異常があったら上司に報告するだけだしね」
それっていわゆる引き「あっ、引きこもりなんかじゃないよ」いや、部屋にこもってるなら引きこもりなんじゃ……
「スキルテスターっていうのは、スキル創造神が作ったスキルのうち、使えるか使えないか判断出来ないスキルを異世界で実際に使ってもらって、効果を試してもらう人達のことさ。
例えば、スキル『進化』なんて、使えるかどうか分からないだろ?そんな時に他の世界からスキルテスターを選んで、そのスキルを試してもらうってことさ。名前負けしていて、実際使ってみると壊れスキル。なんて事もありえるからね。
まぁ要約すると、スキルをあげるから、異世界で死なないように自由に暮らして、ってところかな?」
なんだそれは、スキルをくれるし、自由に暮らしていいなんて、良いところがありすぎるだろ。裏があるんじゃないのか?
「もし死んでしまったらかなりのペナルティとか……」
「そんな事ないよ。死んでしまったらその時はその時、君は元の世界に戻されるし、僕は僕でまた違う人を探して、スキルテスターに選ぶだけさ」
ペナルティもないのか、優しすぎでしょ神様!でも、今『また』って言いましたよね?
「あー、別に裏があったりはしないからね。こっちとしては『スキルが使えるモノか否か』さえ分かればいいから、その分だけ生きてくれればいいんだよ。
異世界で死んでしまう人も少なくはないし、いらないスキルに当たってしまった人もいたし。そう考えると、これでちょうどいいんだよ」
そういうことなのか。なんだかそれっぽい話でまとめられたような気がするんだが……
「スキルテスター、受けてみないかい?」
もし死んでしまっても、元の世界には帰れると言っていたし、異世界を自由に生きていいと言っていた。条件が良すぎて、受けない理由がほとんどない。けどその前に……
「いくつか質問しても?」
「あぁ、いいとも」
「なんで僕が選ばれたの?」
これは思った。スキルテスターに選ぶとしてももっと図体の大きい人や、体を鍛えまくっている人とか、物作りの天才とかいるんじゃないのか?
「それは、君が暇そうだったからさ」
「へ?」
思わず間抜けな声が出る。なんだよ暇そうって、僕はGWにやりたいことが沢山あるんだぞ。ソシャゲとか、ファンタジー小説を読んだりして……あっ、暇だわ。
「選ぶ人の最低条件として、『絶対にしなくてはならないことがある人は除外する』というのがあるんだ。
さらに選ぶ好条件として、こういう非現実的な事が起きたとしても、パニックを起こしにくい人がいいともあったからね」
確かに絶対にしなくてはならない事なんてない。テストはまだだし、宿題は学校にいる間に終わらせてあるからね。
それにこういう非現実的な事は、パニックよりワクワクの方が大きい。ファンタジー小説を読むたびに、異世界に憧れていたからね。
「異世界ってどんなところ?」
「おっ、受ける気満々だね」
異世界の状況とかにもよるんだけどね。憑依してすぐ死んでしまった!とか、異世界は原始時代だった!とかは実際やめてほしい。
「世界の名前はエフォール、女神ミューグが、君のいた世界を真似して作った世界だよ。元の世界と比べると技術や学力とかは劣っているけれど、魔法があるから、一部は元の世界と同じくらいか、優れているね。
種族も沢山いて、人族はもちろん、エルフ、ドワーフ、魔族に魚人族まで。全部あげたらキリがないからあとは自分で確かめてね。
魔王もいることはいるんだけど、戦うのはオススメしないよ。すっごく強いし、一部の魔族しか知らないような場所に住んでいるみたいだからね。
勇者もいるよ、大体が転生者だから、話して味方になっておくといつか助けてくれるんじゃないかな?
そうだ、スキルテスターについては、あまり人に話さないでね。まぁ話したところで、誰も分かってくれないだろうけど」
神様は一気に喋りすぎたのか、いつの間にか手に持っていたコップを傾ける。
それにしても、異世界モノの小説の世界そのまんまだな。そのまま俺TUEEEEならぬ僕TUEEEEになってくれればいいのだが。
「まだ質問はあるかい?」
「はい、憑依って言っていたけど、体ってどうするの?あと体の持ち主の意識とかも」
「体かい?体はあっちの世界の体を使うんだよ」
「どうやって?」
「死にたてほやほやの体に、君の魂を入れるんだよ」
聞いていてぞっとする。それってゾンビとかの類になってしまうんじゃないのか?
他の人が憑依した体を見て『生き返った!』とか『ゾンビだ!』とか言って襲ってこない……んだろうな、そこくらい神様は考えてくれているだろう。
「もういいかな」
「はい、もういいです。スキルテスター、受けます」
「おっけー、じゃあそこから動かないでね」
言われた通り、胡座をかいたままじっとしておく。目の前で神様が懐から水晶玉を取り出し、何かを唱える。水晶玉の入るスペースなんて無かったような……
「起きたら水につかってるけれど、くれぐれも低体温症には注意してね」
え?今、体は水の中にあるの?僕泳ぐの苦手だよ?
「それじゃあ頑張ってね、行ってらっしゃーい!」
いきなり僕の座っていたところが黒く変色する。それと同時に、重力が働いて、なすすべが無い僕はされるがままに落ちていく。
あ、聞くの忘れてた。
「スキルとステータスの説明、してもらってないんですけど〜!」
届かないことは分かっているけれど、上に向かって叫んだ。
「忘れてたテヘペロ」
そう聞こえたが、きっと空耳だろう。
文章力をつけたいですね