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28 多忙なFランク冒険者

 今日も今日とてクエスト受じゅ······受注しよう。


「ねぇヴォル君」

「なんでしょうか?」


 依頼板から剥がした5枚の紙を受け取ったクーラさんが紙をヒラヒラと揺らす。


「こんなにも一気に受けて大丈夫なの?1度ここに戻って受け直した方がいいんじゃない?」

「えぇ、特に時間が重なることはないですから。それに、前に5つ一気に持っていったりしませんでしたっけ?」

「そうよね······本人がそう言うのならギルド職員としては何も言えないけどね······」


 どうやらクエストが完遂出来るか心配になっているみたいだ。

 前に5つ一緒に持っていった時に凄く心配されて、その時に『殆どの冒険者は1枚か2枚しか持ってこないわよ?時間が余ったら2枚目、3枚目を持ってくる人はいるわね』と教えられて、なんとも非効率な受け方なんだろうって感想しか出てこなかった。


 何度か受けたら大体の時間は把握できるだろうし、そこから大体の感覚で日にいくつクエストを受けれるか、どれを受けれるかは何となくわかると思うんだけど······ちなみに僕はゲームでメインクエストといくつか受注してタスクしているサブクエストを同時進行させていた経験が役に立っている。


 選んだのは同じ方角の荷物の配達が2つ、あとは犬と狼の間に生まれた様な生き物の散歩とお昼の炊き出し(城壁の建設とは違う場所)と、前に受けた外側の城壁の建設の手伝い。

 建設の手伝いを午後だけにすることで、筋肉痛を起こすことなくだらけずにやりきろうって考えだ。


 受注が完了した紙と配達する荷物を持ってギルドを後にする。

 午前中の分を多めにクエストを受けたから、少しキビキビ動かないとね。






「はい、全部終わりました」

「······本当に大丈夫だったわね」


 クエストを達成させた証明に依頼者のサインを貰っている5枚の紙を見て、ふぅと小さく息を吐いた。

 ため息かな?でもなんで?


「どうかしたんですか?」

「どうしたも何も、ヴォル君が1度に何枚もクエストを受けるから私達成出来るか毎回心配してるのよ?それに今日はフードを被っているし、何かあったのかと思ったのよ」

「それは······すみません」


 案の定心配されていた。

 フードを被っていたのは肉体労働で疲れた体にさす日の光が痛く感じたからだ。夏でもないのにこんなになるなんて、もっと日射しが強くなったらどうなってしまうことやら。


 これも鍛えなきゃ······とは思うけど、これどうやって鍛えたらいいの?天然日焼けサロンでもする?


「それにね」


 まだあるんですか?


「休みなく毎日クエストを受けてるからいつ倒れるか心配してるのよ?」

「うっ······」


 確かに1つもクエストを受けなかった日は無い。例え雨の日でもちょっとした荷物配達やお店の手伝いなどの室内でできるものを選んでまでクエストを受けていた。


 そこまでして受ける理由は単にお金を稼ぐためだ。

 クエストを受けず稼ぎが0の日でも宿に泊まったり食事をしたりで出ていくお金はいつもと変わらないのだ。


 雨雲の予想なんて聞いたこともないこの世界、『もし雨が振り続けたら······』と考えると懐が素寒貧にならないように稼がないといけない衝動に駆られてしまう。


 幸いなことに体は丈夫なようで雨に濡れても風邪を引かないし、雨でもできるクエストがそこにあるんだ。そんな状況なら誰だってクエスト受けるよね?


「えっと······体は丈夫なので」

「でも無理はしないこと、わかった?」


 クーラさんの気迫に押されて、思わず頭が縦に振れる。


 あぁ······周りからの目線が痛い······

 フード様々だよ。ほんと。




 明くる日、言われた通りに無理はしないように6つ(荷物配達4つに散歩と子守り)のクエストを持っていくと周りの冒険者が振り向いてしまう程の声で怒られた。

 昨日より疲労度は少なくなるはずなのになぁ······


 ちなみに僕がカウンターで怒られているのは当たり前と思われているのか、『クーラさんを怒らせんじゃねぇ!』といった声は()()かけられない。中には『お前ちょっとは休め』とお酒を渡してくる人もいた。あの人は確かドブ掃除したところの近くに住んでいた人だっけ?

 なんにせよ、僕を思いっきり嫌っている人がいなくていいことだよ。


 え?怒られているだろって?

 ······わーいおかねかせげるー




 『そんなに働いていたらお金は稼げているんじゃないの?』と疑問に思う人もいるだろうけど、まだまだ全然足りないのだ。

 報酬金なんて丸1日かかるクエストならいいんだけど、他のは少し多めの小遣いだよ?1日1クエの日々じゃ赤字だよ?


 ······と思ったけど、僕と同じFランクの冒険者とはクーラさんは言っていなかった。

 つまり、クーラさんの言っていた『殆どは1枚か2枚』は全てのランクの冒険者のことをさしていて、全てのランクの平均がそうなっている訳で。

 そりゃFランクの何倍や何十倍もの報酬金が出るクエストなら毎日1つ2つで足りるのは確実だ。それに休みだって普通に出来るだろうしね。


 それならランクを上げて新しい依頼を受けたらいいだけの話なんだけど、『そうだね、それじゃあやりますか』でやれる話じゃない。

 制限とかの話じゃなくて、いやそれでもあるのかな······?僕の気持ちの問題なんだ。



 ゲームで存在するクエストとかイベントは、飽きが来ない限り一通りクリアしたくなる性格なので、日が経つにつれて少しづつ数もその種類も多くなるFランクのクエストはやっていきたくもなるし、『まだ続けて受けていたら新しいのが入るんじゃないかな?』と思える限り続けていこうと思っている。

 でももう既に来た時より3倍くらい数が増えているんだけど、まだ増えるのかな······?


 それに応えるようになのかは多分違うけど、僕を指名して依頼をくれる人が数名出てきたんだ。

 主に······ふさわしい単語が見つからないんだけど、大雑把に言えば対生き物のクエストだ。

 もちろん討伐なんてものはなくて、散歩だったり子守りだったり、どこから知ったのか料理の手伝いをして欲しかったり。

 もうクエストの内容が冒険者の粋をはみ出ていて、ギルドを通した何でも屋みたいになっているけど、ギルド的には大丈夫なやつなのかな······?他の冒険者からは何も言われていないし、ギルドもそのクエストを貼っているあたりルール的なやつには触れていないはずだ。

 まぁ指名する分多少なりとも報酬金は上がっているわけで、見つけ次第優先的に受けていっている。


 そんでもってここが大切な部分、自分よりランクが下のクエストを受けた場合、報酬金が下がってしまうのだ。

 確かにそうしないと、保守的な考えの人がたくさんいたら下のランクのクエストが無くなってそのランク帯の人が困ってしまうもんね。

 ただ、この制度はEランクとFランクの関係でも適応されるわけで、報酬金が少ないものがさらに少なくなったらもう稼げなくなってしまう。クーラさん以外の受付嬢の1人に聞いたらそう言われた。

 流石に半分とまではいかないけど、かなり減ってしまう。

 例え指名されたとしても、まだ元の報酬金に届かないくらいに。

 これだと頑張っても日々の出費で差し引き0か屋台の小さな食べ物1つ分くらいしか稼げない。

 そうなるともし武器が壊れてしまったりすると新しく買うのにお金が無い状態、病気とかにかかってしまうともうおしまい。

 残るお金が無くなるのが先か、病気が治るのが先かのお先真っ暗なレースが始まる······今のところは熱以外病気になったことがないのでなんとも言えないけどね。

 あれ?そういえば村にいた時に病気とか、かかった人はいなかったような······


 あっと、もう1つ大事なことを忘れていた。僕以外にFランクのクエストを受ける人、またはFランクの冒険者が少なすぎるんだ。

 やっぱり最低ランクとなると人は少なくなるよね······報酬金も少ないしね。

 僕以外にもFランクの冒険者は少しはい()と言われたことがあった。うん、僕も早く沢山お金を稼ぎたかったらそうするね。


 どこかの小説にあったようなEランクに上がるのが早すぎると少し目立つなんてことは無いようで、むしろ登録時に実力を見せてFランクを飛ばしてEランクやDランクから始める冒険者もそれなりにいるらしい。

 『登録時にそういったことを確認しますよ』と言われ、そんなのは無かったと記憶を辿っていく。

 そういえば······登録時に記入した紙、あれは最後の方は魔法関係だったから結構飛ばしたんだけど、もしかしてその中にあったのかもしれない。終始直感で書いていたせいで、その辺の記憶が曖昧だ。


 ともかく、最初からDやEランクの冒険者が多くなってFランク冒険者の人数が少ないから、それに比例してFランクのクエストを消化するペースも遅くなっている。

 そんな中僕がEランクに上がってFランクのクエストを受けなくなると、クエストが溢れてしまうのは手に取れるようにわかってしまう。


 どうしたものか······






 考えてもなんだか思考が前に進めていないように感じたので一旦打ち切って、寝る!




「うーん、すっきり」


 目が覚めてもまだ夜だというのにまるで半日ほど夢も見ずにぐっすり寝たように体も頭も覚めている。

 こんな能力が欲しかったなぁ······あったら徹夜でゲームしても居眠りすることなく普通に学校生活を過ごせるじゃん。




「今日はあっちね」


 そこら辺で拾った棒をくるくると回して倒れた方へと走る。

 毎晩外に出てはちらほら見かける倒せそうな敵はもれなく倒しているのだけど······気持ち敵に遭遇する回数が多くなっているような気がする。でも特段多いわけでもなく、今日は(エンカ)が多い日なのかなと思い、目の前の敵に狙いを定める。


 木をつたって移動していく猿のような生物の、木から木へと飛び移る、その空中にいる瞬間を狙って剣を投擲する。

 空中で移動する手段が無いようで、片手で剣を防ごうとした腕ごと、強く投げた剣が体に突き刺さる。


「ふむ」


 剣の投擲はまだ慣れていないけど、これなら狩りの1つの手段として使えそうだ。


 他にはアニメみたいに木の枝を足場として飛び移りながら追っかけていったり、剣をブーメランのように回しながら飛ばす方法もあることはあるのだけど、前者は前に試した時に少し強めにした瞬間ミシッと嫌な音が聞こえたし、後者は柄の方が当たってしまうと傷もつけられないと考えると投げるのを躊躇ってしまう。


 全部が刃になっている剣があればなぁ······いや、それだと投げることはおろか持つことすら出来ないじゃん。

 うーん、それなら持ち手の部分以外を全部刃にして投げやすくすれば······んーでも、それでも刃の部分が当たらない確率は0じゃないから······


 そんなふうに考えている間にも、飛び出してきて葉っぱついたままのスライムや、武器を作成中のゴブリン、後ろから奇襲をかけてきたウルフも切り捨てていく。


「この森にも慣れてきたかな?」


 でも深くまで潜ったわけじゃない。夜間に全力ダッシュで行ける範囲を全て見た訳じゃないから、いきなり敵が強くなっている······なんてこともある。


 まぁ、ないかな。それならもう既に王都の方まで強いモンスターが流れているはずだろうしね。


 それに、ギルドに貼ってある簡易的な地図を見た感じ、王都から今僕がいるこっち半分ほどは先が崖になっているみたい、それもかなり遠いところに。

 その崖のおかげで強いモンスターが来ないと考えている。


 1度その崖まで行こうかなと思って森の中を人目も憚らず本気のダッシュついでに走ってみたけど、夜も半分というところでも崖どころか岩場とかの森とは違った景色すら見えなかった。今思い返せば地図でかなり遠かったのになんで走ったのだろ?

 悪路走行の練習になった······って思うしかなかったよ。


「あれ······?」


 いつの間にかゴブリンの死体が増えていた。傷を見る限り斬られて死んだような······って僕か。


 首を大きく振って思考をリセットする、いくら思考中でも敵を倒せるとはいえ、ここのモンスターが全部その強さというわけじゃない。

 僕よりも何倍も強い敵がうじゃうじゃいる、そう思いながら歩かなきゃ。


 とりあえず倒したゴブリンの死体を魔法の袋に入れようとして、本当に今更ながら気づく。


「あれ?ゴブリンってどのランクの討伐クエストだっけ?」


 王都に来たばかりの時に見たはずなんだけど、EランクかDランクに上がるためのクエストかその辺に書いていたはず。


「······力量はあるってことか」


 さらに言うとルイスとの最後の模擬戦で見せた本気もまだ出していない(まだ練習中だ)から、Dランクよりも上に行けるはずだ。


 なぜランクを上げないかも理由はわかっている。


 袋に骸を入れ、その場でひとつ深呼吸しながらこれまでを思い返す。






「······なんだ、何がしたかったんだろうか。僕は」


 考えてみれば至極単純なことだった。

 『僕がいなければクエストが溢れる』とか『指名される』とか色々言っていたけど、元を辿れば全部『目立ちたくない』って考えがあったからだ。

 『目立ちたくない』を悪いことだと思い、正当化するように色々なことを考えていたせいでその本質がどこかへ消え去っていたみたいだ。


 クエストが溢れるのも指名されるのも、事前に街の皆さんに『ランクアップするので受けられません』とひとこと言っていれば解決する。

 なら問題ないじゃん。ほんと、ずっと悩んでいたのがバカみたいだ。


 思い立ったが吉日、今はさすがにギルドが開いていないだろうし、明日朝にランクアップ用のクエストを受注しよう。


 ランクアップ用のクエストって何があったっけ······そのモンスターは残しておかないとね。


 じゃあその他のモンスターで全力で動ける練習を──────




○●○●




『──────うだ、囲むようにして数を増やしていけ』

『はっ』


 森に埋もれた洞穴の奥で、大きな影と小さな影が炎に揺られる。


『少しづつで構わん、あいつらに気取られぬよう着実に数を増やしていけ』

『はっ、既に周囲のゴブリン達を集めて拠点を作らせております』


 洞穴にも関わらず、そこに反響する声はない。強いて言えば虫の羽音くらいだ。


『首尾は上々だな、次は街道に伸ばすように勢力を広げていけ』

『仰せのままに』


 数分後、堪えきれないような笑い声が洞穴に響いた──────




○●○●

書けたけどこれ読み返したら必要な話かわからなくなってきた······まいっか

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